21.関係が変わる予感
ベルロイとの初めてのデートの後、イオルはあからさまにベルロイを避けるようになった。ベルロイの顔を見ると、どうしても自分の知らないベルロイのことを思ってしまって、まともに顔を見ることができない。
本心では仲直りがしたい。過去の恋愛のことなんて忘れて、またベルロイと普通に話したい。そう思っても、どうしても避けてしまう。
そうやって悶々と過ごすこと数日。食事も一人で取るようになったイオルは、部屋で簡単な食事を済ませてからベッドに丸まって寝ていた。
ベルロイのことばかり考えてしまう。デートでも手を繋がれたりはしなかったし、今のベルロイの気持ちもわからない。前は好きだと言ってくれたけれど、今でも好きでいてくれているのだろうか。子供っぽい自分を見て妹のようだと思い、もう好きじゃなくなってしまったんじゃないだろうか。
そんなことばかり考えて、泣きたくなってしまう。
コンコン
部屋がノックされる。リコルが仕事を終えて来てくれたのだろうか。そう思いながら、イオルはぼさぼさの髪の毛のままでノロノロとドアを開けた。
「は……」
「こんばんは」
そこに立っていたのは笑顔のベルロイだった。予想もしなかったベルロイの登場にイオルは言葉を失う。
「入ってもいい?」
ドアを閉められないようにさり気なく身体を入れたベルロイは笑顔ながらも有無を言わさぬ圧をかけながらそう尋ねる。断ることができないイオルはただ頷いてベルロイを中へ入れた。
慌てて髪の毛を手で撫でつけながら椅子を勧めて自分はベッドに腰を下ろしたが、ベルロイは椅子ではなくイオルの隣に座る。その距離も今までにないくらい近くて、イオルは心臓をバクバクさせた。
「今日は話があって来たんだ」
いつもと同じ笑顔のベルロイなのに、何故かその笑顔が怖く感じる。だから、逃げ出したくても身体を離すことすらできない。
「俺のこと、避けてるみたいだから」
「そんな……こと」
否定をしてみるが、否定しても無駄なことはわかっている。
「この前はごめん。あんなこと話すつもりはなかったんだ」
あんなこと、というのが元恋人のことだとわかって、イオルは俯く。
「今は何とも思ってないっていうのは本当だから、それは信じてほしい」
イオルは黙ったままコクリと頷く。
「それでも、やっぱり気になる?」
今度は首を横に振る。それでもベルロイと目を合わせることができない。
「……ねぇ、イオル」
ベルロイは目を細めて微笑む。
「イオルには失礼だけど、俺は今、結構喜んでいるんだよ」
「え?」
言葉の意図がわからずに、イオルは思わず顔を上げる。すると、至近距離でベルロイと目が合った。
「だって、イオルがそういう態度を取るっていうことは、俺も少しは期待していいのかなって思うから」
イオルの心臓がドクンと跳ねる。なんて言ったらいいかわからないイオルは顔を赤くしてベルロイを見つめることしかできない。
「今まで結構我慢してきたつもりだったけど、俺はもう少し態度に表してもいいのかな?」
「べ、ベルロイは……」
ベルロイの言葉に、イオルは勇気を振り絞って不安に思っていたことを尋ねる。
「あたしのこと好き、なの……?」
「そう言ったつもりだったけど、伝わってなかった?」
少しだけベルロイの顔が近づいて、イオルはたじろぐ。
「だ、だって、ベルロイ、全然そんな雰囲気……」
「イオルを困らせたくなかったんだ。ただでさえルシェからも告白されてるっていうのに」
「一緒にいて、そんな態度全然……」
「出さないようにしたんだよ。俺も男だから、本当はイオルに触れたいと思ったけど、嫌がられたくなかった」
「で、でも、あたし子供だし……」
「そんな風に思ったことはない」
イオルの不安をベルロイは即座に否定していく。イオルが喋らなくなったところで、ベルロイは小さく息を吐く。
「俺の気持ちが信じられない?」
「そんなこと……」
「でも、俺の過去の話を聞いて、不安に思ったんだろ?」
いつもと違う男らしい雰囲気のベルロイにイオルは言葉を失う。胸がドキドキして、顔から火が出そうだった。
「これからは信じてもらえるように、態度で示すことにするよ。いい?」
イオルはどう答えたらいいかわからずに俯く。だけど、ベルロイの気持ちが伝わってきて、嬉しい自分もいるのも事実だった。
関係が変わっていく予感に、戸惑いながらも嫌ではない。本当はずっと女性として扱ってほしかったのだと、ベルロイに近づきたかった自分もいるのだと思い知らされる。
すぐ近くにベルロイがいる。俯いているとベルロイの太ももの上に置かれた大きくてごつごつとした手が目に入る。触れたいという衝動に任せて、イオルはその手を自分から握った。それが、答えとなった。
「イオル」
熱を帯びた声で名前を呼ばれ、手を強く握り返される。顔を上げると、ベルロイの空いた方の手で火照った頬を包まれて、そのままゆっくりと顔が近づいて唇が重なる。
それは、優しくて熱い、初めてのキスだった。




