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22.ルシェの想いがわからない

 翌日。ルシェと話したいとその姿を探していたイオルだったが、なかなか見つけられずにいた。明日から遠征なので、準備もあるだろうと通常の任務である王都の警備を別の人間が代わると申し出たらしいのだが、ルシェはそれを断って街へ出てしまったらしい。真面目なルシェならありえるか、とイオルは帰ってきたタイミングを狙うことにする。


 しかし、ルシェはなかなか本部に戻ってこない。我慢ならずイオルがルシェの行方を尋ねると、本部に寄らないまま実家へ挨拶に行ってしまい、そのまま帰宅する予定だという。


 普通なら考えられないルシェの行動を不思議に思いながらイオルは焦る。このままだと会えないままルシェが遠征に行ってしまい、そのまま10日も顔を見ることができなくなる。それは、今のイオルには堪えられないことだった。


 仕事を終えると、イオルはその足でシャロク家に急いだ。準備のために寮に帰るのだろうからそれを待ってもよかったのだが、一刻も早くルシェに会いたいという思いがイオルを駆り立てる。


 軍服のままシャロク家に着いたイオルは息を整えてから戸を叩いた。程なくしてズールが顔を出す。


「姉ちゃん!?」


「ズール、ごめんなさい、急に来て」


 イオルは謝りを入れてから、


「ルシェは来ている?」


 と、尋ねた。


「ああ、なるほど。ルシェ様に会いに来たんだね」


 ズールは顔を綻ばせると、


「どうぞ中へ。今、アーシャ様とお話されているところだから」


 と、言って家に招き入れてくれた。ズールはイオルをリビングへ連れていった。そこにはアーシャと向かい合って話すルシェの姿がちゃんとあって、その顔を見ただけでイオルの胸はドキリと音を立てる。


「あら、いらっしゃい、イオルさん。ルーを迎えに来てくださったの?」


「すみません、突然……」


 ルシェに会いたいがためにシャロク家に押しかけてきてしまったことを、今更ながら恥ずかしく思う。ルシェは、と見ると、無表情でイオルを見ていて、嫌な予感がイオルの中を駆け巡った。


「挨拶などいいと言ったのに、ずっと家にいるのだもの。もうそろそろ帰そうと思っていたところよ」


「うん、そろそろ帰るよ」


 イオルが近づく前にルシェはソファから立ち上がる。


「イオルさんはズールとゆっくり話しでもしていってください。俺は準備があるから寮へ戻ります」


 ルシェはイオルの目を見ないままさっさと部屋を後にしようとした。


「ル、ルシェ……っ!」


 咄嗟に名前を呼ぶと、ルシェの足が止まる。


「あたしも一緒に帰る……」


 何故かわからないけれど、ルシェはイオルを避けている。その予感が現実味を帯びてきて、それでもイオルはルシェと話がしたいとそう言った。


「そうしなさい、ルシェ」


 珍しくアーシャがルシェのことを愛称の「ルー」ではなく「ルシェ」と呼んだ。ルシェは、


「わかったよ……」


 と、小さく言って、それでもイオルを置いて部屋を出て行ってしまう。イオルは慌ててアーシャに頭を下げてからルシェの後を追った。


「ルシェ……っ!」


 ルシェの足は早く、イオルは小走りをしないと追いつけない。ここまでだって走ってきたイオルは、既に息が上がってしまっていた。


 イオルの必死な声を聞いて、ルシェは歩調を緩める。それでもイオルの顔を見ることはない。


「あ、あの、明日から遠征ね。それで話がしたくて……」


「何の話ですか? 何か報告でもあるんですか?」


 ルシェの声は冷たく、イオルの心もどんどん怯えていく。


「報告って?」


「……別に俺に話したくないのならいいです」


「何のことだかわからないっ……」


「それならそれでいいです」


 とうとうイオルの目には涙が浮かぶ。ルシェはイオルの顔を見ないので、その様子に気がつくことはなかった。


「ただ話がしたかっただけなの、本当に……。明日からしばらく会えなくなってしまうから……」


「そうですね」


「ルシェは……」


 あたしと離れて寂しくないの? そう聞こうとして、イオルはやめる。ルシェの態度の急変ですっかり自信がなくなってしまっていた。


「俺は……」


 黙りこくったイオルにルシェは低い声でこう呟く。


「ベルロイさんみたいに大人じゃありませんから」


「? どういうこと?」


「そんなに余裕を持っていられないってことです。限界があります」


 イオルにはルシェが何を伝えようとしているのかがわからない。だけど、この言葉の中にこそ、態度が変わった原因が隠されているのだと、必死に考えを巡らせる。


 ルシェはそれ以上何も言わなくなってしまい、イオルは真意がわからぬままどんどんと寮へ近づいていく。ルシェの気持ちを汲んで何かを言わなければならないと思うのに、間違えることが怖くて言葉にすることができない。


 そのままあっという間に寮に着いてしまった。


「それじゃあ」


 振り返らずに行ってしまいそうになるルシェにイオルは


「き、気をつけて……っ! 待ってるから、どうか無事に……帰ってきて」


 と、声をかける。その言葉に、ルシェは足を止めてイオルを振り返る。ルシェの目に飛び込んできたのは必死な表情のイオルだった。


「……すみません」


 そんなイオルにルシェは謝りの言葉を告げて、今度は振り返ることなく自分の部屋へと去っていってしまった。

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