18.誕生日
仕事後。イオルとベルロイは連れ立って本部を出た。予めイオルが予約しておいた店へと向かう。
「誕生日、おめでとう」
「ありがとう、イオル」
照れながらもお祝いの言葉を言うイオルにベルロイは嬉しそうな笑顔を返す。イオルが予約したお店は、お酒の飲める落ち着いたレストランだった。メニューを開いたベルロイはそのお酒の種類の多さに瞳を輝かせている。
「嬉しいな、ありがとう」
「まだ頼んでもないじゃない」
イオルは恥ずかしそうに口を尖らせる。
「早くイオルともお酒が飲めるようになるといいな」
「あと一年とちょっと、我慢して」
「イオルはお酒飲める人だといいけど」
「どうかしらね」
「リコルみたいに弱いと飲ませられないから」
「あんな風にはなりたくないわ」
前にリコルにお酒を飲ませた時は酷かった。酷い絡み酒で、イオルもうんざりしたのだった。それ以来何があっても飲ませないように気をつけている。
イオルの選んだお店は食事もお酒も美味しく、二人の会話も弾む。内容はいつもと変わらない日常会話なのだが、二人共リラックスした楽しい時間が過ぎていった。
「はい、これ」
食事が終わった頃、イオルはぶっきらぼうに綺麗に包装された箱を手渡す。
「何?」
「プレゼント」
「! 開けてもいい?」
「どうぞ」
ベルロイは丁寧に包みを開ける。
「グローブだ」
出てきたのは赤茶色の皮のグローブだった。重い斧を持って戦うベルロイには必需品のグローブ。それがボロボロになっているのに気がついたイオルは、新しいものを買ってプレゼントしたのだ。
「ありがとう」
「どういたしまして」
ベルロイは嬉しそうに眺め、試しにはめてみせる。
「どうかな?」
「いいんじゃない?」
「嬉しいな」
本当に嬉しそうにその感触を確かめるベルロイをイオルは恥ずかしそうに見つめた。
食事を終えて寮に戻る。食事もイオルが払うと言ったのに、無理やりベルロイが支払いを済ませてしまった。
「自分の誕生日なんだから、甘えればいいのに」
「いいんだよ。素敵なお店だったし、プレゼントももらったから」
「お礼も兼ねてるって言ったのに」
「十分にしてもらったよ」
「そんなんだから損するのよ」
イオルは不満を隠さない。
「じゃあ今度、またズールに会わせてよ」
「ズールに?」
「うん。前回はゆっくり話せなかったから」
「それは別にいいわよ。ズールともたまに外で食事できるようになったから」
ズールと話してから、少しづつズールの意識が変わってきている。徐々にではあるが、たまの休みにはイオルと食事に行くくらいにはなった。
「それは良かった」
「ズールもベルロイには気を許してるみたいだし」
身分を気にするズールは元々の身分に差のないベルロイには自然に接しているように思っていた。イオルは二人を見ていると、仲の良い兄弟のようにすら思える。
「ベルロイはルシェのこともだけど、年下の扱いが上手いわね」
「そうかな? 弟や妹がいるからかな?」
「そうなの?」
「うん、四人いる」
「四人も!?」
「そうだよ。近所の子達もほとんどが年下で、みんな家族のように育ってきたから、それを考えるともっといるね」
「ベルロイが人の扱いになれてるのも納得だわ」
イオルは初めて知る事実に目を丸くする。ベルロイは聞き役になることが多く、自分のことをあまり話さないので、今更ながらベルロイのことをあまり知らなかったことに気がつく。
「たまには里帰りしないの?」
「したいんだけど、遠いからね。なかなか」
ベルロイの出身地は山の多い地域なので、馬車の通れない道もある。長い休みがないと帰ることができないのだ。
「寂しくないの? 一人で王都に来て」
「うーん、初めは確かに寂しかったかな。でも今は知り合いもできたし、手紙でやり取りもできるから」
「そう……」
「イオルは寂しかった?」
「……うん」
弟は下僕となり、イオルは逃げるように身一つで王都にやってきた。弟を救うという目標がなければ、今まで頑張って来られなかったかもしれない。
「よく今まで頑張ったね」
そんなイオルの気持ちを察してベルロイは微笑む。昔の自分を考えれば、今のイオルはすごく幸せな環境にいる。
「また子供扱いして」
しかし、イオルは素直に甘えられずに口を尖らせる。
「そんなことないよ」
イオルとベルロイは5歳離れている。ベルロイにとってイオルは妹のような存在なのではないかと、イオルは少し不安になった。
夜の街を並んで歩く。イオルはルシェとデートをした時には手を繋がれたことを思い出した。
イオルは隣を歩くベルロイの横顔を盗み見る。普段と変わらぬ様子のベルロイは、みんなといる時と変わった様子は見られず、特別距離が近いわけでもない。手を繋いでくる様子もなかった。
あたし、本当に告白されたんだよね──
夜に寮の裏手で抱きしめられたこともあったけれど、その後のベルロイは何事もなかったかのように振る舞っている。ルシェに比べて感情のわかりにくいベルロイに、イオルはどんどん不安を覚えるのだった。




