嗜んだ事の無いジャンルに転生しちゃった話
これ、俺の知ってる異世界転生じゃ無いわ。
記憶を取り戻して最初に俺が感じたのはそれにつきる。
異世界転生って普通どんなものを連想するかって言えば。
まずは王道、ファンタジー。
人以外にも、神様やエルフや獣人や、ドワーフ、魔族がいたり、魔法、ギルド、冒険者。ドラゴンに魔王、邪神。剣や弓でスライムから倒して目指せ勇者のそんな世界。
王様、貴族に奴隷に聖女、目指せ成り上がり‼現代知識でチートしちゃうぜな、愛すべきテンプレートだと思う。
派生に、ゲーム転生、物語転生何かがあったりして、ヒロイン、悪役令嬢、王子に、騎士に、大貴族。それはそれでありだよなと思う。美形率の高さが魅力的だ。
現代舞台の異世界は暮らしやすそうだし、これも良い。
まあ、転生世界は本当の現代日本より大抵物騒なのがたまに傷だがそれくらいは全然オッケーだ、異世界転生の時点である程度のお約束だしな。
…でも、これは、わからない、マジで。
寧ろ、思い出すまで、何でこれを普通だと思っていたのかがわからない。
でも、間違いなく言える。これは異世界転生だわ。それだけは確実だわ。
タイムスリップ転生も一瞬だけ疑ったけど、これはちげーわ。
目の前で繰り広げられる空中戦に、遠い目になりながら、俺は確信していた。
俺は捨て子だった。寺の前に捨てられていた赤子の俺を、僧が見つけてくれてそのまま育ててもらった。
寺の名前は少林寺。
うん、聞いたことある!戦うお坊さん集団だよね、確かそんなイメージ!って記憶を取り戻した今なら思うが、ごく普通の捨て子だった俺は、何の疑問も持たず、御仏の元に、勉強、修行に励んでいた訳だ。
頭のできは悪くない、けれど武芸は苦手な俺は、いつか師父や師叔父のような、慈悲の心をもつ武芸者になれたらと……………なれるかよっ‼
「これは両者とも見事な軽功だ」
「しかし、数手打ち合うのを見るだけで両者の功力の深さが分かりますな」
「ええ、流石、丐幇の舵主。武林の泰斗である少林の高僧に勝るとも劣らずですね」
いや、身体一つで空飛びながら戦ってるからね?
すごい当たり前みたいに解説してる見学者の皆さん?
昔、映画でチラッと観たことある気がする、空飛ぶ中国映画。
でもわかんねーよ!どういう仕組みなんだよ!
正直これ、前世思い出さない方が、混乱しなかったよ!在るが儘に凄いなあ、私もいつかなれるかな?とか言いながら受け入れられたよ‼
確かに美女、美少女はいる。
でもなんか皆強いし暗器とか仕込んでるし、皆修行して内力有るから年齢不詳だし、その前に拙僧女人禁制だからね!意味無いよ‼
現代チート?いや、修行僧が豊かさ求めてどーすんだよ。色即是空空即是色!全ては同じでありますよ!
だいたい正直思い出してしまった今でも、今の生活捨てる気無いんだよ。
少林は生まれてから今まで育ててもらった家だし、武芸は落ちこぼれの俺を、厳しくも慈愛をもって導いてくれている師父は、顔も知らない実の父親より、よっぽど父だ。
たまに嫌な奴もいるけど、同門だって家族だと思っているし。
戒律破ってまで寺を出る程、外に執着もないしな。
けどね。
「あれが少林の絶技か!なんと見事な」
「あの技は!では舵主が次期幇主か‼」
「いやまてあの掌法は」
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
空中で目にも止まらぬ速さで衝撃波打ち合いとか、ほんとやめて。
せめて魔法、とか超能力、とかスキルとか分かりやすい感じにして。
やっぱり、わかんねーよ!この世界観‼
限りなく昔の中国っぽい世界に転生したけど、どういう世界なのかがまるでわからない男の話。
終
ぶきょうもの好きなんです。