24.壮行会
壮行会当日。準備のために休みとなったルシェは直接店へ向かうことになり、他の三人は仕事後に集まってから一緒に店へ向かっていた。
「普通に喋れるかなぁ」
イオルは不安を隠せない。
「平気だよ。ルシェもそんなに子供じゃないって」
「俺もフォローするし」
「ベルロイが出てきたら事態がややこしくなるでしょ!」
即座に突っ込まれて、ベルロイは声を出して笑う。
「笑い事じゃないってば!」
「ごめんごめん。でも、リコルの言うように大丈夫だと思うよ」
「……根拠は?」
「うーん、男の勘?」
「もう! 適当なこと言わないで!」
イオルが再び突っ込むと、またベルロイはおかしそうに笑った。
「……何だかんだ、仲良さそうよね、お二人さん」
静観していたリコルがぼそっと呟く。
「そうだね」
「そんなことない!」
声を合わせて対照的なことを言う二人を見て、リコルはやれやれと笑うのだった。
***
店に入ると、ルシェは既にそこで三人を待っていた。
「お待たせ!」
「どうも」
「主賓を待たせちゃってごめんね!」
リコルはいつもの調子でそう言ってルシェの前に座る。ルシェの隣にはベルロイが、イオルは対角線上だ。食事を頼むとリコルがルシェに話しかける。
「明日からの準備はできた?」
「はい。一日時間をもらいましたので。キースさん達はもう出発したんでしたっけ?」
「そう、今日ね」
リコルは寂しげな笑顔を浮かべる。
「行く前にちゃんと会えたの?」
「うん、昨日も会ったよ」
「キースさんも寂しがっていたんじゃない?」
「寂しがってたっていうか、何故か私の心配をされたよ。兵士の数が減るから、変に目立ったりしないか、とかね」
「キース様らしいわね」
慰めるように口々にリコルに声をかけたので、いつの間にか四人での会話が成立していた。四人で話せるこの空気感が好きだとイオルは改めて思う。
初めはぎこちなかったルシェも次第に打ち解けてきて、だいぶ以前と同じ雰囲気になってきたところで、翌日の朝が早いルシェのためにも会はお開きとなった。四人は連れ立って寮へと帰っていく。
「イオルさん」
少し先を歩いていたイオルにルシェが声をかけた。一緒にいたリコルは気を利かせて下がり、イオルはルシェと並んで歩く。
「すみませんでした」
ルシェはストレートな謝罪の言葉を口にする。
「変な態度を取ってしまって。大人気なかったな、と反省しています」
「ううん、あたしこそ、自分から話しかけにいけなくて、ごめんなさい」
珍しくイオルも素直に謝ると、ルシェは笑顔を見せた。
「ズールのこともありますし、これからもよろしくお願いしますね」
「こちらこそ」
「俺のことは気にせず、ズールに会いに来ていいですから」
「ありがとう」
ルシェの好意にイオルは心から感謝する。
「あと、ベルロイさんのことも」
「え?」
突然出たベルロイの名前にイオルは動揺する。
「気にならない、と言ったら嘘になりますけど、気にしないように努力しますから」
ルシェの悲しげな笑顔にイオルの胸は痛む。ルシェをこんな表情にさせてしまうのは自分なのだ。選択は後悔していないけれど、自分が傷つけたことに変わりはない。
「それじゃあ」
寮に着くと、ロビーでルシェは三人と向き合う。
「ルシェ、気をつけてね!」
「頑張って!」
「はい、今日はありがとうございました」
ルシェは頭を下げて、自分の部屋へと戻っていった。イオルはその背中をぼんやりと眺める。
「イオル」
そんなイオルに声を駆けたのはベルロイだ。ベルロイのいつもよりも少し強い声に、イオルはピクリと反応する。
「これから鍛錬に行くけど、イオルも来て」
イオルに拒否権はないようだった。珍しい強引さに何度か瞬きをするイオルだったが、
「わかった」
と、素直についていくことにした。
寮の裏手につくと、普段ならまずは鍛錬を始めるベルロイが、武器である斧を壁に立てかけてしまった。
「ベル……」
どうしたの? と、尋ねようとしたイオルの身体をベルロイは強く抱きしめる。あまりに急いた行動にイオルは戸惑う。
「ベルロイ……?」
やっとのことで出せたか細い声を聞いて、ベルロイはイオルの身体を解放した。
「ごめん」
ベルロイはドカッと地面に座り込んでうなだれる。
「どうしたの?」
隣にしゃがみこんだイオルは不安げにそう尋ねる。
「……俺は子供だな。これじゃあ、ルシェとどっちが年上なのか、わかったもんじゃない」
「……?」
ベルロイの言葉の意味がわからないイオルはベルロイの顔を覗き込みながら首を傾げる。
「……嫌だったんだ。イオルがルシェと話しているのが」
「!」
ベルロイらしからぬ発言にイオルは目を丸くする。
「イオルがルシェの告白を断ったってわかってるのに、情けないな、俺は」
ようやく顔を上げたベルロイは、自分の膝に顔を乗せて辛そうな笑顔を見せる。
「早く自分のものにしたくてたまらない」
「……っ!」
イオルは頬を一気に赤く染める。ベルロイがそんな発言をするとは、思ってもみなかった。
ベルロイはふっと笑って立ち上がる。
「もう行きなよ」
壁に立てかけた斧の方へ向かいながらベルロイは、
「このままここにいたら、俺はイオルにもっとすごいことをするかもしれないよ」
と、言う。いつもの状態でないベルロイの側を離れていいのだろうか、と思いながら、どこか恐怖を感じるその発言に堪えられず、イオルは走って寮へと戻っていった。




