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  作者: 多那珂Robinson
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はじまり

 僕はもう助からない。

 生き残った誰かがこれを読んで、後世に何があったのかを伝えてくれることを心から祈る。





 全ての始まりはいたって平和なあの日から始まった。これを書いている日から1週間前のことだ。あの日のことが遠い昔のように感じる。


 異常な出来事というのは、平和な何も無い日に起きやすいような気がする。あの日も本来なら、誰の記憶にも残らないようないたって平和な何も無いよく晴れた日だった。

 高校で授業を受けていた僕は、あまりの授業の退屈さに窓の外を眺めていた。僕の席は後ろから2席目の窓際だった。僕はグラウンドを歩く1人の女性に気が付いた。明らかにここの生徒ではない。長身でスタイルが良く、モデルのような体付きをしていた。長い黒髪が風になびいていた。気がつくと女性はグラウンドからいなくなっていた。しばらくして、校内放送がかかった。ざわつくクラスメイト。

「不審者が校内に侵入しました。生徒は速やかに体育館に集まってください。繰り返します。不審者がっ………うわっ………あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 悲鳴が教室にこだました。

 何が起きたか分からず、僕は必死に考えた。統制を失い、パニックになった校内。我先にと逃げ出す生徒達。その中には先生も混じっている。

「ダメだ。警察につながらない」

「やばいぞ、玄関が開かねぇ。これじゃ逃げられない……」

 どこからか聞こえた言葉に恐怖はさらに深まった。

 逃げられない。殺されるかもしれない。何が起きたかわからない。どうしようもない。

 考えを巡らせている間に悲鳴と足音が近づいていることに気がついた。

 僕は恐る恐る教室から出て廊下を見た。


 死体。

 血。

 女。

 地獄。


 僕は吐きそうになるのを必死にこらえ、教室に戻った。廊下にいたのはさっきグラウンドにいた女だった。やはりあいつが不審者だったのだ。あの女は友達を食べていた。食べていた、と言うよりは1口かじっては投げ捨てていた。廊下には逃げようとして食べられた友達、先生の死体が積み重なっていた。その上をゆっくり歩きながら、生きている者を見つけかじっては投げ捨て、かじっては投げ捨ててこちらに進んでくる。ついこの前改装したばかりの真っ白な廊下は、血で真っ赤に染まっていた。

 僕は現状を理解できなかった。

 ここから逃げて生き延びなければならない。

 ……僕は1つ閃いた。

 教室に生き残っていたクラスメイトとともに複数人で教室から逃げ出そうと思ったのである。複数人ならば、全員逃げられなくても何人かは生き残れるだろうという考えだった。

 タイミングを見計らい、僕らは教室から飛び出した。


 僕らは運良く全員で逃げ出すことに成功した。女は人をかじるのに一生懸命で、僕らを見ていなかった。

 僕らはひとまず女から距離を取るために最上階へ移動した。


 ―それから始まったのは、生き残った僕らと女の地獄の鬼ごっこだった。

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