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11.どきどき初デート!

 次の休みの日。夏らしい白いシフォンのワンピースに身を包んだイオルは寮の出入り口にやってきた。時間より早く降りてきたというのに、既にルシェが待っていた。


「お……お待たせ」


「お、おはようございます」


 二人はぎこちなく挨拶を交わす。普段の格好よりもさらに女の子らしいイオルの服装をルシェはじっくりと直視することができない。そんなルシェも普段よりオシャレをしてハンチング帽を被り、オレンジ色のベストを着ている。そんなルシェにイオルも目線を泳がせていた。


「じゃあ……行きましょうか」


「う、うん」


 寮の出入り口でもじもじしているのも恥ずかしいので、二人はぎこちなく外へ出た。


「まずはどこに行きましょうか?」


「本当にいいの? 休みの日にわざわざあたしの買い物なんて……」


「いつも荷物持ちに付き合ってほしいって言ってるじゃないですか」


 普段の言い分と違うイオルの発言にルシェは口を尖らせる。


「そ、それは挨拶みたいなもので、本当に付き合ってもらうとなると悪いような気がするというか……」


「俺は別にいいですよ。さ、どこへ行きます?」


「じゃあ……まずは鞄屋さんから……。小さめのバッグが欲しくて」


「バッグですね。行きましょう」


 イオルの要望を聞き出したルシェは満足そうに頷いた。デートでわざわざ自分の買い物に付き合わせるのも悪いと思っていたイオルだったが、ルシェがそれがいいと言うなら付き合ってもらおうと腹を括る。


 実際に鞄屋さんに着いて買い物を始めると、買い物が好きなイオルはすっかりいつものテンションに戻り、ああでもないこうでもないと様々なバッグを手に持って比べていく。男兄弟ばかりの末っ子として育ったルシェは女性の買い物に付き合うのは初めてのことで、一つのものにこんなに悩むものかと驚いた。それでも、イオルが感想を求めるとしっかりと返し、辛抱強く付き合っている。


 イオルが目的の小さめのバッグを買ったのは昼も過ぎた頃だった。細い木を編み込んで作られた、夏らしい籠のバッグを買ったイオルは満足そうに微笑んでいる。


「それじゃあお昼ごはんを食べましょうか」


「そうね、お腹が空いたわ!」


 空腹に今気がついたようにお腹を撫でるイオルを見てルシェは吹き出す。告白してからいつもぎこちない空気が漂っていたので、久しぶりに自然な表情で笑うイオルを見ることができたルシェは買い物の疲れが吹き飛ぶくらい嬉しかった。


 お昼はルシェが決めた店に入る。事前に調べておいた洒落た雰囲気のお店で、イオルは嬉しそうにメニューを眺めている。


「へ~こんなお店があるなんて知らなかった! このケーキなんて美味しそう! でも、お昼だしそんなに食べられるかな……サラダセットにしておこうかな」


「食べきれなかったら俺が残りを食べますよ」


「え、いいの? じゃあこのガレットのセットとケーキにする!」


「わかりました」


 ルシェが店員を呼び、注文を済ませた。こういう小さなこともルシェが率先してやってくれるので、女の子扱いに慣れないイオルはドギマギする。それでも、告白された直後よりは慣れてきたので、照れながらも普通に振る舞うことができた。


「いつもは一人で買い物に行くんですか?」


「そうね。休みが合えばリコルとか誘うけど、あたし達の休みってみんな一緒じゃないじゃない? だから、一人で行くことが多いかもね」


「買い物を一日中?」


「給料日直後はね。あたしもリコル程ではないけど、一応貯金だってしてたのよ」


 リコルは事情があって返さなければならないお金があるので、無駄遣いはほとんどしない。イオルは自分の稼ぎをどんなに貯めたところでズールを買い戻せるわけではないとわかっていたので、厳しい貯金はしていなかった。それでも気持ち的に全てを使うのは躊躇われたので一定額を計画的に貯めていたのだった。


「今日もこの後、さっきのバッグに合う靴を買ってから、ズールへのお土産でも買っておこうかな」


「靴も買うんですね……」


 ルシェは小さくツッコミを入れてから、


「いいお姉さんですね」


 と、微笑む。


「買い物が終わったら、家へ行きませんか?」


「え、いいの?」


「もちろんです。そのつもりでいましたから。俺もズールに会いたいですし」


「ありがとう」


 いつでも会えるとはいうものの、何も用がないのに一人でシャロク家に行くのは躊躇われていたため、この提案はイオルにとって嬉しいものだった。


「甘いお菓子でも買っていこうかな。ズールは甘いものが好きなのよ」


「イオルさんと同じですね」


「だいぶ痩せてしまったし、たくさん食べてもらわなきゃ」


 イオルは寂しそうに笑う。


「あたしに出来ることはそれくらいしかないから」


「喜んでくれると思いますよ」


「そうだといいけど」


 ルシェの励ましにイオルは表情を和らげる。


「ルシェはズールに初めて会うのよね? ズールはいい子よ! それにとっても可愛い!」


「可愛い、ですか?」


「ええ! 性格も外見も可愛いわよ」


「イオルさんも可愛いですよ」


「か……えぇ!?」


 さらっと出てきた甘い言葉にイオルは勢い良く驚いた。その反応でルシェは自分が発した言葉を自覚し、さっと顔を赤くした。


「いや、い、今のは! あ、嘘ではないです、けど……」


「う、うん。そう……」


 二人は顔を真っ赤にして俯く。ルシェは変なことを言ってしまったと後悔するけれど、イオルは普段自分を褒めるようなことを言わないルシェの本音に心臓がはちきれそうな程ドキドキしていた。

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