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スターの条件

 遺跡が個別では無く、一斉に複数個現れる事例が稀にだがあるのは知っていた。


 そもそもアオハルの村を破壊した時が、それだった。一斉に浮上した幾つかの遺跡が町の彼方此方を破壊しながら姿を現し、その影響で村は死滅し、アオハルは遺跡と遺跡の間に閉じこめられたのだ。


 そのことをアオハルは知ってはいたが、同時に世界中を回り、遺跡に関する情報を集めていく中で、それが極端に珍しい事例であることも知った。


 遺跡はその殆どが先日あの村に現れたものや、今回のジャンキングタウンに現れたもののように一つだけ現れるもので、多数の遺跡が同時に上がって来るなどと言う話は聞いた事はなかった。


 だからアオハルが、リアルの話を聞いて、先ず一番初めにしたことは、撫子の元に行くことだった。


 彼女に先んじて遺跡を破壊しに行くつもりだったが、複数個の遺跡が同時に浮上してくると言うのならば、これはもうアオハル一人の手に負えるものではない。


 撫子に事情を説明し、協力を仰がなくてはならない。


 そのまま気絶してしまったリアルの代わりに、ハンドルを取ったパンプキンを駆り、アオハルは三人に与えられたテントの前に辿り着いた。


 パンプキンを飛び降り、乱暴にテントを開けて中へと入る。


「撫子ッ!」

 彼女の名を叫びながら、アオハルはテント内を見た。


 そこにあるのは三つのベッドだけ。他には何もなかった。


 撫子の荷物も、彼女の武器も、そして彼女自身の姿も。


「あのバカ!」

 感情のまま、怒りの言葉が吐き出された。


 ここにいないのであれば、行き先など一つしか無いのだから。




 突然現れたパンプキンに、住人達は一度宴会を止め、何か起こったのかとパンプキンの周りに集まり出したが、それらを一切無視し、アオハルはパンプキンの中に戻ると、再びパンプキンを走らせ始めた。


 中から見える景色が一気に加速し、けれどどこにもぶつかることも人を轢くことも無く、パンプキンは滑るように移動し続ける。


 それはアオハルのハンドル捌きが見事だからでは無く、単にパンプキンの性能によるものだった。


 何もしなくても勝手に障害物を避け、それで有りながら、殆ど減速もせず走り続けることが出来る。


「リアルの奴。本当に良いもんに乗ってやがったんだな」

 こんな時に何を考えているんだかと心の何処かで思いつつも、アオハルは感心したように呟き、更にアクセルを踏み込んだ。


 どうせぶつかることが無いのなら、出来る限り早く行かなければならない。


 彼女の元へ。


「まっ、たく。アタシのパンプキンに無茶な、運転させるんじゃ、無いわよ」

 助手席に移動させたリアルが頭を押さたまま、うっすらと目を開け、肺から全ての息を吐き出すかの様な深いため息と共に言った。


「おっ。やっと起きたか。借りてるぜ」

 まだ苦しそうではあるものの、それでも遺跡の移動を感知した事による気分の悪さには早くも慣れてきたらしい。


 前の遺跡から殆ど時間が経っていない為、身体が順応していたと言うのも大きな理由だろう。


「……別に、いいけど」


「思ったより怒らないのな」

 以前はパンプキンに触れただけで怒りを露わにしていた彼女からは想像もつかない。そんな皮肉を交りに言うアオハルに、リアルは小さく鼻を鳴らし、そっぽを向いた。


 リアルを素早く見つける為、内側からの透過性は透明と同様にまで下げている。地面までも一瞬で後方に流れていく景色は、乗っていて少々恐ろしいものがあった。


「別に。言ったでしょ、乗せて行ってあげるって。これに乗せるって事は、アタシが全幅の信頼を寄せているコイツに人を乗せるって事は、そう言うことだから」


「そう言うこと?」

 ハンドルを切りながら、遠巻きにこちらを見て、驚きの表情を見せている住人達の間を擦り抜け、村の入り口へと向って走っていく。パンプキンに乗ったまま中に入るためには、先ほど四人で出て来た裏口からでは少々手狭だ。


 やはり荷物を満載した乗り物でも楽に通れる、あの正面入り口から入るより他に無い。


 一人用の乗り物であるパンプキンなら簡単に入れるだろう。


「察しなさい!」

 ジロリと睨みを利かせながら、リアルは言葉を吐き捨てる。


「ああ? 何言ってんだお前、言いたいことあるならハッキリ言えよ」


「っ~! だから、アタシは貴方のことをコイツと同じくらい信頼してるって事! 本当に察しの悪い奴! この、バーカ」

 一気に膨らんだ怒りをはき出しながら言うその声は、その後、一転して小さくなり、最後のバーカはもう聞き取れないくらいの声量だった。


「今更かよ」

 鼻かを鳴らし、アオハルは横目でリアルを見た。


「え?」


「俺はとっくの昔に、お前のことを誰より信頼してたっつーんだよ」




 調度良くか、都合良くか。


 開いたままになっていた、大きな門から町の中へと入る。


 結局通ることの無かった町をグルリと囲む壁に取り付けられた正門は、くぐり抜けるとそのまま高い壁に囲まれた場所があり、その中には様々なゴミが重なり合って山を作り上げていた。


 この町の住人からすればその山はゴミでは無く、直して金に換えられる宝の山なのだろう。そんなことを通り過ぎる一瞬に頭を過ぎった。


 スピードを緩めることなく一瞬のうちにジャンクの山を通り脱けると、その先は真っ直ぐな一本道。その道は一直線に遺跡の麓まで繋がっていた。


 町の中心である町役場がある広場には、どこからでも行けるように造られているのだろう。


 所々地面がヒビ割れたその道を、駆け抜けながら、アオハルは再び叫んだ。


「今度は俺のことをまったく信用してない撫子に教えてやる! 俺がどれだけ信用に足りる男かって事をな!」


「自分で言うか。と言うか、あんな電波を名前で呼ぶな」


「言うさ。俺は、我が儘で傲慢で、自信家だからな」

 後半の言葉を無視して言うアオハルに、リアルはあからさまな息を吐くと、諦めた様にアオハルを見ながら言う。


「それだけ聞くと本当にどうしよう無い奴。だけどそうね、アタシも教えてやねわ。あの電波女に、アンタがどれだけ頼りになる馬鹿かって事をね」

 アオハルと同じようなことを口にしたリアルは、ニヤリと不敵に口元を持ち上げて笑う。


 それに合わせるように、アオハルも唇を持ち上げた。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



 二人が笑みを交し合った、その時。


 いつか何処かで聞いた不吉な声が、辺り中に響き出した。


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