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9.緊張の再会

 ズールが王都へ来る日がやってきた。イオルは時間の前にシャロク家に向かった。ルイフィスと共に客間でズールの到着を待っていたイオルだったが、どうしても落ち着かなくて家の前で待つことにした。ルイフィスもそれに付き合って家の前で待っている。


 ベルロイに不安を聞いてもらってから、イオルの気持ちは少し軽くなった。今でも不安なことに変わりはないけれど、歯を食いしばってでも正面からズールの到着を待てるだけの勇気を出すことができた。


 ルシェとベルロイはズールの到着を一緒に迎えたいと言ったが、イオルは固辞した。隊長であるルイフィスが休みを取る関係もあったが、イオルは一人でズールと向き合いたいと思ったのだ。


 ガラガラと音を立てて一台の馬車がやってきてシャロク家の前に止まった。不安と緊張に汗をにじませるイオルだったが、馬車から降りてくるはずの人物を見逃さぬよう、しっかりと馬車を見つめていた。


 馬車から鞄を一つだけ持った少年が降りてきた。イオルと同じ金色の髪の毛の少年は背格好の割に痩せていて、鞄を持つ腕が酷く細い。不安げに揺らめく灰色の瞳はすぐに目の前のイオルの顔を捉えた。


「ね……」


 驚きと共に発せられそうになった言葉を飲み込んで、少年は無理矢理に視線をルイフィスに移してうやうやしくお辞儀をする。


「初めまして、ズール・グロールと申します」


「初めまして、ズール。俺はルイフィス・シャロクだ。シャロク家にようこそ」


「出迎えていただくなど、恐縮です。宜しくお願い致します、大旦那様」


 ズールはイオルが記憶するズールとは違う丁寧な言葉遣いで挨拶をした。


「そんなにかしこまらなくても大丈夫だ、ズール。それに、俺のことは気にせずまずは再会を喜んでくれ」


 ルイフィスの言葉が予想外だったのか、ズールは戸惑いの表情で顔を上げる。


「ズール……」


 イオルが震える声で名前を呼ぶと、もう一度しっかりとズールの瞳がイオルに向いた。


「ねえ……ちゃん」


 恐る恐るそう言って、ズールは少しだけ表情を和らげた。その顔を見たイオルは嬉しさに顔を歪め、ズールに飛びついた。


「ズール……ごめん、ごめんね」


「何で謝るの?」


「だって……こんなに遅くなっちゃって……」


「謝らないで、ねえちゃん。僕を助けてくれてありがとう……」


「ズール……」


 イオルの目から涙が溢れる。ズールも幸せそうに笑いながら涙を零した。そんな姉弟の再会をルイフィスも涙を浮かべながら見つめていた。


***


「良かったね、イオル」


 寮に戻ったイオルはリコル達と夕食を食べながら今日の報告をした。心配していた三人もイオルの表情の柔らかさを何よりも喜んで顔を綻ばせた。


「ズールくんが早くシャロク家に馴染んでくれるといいのですが」


「そうね……少し心配だけど、これからはあたしも側にいられるし」


 不安な気持ちから解放されたイオルは心からの笑顔で微笑む。


「明日もあたしの仕事の後にご飯を食べる約束をしたの。少しづつ王都も案内してあげなくちゃ」


「私もズールくんに会いたいなー!」


「明日はリコルとルシェは夜番でしょ? そのうち会わせてあげるわよ」


「あ、ベルロイは夜で上がりだったよね? イオルと一緒にズールくんに会ってきたら?」


「姉弟の邪魔したら悪いだろ」


 リコルの提案にベルロイは笑いながら首を振る。


「もちろん俺だって会いたいけどね」


「そうだよねー! イオルに似てるのかなぁ」


「……来る?」


 少し考えたイオルはベルロイにそう尋ねる。


「いや、でも……」


「いいわよ、別に。ズールだって年頃なんだから、姉と二人だけっていうのも気恥ずかしいかもしれないし」


 ベルロイはイオルの表情をしっかりと確認してから、


「わかった、じゃあお言葉に甘えてお邪魔しようかな」


 と、言った。


「いいなー! 率直な感想聞かせてよね!」


「わかった」


「ちょっと、変なこと言わないでよね」


 盛り上がる三人をルシェは一人複雑な表情をして見ていたのだった。




 翌日。仕事の後のイオルとベルロイはシャロク家に向かった。そこでズールを迎えてから行きつけの食堂へ行く予定だ。


「良かったね、ズールくん」


 道すがら、ベルロイは改めてイオルにそう声をかける。


「うん……ありがと」


 ベルロイの前で弱音を吐き思い切り泣いてしまったイオルは気恥ずかしそうにしながらもお礼を言った。


「俺も楽しみだな、ズールくんに会うの」


「変に期待しないでよね」


「イオルの昔の恥ずかしい話でも聞いてみようかな」


「ちょっと!」


 イオルがベルロイに手を上げると、ベルロイは笑いながらそれを避ける。イオルも頬を膨らませながらも笑顔だ。


「本当はね、まだ少し不安なの」


 一度弱音を吐き出した相手に、イオルは自分の素直な気持ちを伝える。


「ズールと話はできたけど、離れていた間の話は聞けてない。ルイフィス様達の前だったから、もしかしたら本心を隠してるかもしれない、とかね。だから、今日ベルロイが一緒に来てくれて……その、助かった、と、言うか……」


 恥ずかしさからイオルの声が尻すぼみに小さくなる。頬を染めながら上目遣いでベルロイを見ると、優しく微笑んでいて、それを見たイオルはさらに顔を赤くした。


「だ、だからって変な話聞いちゃダメだからね!」


「それは約束できないけどね」


「ベルロイ!」


 きーっと怒りながら二人は笑い合う。そうしているうちにシャロク家に着いた。

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