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世界の歴史と現代の厄災

 遙か昔のある日。


 突然世界は海へと没した。


 それが何百、何千年前なのか、正確には分かっていない。


 だが少なくとも現代以上に発達した文明を築いていた人間は一度全てを失った。


 雨が降り続いたのか、地盤が陥没したのか、文献が残っていないため、それすら分からないが世界のほぼ全ての大地が海へと沈み、生き残った人々は僅かに残った陸地、元は高い山だった場所で何とか生活を続けていた。


 そんな暮らしを初めて幾年後か、これもまた定かではないが、一人の科学者が、ある発明をした。


 彼は殆ど何も残っていなかった資源である物を作り上げたのだ。


 海の上にもう一度陸地を作り上げる装置。


 正確には海を固め、それを陸地にすることが出来る装置を開発した。そうして、再び人の住める場所が広がると共に、それぞれが孤立していた人々は交流することが出来るようになり、その結果以前同じく人と言う種を増やすために、人々は様々な人種と混ざり合いながら数を増やし、それがやがてハイヒューマンを生み出していくこととなっていった。


 陸地を作り上げた科学者は更に発明を続け、海に沈んだ砂や岩、土などを吸い上げ、それを陸地に変わった海に敷くことで、以前のような地層を作り出すことに成功し、やがて、人々は没する以前のように、田畑を耕し種をまき、作物を収穫出来るようになっていった。


 更に長い月日が経ち、人々がもう昔と同じ生活を取り戻した頃。

 現代から数えること凡そ百年前、何の変哲もない農村でそれは起こった。


 初めはそれが何であるか、誰にも分からなかった。


 突然揺れる地面。それが何であるか知る者は居らず、突然鳴り響いたその音に、人々は驚き未知なるものへの恐怖を抱いた。


 そして。


 後に世界で初めてそれに壊された家として有名になる村人、スケール・アルバの自宅にそれは現れた。


 当時、家の中で作業をしていた彼はこう語る。

 地響きの音が徐々に大きく、近づいて来ているのが分かった、と。


 地面の上に、薄いパネルの床を張っただけの簡易的で質素な家。その床が、突然盛り上がった。今まで体験したことのないその現象に、彼は整備をしていた農具を放り投げ、窓を破って外へと飛び出した。


 地面を転がり、その傷みに耐えながら振り返ったその先にあったのは、宙に浮かんだ自分の家。そしてその家を貫いて立つ大きな柱状の物体。


 後に『遺跡』と名付けられるそれが、人類の目に触れた瞬間だった。




 その日を切っ掛けにするように、世界の彼方此方で地面を割って海中から巨大な物体、遺跡が現れると言う現象が立て続けに起こり始めた。


 時間も場所も個数も関係なく、ある日突然、地面を割って起きる災害を人々は恐れ、どうにか出来ないかと、現れた遺跡を必死に調べ上げた。


 詳しい調査の結果、幾つかのことが分かった。遺跡と呼ばれる事になった海から現れた物体は、かつて海へと沈んだ世界で人が住んでいた建物であったと言うこと。長い間海底に沈んでいたにも関わらず、周りにコケや海草が生えるだけで、建物自体に損傷は無く、当時の形をそのままに保っていると言うこと。


 遺跡を造っている材質は現存するどんなものよりも硬く耐久性も高い為、容易に破壊することも出来ず、破壊出来たとしても、その欠片を加工する術は現代の科学力では不可能であると言うこと。


 建物そのものの大きさが現代の物より遙かに大きく、現代で言うところの物置に当たる一番小さな遺跡でも三メートル四方、高さは五メートル近くに登ると言うこと。


 入り口の開け方が分からないため建物の中に入ることは出来ないが、初めから壊れた状態で現れた幾つかの遺跡を調査したところ、遺跡ごとに一つずつコアと呼ばれる球状の材質、用途、作成法、それら全てが謎の物体が有り、それは建物に比べ強度が弱く、道具を用いれば現代の科学でも破壊することが出来るが、破壊すると同時に光を発しながら遺跡ごと周囲を巻き込む爆発が起こると言うこと。


 調査にとってこれらのことが分かったが、結局、安全に遺跡を破壊する術も、どこに現れるかを探知する術も、分からないまま、数十年の月日が流れた。


 遺跡による災害は、自然災害の一つとされ、起こったとしても仕方がない、どうしようも無いと言う諦めに似た感情を人々は持ち始めた。


 ある一部の人間を除いて。


 彼らは、遺跡に家族や家、仲間、或いは自分の身体の一部などを奪われ、遺跡に恨みを持った者達が集まり結成された組織だと言う。


 遺跡を破壊する術をひたすらに研究し、数多の武器を作り出し、そしてそれを扱うために身体を鍛え続けた。


 やがて、ハイヒューマンと呼ばれる選ばれた特異人種たちが台頭し始め、組織の中にもハイヒューマンが現れ出した頃。やっと一つの武器。遺跡の外壁を破壊出来る特殊な物質を作り上げた。


 様々な金属を特別な配合率で調合し、特殊な技術で加工して丸くした金属球。それをある一定の速度を持って射出した場合、その重さと加速度によって遺跡の壁を貫き、中にあるコアを破壊することが出来る物質だった。


 遠くからそれを射出する武器も様々なバリエーションが造られ、やっと彼らは本来の目的を果たすために動き出した。


 武器を手にした彼らは、先ずは現在放置されたままになっている遺跡を破壊し始めた。大方破壊し終えると、今度は新たな遺跡を探すために世界中に散らばり、各々が新しい遺跡を求めて行った。


 彼らは皆、ガクランと呼ばれる黒い防護スーツを身に纏い、身体を鍛え続けるため自分の脚でもってペダルを回して走る自転車と言う乗り物を駆って世界中を回り続けている。


 いつしか、彼らはこう呼ばれるようになった。


遺跡の破壊者。黒のガクラン隊。


 それは決して称賛の言葉では無い、むしろ皮肉に近い言葉だ。


 だがそれでも遺跡を恨み、遺跡を憎み続ける彼らの脚が止まることは無い。今も尚、彼らは世界を駆け続けている。


 その瞳に怒りを携えて。

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