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14.作戦決行!

 それから数日後の夜。イオル、ルシェ、ベルロイの空いている日を狙って作戦は決行された。ルシェがルイフィスに頼んで、ズールに夜からルシェの元へ来るように指示する。ズールが気に病まないよう、ルシェの寮の部屋の掃除をしてほしいという用件だ。


 時間通りにズールは寮へやってきた。


「ズール!」


「ね……姉ちゃん!」


 寮の入り口で待っていたのはイオルだった。


「どうして……」


「どうしてってここはあたしの家だもの」


 イオルは胸を張る。


「そうじゃなくて……僕はルシェ様の部屋の掃除に……」


「知ってる。ルシェの部屋に案内するわ」


「う、うん」


 仕事が果たせればいいと、ズールは素直に姉に着いていく。


「姉ちゃんってもしかして、あれなの?」


「あれ?」


「ルシェ様の恋人」


「ち、ちがっ! 違うわよ!」


 イオルは顔を赤くして否定する。


「隠さなくていいよ。だってこの前手を繋いでいたし……」


「あ、あれは!」


 誤魔化そうとするが、上手い言葉が見つからない。


「と、とにかく誤解だから! 恋人じゃないから!」


「ふーん」


 ズールは疑いの目を向けながらも、こうなったイオルが素直に教えてくれないことはわかっているので引き下がった。


「ここよ」


 ルシェの部屋の前に着くと、イオルはノックをして中に入った。


「失礼致します」


 ズールは丁寧にお辞儀をしてから中へ入ると、そこにはルシェとベルロイが待っていた。


「いらっしゃい、ズール」


「こんばんは」


「ルシェ様、本日は宜しくお願い致します」


 ルシェだけをまっすぐ見てズールは挨拶をする。


「よろしくね、ズール」


「はい、それでは……」


 ズールは改めてルシェの部屋を見回す。ルイフィスの話だとルシェの部屋は足の踏み場もないくらい汚れている、とのことだったが、実際のルシェの部屋は物も少なく、整理整頓されている。


「それじゃあ僕達は寮の一階にある食堂にいるから、終わったら報告に来てくれる?」


「かしこまりました」


 掃除の必要がない部屋に見えても、ルシェが求めるのならそれに応えるのが執事だ。ズールはルシェの申し出を受けて、部屋の掃除に取り掛かった。


***


 思っていた通り、ルシェの部屋は綺麗で掃除をする場所が少なかった。一通りの拭き掃除はしたけれど、予想通り早く掃除は終わった。ズールは言われた通りに寮の食堂へ向かうと、ルシェとイオルとベルロイが楽しそうに話している姿が見えた。


 ズールからはイオルがすごく幸せそうに見える。それが嬉しくもあり、羨ましくもあり、悔しくもある。


「ルシェ様、部屋の掃除が終わりました」


「ありがとう。それじゃあ夕飯にしようか」


「はい。それでは僕はここで……」


「ズールにも一緒に食べてほしいんだけど」


「いや、それは……」


 シャロク家の人達は優しく、こうして食事に誘ってくれることが度々ある。だけど、ズールには言葉のまま受け入れることはできなかった。いつものように断ろうとするが──


「この食堂のフライ定食がなかなか美味しいんだ。母さんにも食べさせてあげたいんだけど、ここへ来ることもないから、ズールが食べて後日再現して食べさせてあげてほしいんだ」


 ズールは日々アーシャからルシェの話を聞いていて、そこからアーシャがいかに息子のことを愛しているかということをわかっていた。そんなアーシャなら確かに息子の好きな食べ物を知りたいだろう、と納得する。


「わかりました。それでは失礼ながらご一緒させていただきます」


 三人はホッとした顔をしてから、


「じゃあ、早速買いに行きましょう!」


 と、イオルの言葉で席を立った。




「いただきます」


 ズールとルシェはフライ定食、ベルロイはフライと酒、イオルはサンドウィッチを頼んだ。ズールはこの味を再現しようと真剣に味わう。だが、特別他のフライと変わらないように感じた。ひとまず、魚の種類は確認しておく。


「ズール、美味しい?」


 イオルに尋ねられて、まさかルシェの好きなものをけなすわけにもいかないので、


「うん」


 と、答える。


「そう、よかった。あたしのサンドウィッチも食べる?」


 答えを聞く前にイオルはサンドウィッチをちぎってズールの皿に乗せる。


「まぁ悪くないから食べてみてよ」


「イオルさん、いつもは美味しくないとか言ってますよね……」


「うるさいわね! 全体的にって話よ。サンドウィッチは、まぁ悪くはないわ」


「初耳です……」


「ははは」


 仲のいい三人のやり取りを聞きながらズールはサンドウィッチを頬張る。うん、確かに悪くはない。


「ズール、シャロク家はどう? 慣れてきた?」


「うん、良くしていただいてるよ」


「何か困ったことがあったら俺に言ってね。特にベイグル兄さんとか」


 次男のベイグルは工房に行っている時間の方が長いので、家には食事と寝るためだけに帰ってくるだけだ。それでも、ズールを見るといつも気さくに声をかけてきてくれる。


「ベイグル兄さんは変わり者だから……」


「いえ、良くしていただいています」


 ズールはにこやかに答える。


「ならいいけど……そのうちズールを振り回したりしないか心配だよ」


「振り回すなんて! いくらでも構いませんよ」


「ベイグル兄さんはとんでもないからね。約束は忘れることの方が多いし、突然事故にあったんじゃないかってくらいボロボロになって帰ってくるし。聞けば、眠すぎて道端で眠ってしまったとか言うんだ!」


「それはすごいわね」


「本能のまま生きてるんだよ、あの人は」


 ルシェはやれやれと呆れながらもそんな兄の話を楽しそうに聞かせてくれる。


「イオルもそういうところありそうだけどね」


「ちょっとベルロイ! どういう意味?」


「ボロボロになって帰ってきたりしそう。意外とわんぱくだから」


「確かにそうですね」


「ちょっとルシェまで!」


「ね、ズール。イオルの小さい頃はどうだった?」


「そうですね……」


「ちょっとズール。変なこと言わないでよね!」


「姉ちゃんは喧嘩をして帰ってきて、明らかに怪我をしているのに、それをどうしても認めない人でしたね。『あたしは大丈夫!』が口癖で」


「「あー」」


「ちょっと、そこハモらない!」


 イオルはいつもズールのために戦っていた。きっと、守護兵団に入った後だって。


 友達がいなかったイオルとズールは母と三人で孤独に生きてきた。そんなイオルがこうして自然な笑顔を見せられる相手がいるということは、やっぱり喜ばしいことなんだとズールは思う。

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