19.突然の爆弾投下
「昨日はどうだった?」
翌日の昼。ニヤニヤ顔のリコルがベルロイとの誕生日の食事会について尋ねる。しかし、イオルの表情は浮かない。
「ええ、喜んでくれたわ」
「本当に?」
「食事もお酒も美味しかったし、プレゼントも喜んでくれた」
「それにしては嬉しそうじゃないね?」
リコルの言葉に、イオルはため息をつく。
「楽しくなかった?」
「楽しかったわ。……だけど」
イオルはそれを口にするか少しだけ躊躇ってから、
「ねぇ、ベルロイって本当にあたしのこと好きなのよね?」
と、リコルに尋ねる。
「はー、なるほどね」
その言葉だけで、リコルはイオルの浮かない表情の理由を悟る。
「安心して、ちゃんと好きだから」
「そう思う?」
「間違いなくね。表に出さないだけだよ」
「……そっか」
イオルはようやくホッとした表情を浮かべる。
「でも、ダメだなーベルロイは。ちょっと喝入れなきゃダメかな……」
「それはいいよ」
リコルの申し出をイオルは固く断る。
「あたしがちゃんとする」
「そう? それならいいけど……」
「ルシェとのこともちゃんと報告してないし、きっとあたしの反応を待ってくれてるんだと思うから」
「わざわざ報告しなくても、ベルロイなら気がついてると思うけどね」
「それでもちゃんと言わなきゃ」
「そっか」
固い表情で決意を新たにするイオルを見て、リコルは微笑む。
「でも、良かった」
「? 何が?」
「イオルがちゃんとベルロイのことわかってて」
「そうかな?」
「うん。感情を上手く隠すから、わかりにくいでしょ?」
「……そうね」
「ちゃんと理解してる証だよ」
リコルの言葉にイオルは自信を取り戻す。いつも気を使っているベルロイだからこそ、ちゃんと誠意を返したいと思う。
***
数日後の夜。誕生日の日に約束したように、イオルはズールとの食事にベルロイを誘い、三人で夕食を共にしている。
ズールの近況を飽きる様子なく聞いているベルロイは何度見ても兄弟のようで、イオルは嬉しくもむず痒い。ズールもベルロイには気を許しているようで、普段の様子を聞かれるまま楽しそうに話している。
「姉ちゃんは最近どう?」
ズールの近況報告が終わり、話はイオルのことへ波及する。
「あたし? 仕事も落ち着いてるし、普通よ」
「そっか、良かった」
「イオルはナビゲーターとして指示も的確だし、いつも助かってるよ」
「そうなんですか?」
ベルロイがイオルの普段の仕事の様子を語りだす。
「うん。ルイフィス隊長もイオルを信頼して仕事を任せてるのがわかるね。うちの班で一番優秀なナビゲーターだと俺は思うよ」
「ちょっと、褒めても何も出ないわよ」
イオルは恥ずかしそうにベルロイの話を遮る。
「でも、大旦那様ご自身も姉ちゃんのこと時々褒めてるよ。僕に気を使ったお世辞かな、と思うこともあったんだけど、本当だったんだね」
「もう、ズールまで!」
二人の褒め殺しに、イオルは顔を赤くした。
「あ、そういえばさ、姉ちゃん。ルシェ様からの告白を断ったんだって?」
「なっ!?」
突然のズールの爆弾投下にイオルは言葉を詰まらせた。
「大旦那様から聞いたんだ。ルシェ様の様子がおかしいから、聞いたらそういうことだって。まさか、僕のせいで断った、とかないよね?」
「どういうこと?」
「僕がシャロク家で働いているから、そこのご子息様とお付き合いすることに抵抗があったのかなって」
イオルの様子に気が付かないズールは次々と姉に質問を投げかける。
「それはない! ズールのためじゃないから!」
「本当に?」
「本当よ!」
「それならよかった」
イオルはこの話題が出てからベルロイの顔を見ることができない。ズールもベルロイがイオルのことを真剣な表情で見つめていることには気がつかなかった。
「じゃあもしかして、姉ちゃんってベルロイさんとお付き合いしてるの?」
「……!?」
ズールのさらなる爆弾投下にイオルは顔を真っ赤にさせる。
「だから、ルシェ様からの告白を断ったのかなって」
「ち……違うわよ!」
「本当に? 別に僕に気を使わなくてもいいんだよ」
「本当に、本当よ!」
「そうなんだ」
ズールは眉尻をわずかに下げる。
「僕はそうなったらいいなって思ってたんだけど」
「そ……」
「僕は姉ちゃんが幸せならそれでいいんだけどね」
無垢な微笑みと姉を想う言葉でその話題は終わった。
食後、ベルロイとイオルはズールをシャロク家に送ってから二人で寮へと歩いている。
「今日も楽しかったよ。誘ってくれてありがとね」
普段と変わらない様子のベルロイがイオルに笑顔を向ける。イオルはあの話題が出てからというものベルロイのことをまともに見ることができていない。しかし、ちゃんと話さなくては、と勇気を出してさっきの話題を切り出す。
「さっきはごめんね。ズールが変なことを」
「全然気にしてないよ」
ベルロイは変わらず笑顔だ。
「ルシェとのこと、ベルロイにも話さなきゃって思ってたのよ」
「ありがとう。薄々気がついてはいたけどね」
「やっぱり」
イオルは背の高いベルロイを見上げる。
「ルシェから何か言われた?」
「いいや。だけど、イオルのことだけじゃなく俺のことも避けてるみたいだから、何かあったんだろうな、とは」
「そうだったの」
「ルシェだってもう子供じゃない。その内に元に戻ると思うよ。少なくとも、俺とルシェのことは心配しないで」
表情を曇らせたイオルにベルロイはそう声をかけた。
「それならいいけど」
イオルもベルロイの力強い言葉にようやく笑顔を見せる。しかし、目が合うと、ベルロイは笑顔を消して真剣な表情に変わる。
「な、何よ?」
戸惑ったイオルの声に、ベルロイは少しだけ表情を和らげる。
「王都内にある王族専用の御用邸が期間限定で解放されているのは知っている?」
突然の話題の転換に不思議な顔をしながらも、
「ええ、もちろん。警備強化の知らせが来てたから」
と、答える。
「今はちょうど花の季節。庭があまりに綺麗だからって解放していろんな人に見てもらいたいって皇帝のご配慮で」
「そうね」
「一緒に行かない?」
「え?」
思ってもみなかった誘いにイオルは目を丸くする。それがデートの誘いだと気がつくと、顔を赤らめて目を逸らす。
「……いいわよ、別に」
本当はもっと可愛く返事をしたいのに、素直になれないイオルはそんな承諾の仕方しかできない。それでも、ベルロイは嬉しそうに、
「よかった」
と、微笑んだ。
ベルロイルートですが、最後まで書き切りましたので、毎日更新で一気に完結いたします。
15日の日曜日に完結ですので、引き続きお付き合いいただけますと幸いです。




