25.決意
「ねーえ? イオル?」
キースが遠征に出てから毎日のように夕食を共にしているリコルとイオルは、寮の食堂の定位置で今日も仲良く向かい合っている。
「何よ?」
「イオルが気を使って毎日ごはんに付き合ってくれるのはありがたいんだけどさ、たまにはルシェと二人でデートでもしたら?」
「ぐっ……!」
イオルは頬張っていたサンドウィッチを喉につまらせる。苦しさか、それとも恥ずかしさからかわからないけれど、顔を赤くしながら水を飲んでなんとかサンドウィッチを流し込んだ。
「よ、余計なお世話よ!」
「本当に? 私から見たらいい感じに見えるのに、あんまり一緒にいないから心配になっちゃうよ」
「……」
言葉につまったイオルは複雑な表情で頬を掻く。
「次のデートの約束は?」
「……してない」
「はぁ? 何でよ?」
「何でって……まだそういう関係じゃ……」
「え!?」
リコルは険しい表情になって、
「まだ付き合ってないの!?」
と、イオルに詰め寄る。
「う、うん……」
「なんで!?」
「何ていうか……どういうタイミングで告白したらいいかわからなくて」
遠征の件でイオルは自分がルシェに惹かれていることにはっきりと気がついた。告白の返事をしなければ、と思うのだが、自分から切り出すのには勇気が必要で、なかなか口に出せずにいた。
「何やってんのよ、もう」
リコルは力が抜けたように椅子に座りなおす。
「てっきりもう返事したのかと思ってた」
「そのつもりではいるんだけど……」
好きだと自覚してから、余計に臆病になってしまっている。
「ルシェの気持ちはもう知ってるんだから、怖いものなんてないじゃない」
「それはそうなんだけど……」
イオルの歯切れは悪い。今まで一度も人を好きになったことのないイオルにとっては、この告白もすごく勇気がいることだ。
「ねぇ、リコルはキース様にどうやって告白したの?」
「えぇ!? 何よ急に」
自分に話を振られると思っていなかったリコルは顔を赤くする。だけど、友人のイオルのためだと思い、口を開く。
「私は能力でキースの気持ちを知ってたけど、向こうはそのことを知らなかったでしょう? だから、能力のことをみんなに話した時に、知ってしまったことを伝えなきゃって思ったの。だから、そういう勢いもあって言えたのかも」
「じゃあリコルから告白したんだ?」
「いや、『気持ちを知ってるよ』って言ったら、向こうからちゃんと……」
その時のことを思い出したのか、リコルは恥ずかしそうに言葉を濁す。その様子を見ただけで、イオルもドキドキしてきてしまう。
「でも、そうね。確かに気持ちを伝える時はすごい緊張したし勇気も必要だった」
リコルは真面目な顔つきになってイオルに向き直る。
「だけど、やっぱり相手のことを想うならちゃんと伝えなきゃ」
「そう、だよね」
恋人がいるリコルの言葉はイオルの心にしっかりと刺さった。ルシェはイオルを待ってくれている。いつまでも待たせるわけにはいかないのだから、勇気を出さないと。
「頑張って」
「……うん」
リコルに応援されて、イオルはルシェに気持ちを伝えようと固く心に決めた。
***
翌日はイオルは仕事が休みだった。ズールも夕方まで休みを取ったので、二人でお昼から王都で買い物をしてのんびりと過ごす。
夕方になって、買い物のほとんどがズールのものだったので、イオルも一人では持ちきれない分の荷物を持ってシャロク家へ寄る。ただ寄るだけのつもりだったのが、アーシャに呼び止められてお茶をしていたので、帰ろうと思う頃にはすっかり夕食の時間になっていた。
「イオルさんも夕食を食べて行かない? ズールの作ったごはんは美味しいわよ」
「でも……」
「姉ちゃん、いいでしょう? 今日の買い物のお礼だよ」
ズールにまで誘われたらイオルは断れない。好意に甘えることにして、シャロク家で夕食まで食べてしまった。
ダイニングでくつろいでいると、まるでイオルもシャロク家の一員になったようだ。そこには大切な弟もいて、大好きな人の家族もいる。イオルが憧れてきた幸せな家庭がそこにはあった。
「イオルさん、最近のルーの調子はどう?」
食後、ルシェの話題が上がる。
「はい、元気にやっていますよ」
「そう、よかった」
アーシャは母親の顔で微笑む。
「責任感が強くて頑張りすぎるところがあるでしょう? 無茶をしないか、心配なのよ」
「そうですね……」
それはイオルも心配しているところだ。
「イオルさんが側で見ててくれると嬉しいわ」
アーシャに微笑まれて、イオルはどぎまぎしながらも、
「はい」
と、微笑み返す。そんなイオルを見て、アーシャは笑みを深める。
「ルーにはイオルさんみたいなしっかりした女性が必要だわ。支えてあげてちょうだいね」
「……はい」
以前のイオルなら否定していたようなことも、今ならしっかりと応えることができる。そうやってルシェの話をしていると、無性にルシェに会いたくなってくる。
「そろそろ帰ります」
「そうね」
アーシャは立ち上がってイオルを見送ってくれた。
「ズールに送っていかせるわ」
「いえ、一人で大丈夫です」
「だけどもう遅いし……」
「私も兵士ですから、心配ありません」
「そう?」
イオルは急ぎたいと一人で帰ると言う。イオルが大丈夫だと言うので、アーシャもしつこくは言わなかった。
「それじゃあ気をつけて」
「はい、お邪魔しました」
礼を言ってからイオルはシャロク家を後にした。




