偶然に起きる必然の運命
三十分と経たずして、町から人の姿が消えた。
「おお。流石は町長、見事な手腕だな」
縛り上げていたロープを解かれ、その姿が住人から見えないように窓から外れる位置で住人に向ってマイクから放送を流し終えた町長の肩に手を置く。
アオハルが町長を人質に取ったから邪魔しないように町から出て行け。と言う手筈だったのだが、それでは住人は反発し、町長を取り戻そうとここに押しかけるかも知れないと言う町長の進言で、放送は町長自らが行った。
反発を防ぎ、尚かつ迅速に住人を避難させるため、現在町の中に爆弾が仕掛けてあると虚言を口にした時は思わず吹き出しそうになったアオハルだったが、どんなに陳腐な言葉であってもそれを言う人物と、言い方によってあれほどまでに信頼を勝ち取れるものなのかと、逆に感心させられてしまった。
「取りあえずこれで問題は無かろう。遺跡が現れるまでどのぐらい時間があるかは、分かっているのか?」
「最長で四日。それ以上は何も言えないわ。今すぐかも知れないし明日、明後日かも知れない。けれど今までの経験上それ以上は伸びないと思う」
「四日か。思った以上に長いな、それだと際どいかも知れん」
「際どい?」
「あまりに長く待避させていると、住人達にもストレスが溜まる。それが爆発してしまったら、恐らく住民達は暴徒となってこちらに押しかけるだろう。爆弾とは言ったが、四日も爆発しないとなると怪しんでくる者達が必ず出てくる」
「そもそも、四日も町の中漁り続けると言うのも向こうとしては、嘘くさく思えるのではないかしら」
もう住人に見られる心配が無くなったためだろう、荷物の中からガクランを取り出し、身に纏いながら思いついたように撫子が言う。
現在アオハル達はこの町を襲いに来た強盗団と言う役回りになっている。
町長を監禁し、町に人が入らないように爆弾で脅しつつ、町に残った財産を奪う。それが済むまで中には誰も入らせず、入った瞬間、爆弾を爆破させ町長の命を奪うと明言してあるのだ。
撫子の言う通り四日も町の中を漁り続けると言うのは現実的ではない。実際に金目の物を集めるだけならそう時間は掛からないだろう。
だから四日と言う時間は余計に町の住人達に疑惑を与えかねない。
「そうだとしても何とか乗り切るしかないだろ。後はどれだけ早く遺跡が現れるか、それに賭けるしかないな」
「賭け事って嫌いなのよねアタシ。絶対に儲かることしかしない主義だから」
「珍しく気が合いますね。私も得意ではありません。賭けごとも所詮運命の一部、勝とうと負けようと初めから決められた定めなのですから」
「貴女みたいな運命馬鹿と一緒にされたくないっての」
「運命を侮らないで下さい。それは私の運命の人であるアオハルくんをも馬鹿にしているのですよ」
「勝手に決めんな! アオハルが貴女の運命な訳ないでしょ。アアアアアオハルは、あ、アタシの……」
そのまま尻すぼみになって言葉が消えて行く。
顔を真っ赤にしたリアルを前にアオハルはやれやれとばかりに息を吐き、仕方なく二人の仲裁をしようと口を開いた。
「いい加減にしろよ。いつ遺跡が来るか分からないんだぜ?」
そうアオハルは言った。
その通りだ、実際いつ遺跡が来るかは分からないのだから、今すぐに現れても何ら不思議はない。
だが。だがしかし、ここにいる全員、遺跡を壊すプロである撫子でさえ、その可能性を理解していながらその実、有り得ないと高をくくっていた。
今すぐ遺跡が現れる可能性があっても、実際にすぐ来ることなど無いだろうと。そう思ってしまっていた。
例えば今この瞬間からタイムリミットである四日後まで、そのいずれかの時間で遺跡が現れると仮定した場合、その中で最も劇的な、と言うか出来すぎたタイミングは四日目。つまり想定した期限ギリギリに来ると言う可能性か、或いは逆に今この瞬間に来るという可能性だ。
可能性としては、どの時間帯でも変わりはないというのに、人はそうした最初と最後に妙な特別感を抱く。
そして同時に人は経験として知っている。人が生きる世界に置いて、特別だとか、奇跡だとか、そうした出来過ぎた、劇的な事など起こらないと言うことを人は知っている。
だから彼は無意識的にこう考えていた。遺跡は現れるだろう。しかしそれは今すぐでも四日後でもなく、その中間辺りに何の前触れもなく突然、現れる可能性が最も高い。
そんな風に思ってしまっていた。
だがしかし。
そもそもアオハルと撫子。彼らが本物と偽物の違いはあれどガクランを身に纏い、この場所にこうして立っていること自体、遺跡によって自らの世界が奪われ、自分だけが生き残ると言う、劇的な、出来すぎた物語のような現実によって引き起こされたのだと言うことを、彼らは長い時間の中で忘れてしまっていた。
ゴゴゴゴゴ
初めは小さな地鳴りだった――
それに先ず反応したのは撫子。
彼女はその僅かな音が鳴り、地震となって地面を揺らすより早く地面を蹴って移動すると、自分のバックを手に取り、中から自分の武器を取り出した。
片手で持つには少々余る大きさの黒いL字型のそれ。
先端は細い筒状になり、L字の直角部分にトリガー。その上には回転式の弾倉が付いたリボルバー型の拳銃に似たデザインのそれ。
それがガクラン隊として遺跡を破壊する時に彼女が使う武器であるのは、確認するまでもなく、次の瞬間地面と共に揺れ出した建物の出口を、確保するために彼女は駆け出した。
「え!? ウソ!」
「ぬ、ぅ」
甲高いリアルの叫声と、押し殺したような町長の苦悶の声。
そして、地面の揺れが増大すると共に。
横に揺れていた地面が大きくなった地鳴りと共に縦に揺れ出した。
「この下から来ます!」
鋭く叫ぶ撫子。
彼女はドアの前に置かれた机の真横まで移動すると、ドアを塞いでいた机の横腹に鋭い蹴りを入れた。重い机とその上に重なった本棚は、華奢な体躯からは想像も出来ない程の破壊力を秘めた撫子の蹴りの衝撃で簡単に浮かび上がり、そのまま回転してドアの前から姿を消した。
揺れに足を取られながらも、壁を伝いつつリアルと町長もドアの前まで移動してきた。
そんな中、アオハルは。