17.選んだのは年上の彼
ベルロイルートへようこそ!
こちらはイオルがベルロイとハッピーエンドを迎えるお話です。
「ベルロイ、かな」
イオルがポツリとその名前を口にすると、リコルは目を丸くした。
「ベルロイ!?」
「ちょっと! 声が大きい!」
焦ったイオルは周りを見ながらリコルを注意する。
「ごめんごめん」
リコルは一段階声のボリュームを落とす。
「で、本当に?」
「聞いたのはリコルでしょう?」
「そうだけど……なんか意外」
ようやく落ち着きを取り戻したリコルはしみじみとそう言う。
「どういう意味よ?」
「イオルはルシェを選ぶんじゃないかと思ってた」
「そう見えた?」
「そう見えたっていうか……ベルロイに対しての態度が変わったように見えなかったから」
「ああ……」
リコルの疑問がわかったイオルは神妙な顔で頷く。
「それは、だってベルロイが変わらないんだもん」
「なるほど」
やれやれとため息をつく。
「そこがベルロイのいいところでもあるんだけどね」
「うん……」
「でも、ベルロイのことが気になるんだ?」
「何ていうか……あたし、気がついたらいつもベルロイに助けられてる。さりげなく気を使ってくれてて……だから、いつも頼っちゃう」
「うん、なんとなくわかるよ」
「好きかどうかはまだよくわかんないけど、大事な存在ではあるんだと思うの」
イオルは少し頬を赤く染めながら自分の率直な気持ちを話す。
「じゃあルシェからの誘いは断る?」
「うん、ベルロイにもお礼がしたいって思ってたし。あたしが誘わなきゃ、誕生日だっていうのに一人で飲みに言っちゃいそうでしょ?」
「間違いないね」
二人はくすくすと笑う。
「ルシェからの誘いはきちんと断る。……告白も」
「いいの?」
「うん。ルシェの気持ちは嬉しいけど、やっぱり……」
「そっか」
リコルは優しく微笑む。
「ルシェ、ショック受けるだろうなぁ」
「……リコルもそう思う? 今まで通りに接してくれるかな?」
「しばらくは無理かもしれないけど……まぁそこは私に任せといてよ」
ドンッと胸を張る。
「ありがとう。じゃあ行ってくる」
「今?」
「早い方がいいでしょ?」
「そうだね」
よしっと気合を入れてイオルは立ち上がる。
「頑張ってね」
「ありがと」
リコルに見送られたイオルはルシェの部屋へと向かった。
「イオルさん?」
部屋から顔を出したルシェは、先程別れたばかりのイオルが訪ねてきたことに驚いた顔をする。
「どうぞ」
「ありがとう」
ルシェに招かれてイオルは部屋へと入る。
「どうかしましたか?」
「うん、あのね……パーティなんだけど、やっぱり行けない」
「そうですか……」
落胆の表情を隠さないルシェは、
「やっぱり用事がありましたか?」
と、尋ねる。
「その日、ベルロイの誕生日なの」
「ベルロイさんの……」
ルシェの表情が陰る。
「祝うんですか?」
「そう……だから、行けない」
「……わかりました」
唇を噛みしめるルシェを見て、イオルは胸を痛めながらも言葉を続ける。
「あとね、ルシェからの告白のことなんだけど……」
「ベルロイさんのことが好きなんですか?」
傷つきながらも、ルシェは真っ直ぐにイオルを見つめる。
「それはまだわからないけど……」
「でも、イオルさんは俺でなくベルロイさんを選んだ」
固い表情のルシェはそう事実を述べる。
「そういうことですよね?」
「……ごめんなさい」
ルシェの気持ちを思うと苦しくて、イオルはうなだれる。
「……わかりました。ありがとうございます、わざわざ」
棘のあるその言葉からイオルは早くこの部屋から去ったほうがいいのだと察し、
「本当にごめんね」
と、告げて、逃げるように部屋を出た。
***
その日以降、イオルとルシェは気まずくなり、あまり会話をしない日が続いている。リコルは影で元通りの関係になれるように動いていた。
ルシェだってそれを望んでいるのだけれど、振られた直後はそうもいかない。ルシェはリコルに「いずれ前みたいに話せるようになりますから」と言ったので、リコルもしばらく見守ることに決めた。
一方イオルはベルロイの誕生日を祝うべく、プレゼントの用意やお店のリサーチを進めていた。そしてベルロイの誕生日前日。
いよいよベルロイを誘おうと、イオルは夜に寮の裏手へと向かった。ベルロイの鍛錬が一区切りつくと、いつものように並んで座る。
「ねぇ、ベルロイ?」
「ん?」
「明日の夜、空いてる?」
「仕事の後は特に予定はないけど……何かある?」
ベルロイは普段と変わらない様子でそうイオルに尋ねた。
「明日、誕生日でしょ?」
「明日……あぁ、そうか」
「何? 忘れてたの?」
「うん」
困ったように頭を掻く。
「普通に仕事だし、毎年忘れるんだよね」
「毎年!? 信じらんない!」
イオルが白い目を向ける。
「あたしなんて一ヶ月も前からそわそわしてさ。自分に何をプレゼントしようかなーって考えるのに!」
「自分で自分にプレゼントか。それ、いいね」
ベルロイは汗を拭いながら微笑む。
「それにしても、何で俺の誕生日を知ってるの?」
「リコルから聞いたのよ」
「リコルに? 俺、リコルに言ったっけな」
首を傾げるベルロイにイオルはため息を吐き出す。
「で、空いてるのよね?」
「そうだね」
「じゃあ、あたしが祝ってあげる!」
「イオルが?」
ベルロイは目を丸くする。
「何よ、不満?」
「ううん、全然? 誰かに祝ってもらうのなんて、家を出た時以来だからびっくりして」
「ふん、あたしに感謝しなさいよね」
イオルは照れ隠しからそんなことを言う。
「じゃあ明日ね」
「うん、楽しみにしてる」
去って行くイオルの背中を見ながら、ベルロイは片手で口を覆って、顔の緩みをなんとか戻そうとするのだった。




