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夜の約束

 以前立ち寄った町で買った簡易パック製の食事を終えて、二人は何となくその場に並んで座っていた。


 夜になって空を照らしていた太陽の代わりに広がる星空を眺めていると、リアルが小さく声でアオハルに声を掛ける。


「さっきの話だけど」


「ん?」


「何でアタシが、あの電波女がガクラン隊だって言わなかったかって話」


「ああ。なに、教えてくれるの?」

 今更かよ。と続けて笑うアオハルに、リアルは無言で目を伏せ、そのまま地面に寝転がった。


 汚れが付かない服ならばともかく、むき出しになっている手や頭には地面に生えた芝生が付着するだろう。汚れを嫌う彼女にしてはそれは珍しいことだった。


 やがてゆっくりと目を開けたリアルはアオハルをジッと見つめた。


 強い意志を感じる瞳。


「アオハルは」


「……」


「アオハルは、ガクラン隊の人を見つけたら、どうするつもりなの?」


「どうするって、そりゃガクラン隊に入れてくれるように頼むに決ってる。さっきの光景を見た後でも、それはやっぱり変わらない」


「もし、それでその場で採用。みたいな形になったら」


「就職みたいな言い方するなよ。俺にとってガクラン隊は仕事じゃなく、生き様なんだぜ」

 重苦しい空気を払拭するように軽口を叩くが、リアルはクスリともせずにアオハルを見つめたままだ。


「そうなったら、アタシはどうなるの?」


「え?」


「アタシは、ガクラン隊に入る気にないし、と言うか入れるとは思えない。そうなったらアタシはアオハルとは一緒にはいられないかも知れない」


「リアル……」


「ガクラン隊がどんな方法で遺跡を探しているのか分からない。それそれ勝手に動いているのかも知れないし、もしかしたら本部みたいなところがあって、そこの指示で彼方此方に移動しているだけかも知れない。もしそうなら、アタシも一緒に旅を続けるなんて不可能でしょ? アオハルだって、アタシと一緒にいることにそんなに拘っていないみたいだったし――」

 それは昼間話した時のことを言っているのだろう。


 偶然一緒に旅をすることになり、それから三ヶ月程経ったが、それでもアオハルは一度たりとも、彼女のことを必要だとか一緒にいて欲しいなどと口にしたことは無かった。


 それが、リアルにとっては不安の種だったのだ。


「リアル、お前そんなこと……」


「そんなこと。で悪かったわね! どうせアタシはそんなつまんないことばっかり考えてる暗い女ですよーっだ!」

 べーと声に出しながら一緒に舌を出すリアルの子供っぽい仕草に、アオハルは声を出して笑った。


「何笑ってんのよ。このバカハル!」

 自分で口にした言葉が恥ずかしくなり、顔を暗闇でも分かる程に赤くしながら、身体を起こし、アオハルの服を掴みにくるリアルの頭にアオハルは手を置いた。


「ちょ、ちょっと!」


「約束するよ」


「え?」

 リアルの言葉を遮って、アオハルが口を開く。笑ってはいるがその声は真剣そのものだ。


「少なくとも、お前が俺を必要無いって言うまでは、俺が一緒に旅を続けてやる」


「でも、もし。あの電波女が駄目って言ったら」


「その時は、良いって言ってくれる奴をまた捜せばいい。それだけだ、アイツは別に唯一無二のガクラン隊員じゃないんだからよ」


「アオハル……」

 思わず、彼の名前を呼んでしまう。


 何を言いたいのか、まだ纏まりきっていないのに。


「なんだよ?」

 気がつけば、アオハルの顔は直ぐ近いところにあった。少し顔を前に出せば、顔同士がぶつかり合う程、近くに。


 その事を自覚した途端に、リアルは顔が熱くなるのを感じた。


 今までの恥ずかしさから来る熱さではない。それはもっと別の熱さ。同時に激しく動き出した心臓の音が、彼にまで聞えるのではないかと錯覚する程大きく鳴り出す。


「アオハル……」

 もう一度名前を呼ぶ。


 今度はただ呼ぶのではなく、求めるように。


 そしてリアルは自分の頭に乗っているアオハルの手をそっと退かし、顔を近づけた。


「お、おい。リアル?」

 戸惑いの声を上げるアオハルの声でリアルはビクンと身体を振るわせて、動きを止めた。


 もう少しで触れあう。と言う所まで近づいた顔をパッと離し、同時に彼から顔を背けるように身体ごと横を向いた。


「なら貴方は、アタシが良いって言うまでずっとアタシの下僕だからね」


「ちょっと待て! 同行者だろ? 勝手に下僕にするな!」


「似たような物でしょ? 貴方、基本的にアタシのサポートしてるし」

 食事の用意や宿の手配、買い物などは大抵アオハルの仕事だ。


 その事を言うと、アオハルは怒りで肩を振るわせながら、それでもどうにか冷静を保つように深く息を吐いてから怒りを殺した口調で言う。


「お前が、何も出来ないからだろうが。飯つくらせれば、中身ぶちまけて、買い物任せれば自分の欲しいものしか買ってこない。宿取らせれば勝手に一番高い部屋取ろうとしやがって、しかも金は自分の分しか出さないとかぬかしやがる」


「当たり前でしょ?」


「俺の財政状況を考えてから言えよ! お前が泊まろうとする宿、高すぎて俺には払えないんだよ」


「これだから貧乏庶民は」


「うるせーよ。お前と一緒にすんな! お嬢様って属性が我が儘の免罪符になるのは物語の中だけなんだからな」


「アタシの下僕になるなら、お金、立て替えてあげても良いのよ?」

 口元が思わず緩むことが止められないまま、リアルはアオハルに言う。


 途端に彼の身体は反応し、それに比例するように顔が歪んでくる。


「この女。足下見やがって」


「ほらほら。アタシの下僕になるって宣言しなさいよ。楽になるわよー? 美味しいもの食べられて、良い宿に泊まれて、しかもやってる事は今までと変わらないのよ? 良い条件でしょ?」


「断る! 俺はプライドは売らん! いや、売れん」


「男って本当にバカな奴ばっかりよね! プライドなんか1Gにもならないのに」


「うるせー。俺のプライドはお前の全財産より高い。男の意地って奴はな、それぐらいの価値があるんだよ!」


「男って本当にバカ」


「んだと!」

 言い合いを続ける中で、リアルは自分の顔の火照りが収まって行くのを感じた。


 あのまま続きをしなかったことに残念な気持ちもあったが、それでも取りあえず現状のまま、この居心地の良い空気が保たれたことを、彼には気づかれないようにホッと胸をなで下ろした。


 そのまま夜が更けるまでずっと、二人は言い合いを続けた。


 二人とも口汚く言い合いをしているが、その顔には笑みが浮かんでいた。

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