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正義の始まりは監禁から

 夕日の沈んで行く町を見ながら、アオハルと撫子、まだ多少足下のおぼつかないリアルの三人は、町長がいると言う町の中心地に建てられた五階建ての建物の前にいた。


「本格的な遺跡破壊第一号が、まさかの誘拐からスタートとはな。人生はどう転ぶか分かりづらいもんだ」


「誘拐ではなくて、監禁に変わりましたけどね」


「この場所なら丁度良いでしょ。移動の手間が掛からないし、一番上にある町長の執務室を制圧すればそれで終わる。簡単なお仕事ってね」


「実行は私達なのに、随分と偉そうですね、貴女は」


「作戦立案はアタシだもの。アンタみたいな脳筋電波馬鹿は黙ってアタシの言うとおりに動いていれば良いのよ」

 早速険悪になり始める二人を前に、アオハルはやれやれと口には出さず呟いて、ため息を吐いてみせるのだった。


 直に、日が沈む。


 作戦開始の時刻はそこまで迫っていた。


「さあ、正義を始めよう」

 正義はとても難しい。つい先ほどそう宣言したアオハルが口にしたその言葉を合図に、三人は建物中に侵入した。




「いや、あれだな。高いところから見下ろす景色って言うのはやっぱり良いもんだな。アンタもいつもそう言うこと考えながら仕事してるのか?」

 町内の問題を取り仕切る役場として造られた建物。その最上階の窓から下に集結している人々を見下ろしつつアオハルは言い、後ろを振り返った。


 椅子に身体を括り付けられて拘束された町長が、敵意を持ってアオハルを睨んでいる。


 背後からは執務室の壁を叩き続ける音が聞えていた。そのドアの前にはかなり高級品だと思われる町長が使っていた木製の重い机を置き、更にその上に本棚を乗せることで向こう側から入れないようにしている為、今アオハル達が気をつけなくてはならないのはドアの向こうではなく直線上に設けられた窓だけだった。


「君たちは、何が目的でこんな真似をしているのだ?」

 髭を生やした痩せ形の紳士。それが町長の第一印象だった。


 この雑多な町を一から作り上げた男と言うことで、それこそあの町の入り口で出会った中年男のようなガタイの良い男をイメージしていただけに、少々当てが外れたが、これはむしろ好都合だと言えた。


 この手のタイプの男ならば、ちゃんと話を聞いて貰えるだろう。


「こんな出会いで申し訳ないが、俺達は決してアンタに害を与えるつもりでここにいるのではないと言うことを、先ずは信じて貰いたい」


「そうね。むしろ助けに来てあげたんだから、謝礼くらいは欲しいよね」


「金か」

 憎々しげに呟く町長。リアルの余計な一言で妙な誤解を与えてしまった。


 アオハルはリアルを一睨みしてから町長に近づく。


「いや、そうじゃない。本当に俺達は善意の押し売りをしに来ただけだ。金もいらない。ただちょっとアンタと落ち着いて話がしたいだけだ。対等な立場でな」


「ふふっ。ここから見る光景は、とても悪役な絵柄です」

 椅子に縛られた町長の前に立ち、見下ろしながら高圧的に物を言うアオハルの図を部屋の隅、リアルの近くで見ていた撫子が呟いた。


 確かにと思わないでもなかったがこれ以上話を遅らせても、害しかないと撫子を無視してアオハルは口を開く。


「遺跡って勿論知ってるよな?」

 確認に近い問いかけに、町長は否定も肯定もしない。こちらの意図を確かめようとしているようだ。そんな彼に軽く肩を持ち上げながらアオハルは続ける。


「俺達はその遺跡を壊して歩いている者だ」


「……既に隊員になったかのような物言いをして」


「元々壊して歩いてたのよ! アタシとアオハルは。二人で、二人っきりでね!」

 二人きりを強調しているリアルを一瞥し町長はやっと重い口を開く。


 その口から出た言葉は意外なものだった。


「ガクラン隊か?」


「へ?」


「ほう」

 思わず間抜けな声を出したアオハルと、感嘆の声を出す撫子。


 現在二人はガクラン隊の象徴とも言える上着、黒いガクランを身につけてはいない。ここに来るまでの間に目立ってはマズイと、脱いで荷物と一緒にバッグに詰めたままになっている。


 そんな状態で二人を見てガクラン隊だと言い当てたことに、二人は驚いた。


 特にガクラン隊の情報を集めるため、新しい町や村に着くと先ずこの服を聞いてる奴らの話を知らないか。と聞いて回ったアオハルの見解からすると、ガクラン隊を知っている者は非常に少ない筈なのだ。


 そもそも遺跡は何も町や村の中にだけ現れるものではなく、むしろ逆何もない場所に突然現れる方が圧倒的に多い。だからそうした場所の遺跡を壊して歩いているだけのガクラン隊を知る者は極限られた者達ばかりで、知っているのは過去に自分たちの村で遺跡を破壊されたことがあるか、もしくは近くの村などで遺跡を壊され、その話に聞いたことがある。と言った者達だけだった。


 だからこそ、アオハル達は町長を監禁すると言う手段に打って出たのだ。


 ガクラン隊の知名度がもっと高ければ、自分たちがガクラン隊で、この町に遺跡が現れると言う情報を元にやってきたと告げればそれだけで信用される可能性もあっただろう。


 それが出来ないが為に強引な手段を取ったと言うのに、町長がガクラン隊を知っていたのは少々拍子抜けな気がしたが、それでも余計な手間が省けたとポジティブに思い直すことにして、アオハルは頷いた。


「そう。俺達がガクラン隊だ」


「……だからまだ正式な隊員では無いでしょう」


「うるさいわね! 説明するの面倒なんだから黙っておけば良いの。ちょっとは自重しなさいよ電波女」

 そこは彼女としては譲れないところなのか、再び口を出す撫子をピシャリとリアルが止め、それを見てからアオハルは続けた。


「実はこの町の中に遺跡が現れることを探知してね。本来なら町の人たちに忠告してやれば良いんだろうけど、アンタの様に俺達のことを知っている人は少ないんでね、アンタに町中の人に一度外に出て待機して貰うよう指示を出して貰いたいんだが……」


「それを証明することは出来るのか?」

 アオハルの言葉を遮り、町長が言う。


 例え町一つとは言え住民の代表。強い圧迫感を持った瞳は、アオハルの言葉の真意を探ろうとしていた。


「証明?」


「例えば、そうした触れ込みで町を空にし、残っている財産を奪うための方便では無いと言う証拠があるのかと聞いている」


「なるほど。その手があったわね」


「貴女は人に自重しろと言う割には、自分は自重しませんね。とても俗らしい」

 後ろで感心したように手を叩いているリアルを今度は撫子が非難する。


「無い」

 きっぱりとアオハルが言い切る。


 そもそもが根拠はリアルの力だけ。それは数値として出すことも目に見せることも出来ない彼女だけの感覚だ。


 アオハルとて明確な根拠は何一つ持っては居らず、ただ彼自身がリアルを信用している、証拠を挙げるならそれだけなのだ。


 そけでは出会ったばかりの町長に口で言って信用させることなど不可能だ。


「だからこそ、アンタを監禁させて貰ったんだ。無理にでも、無理矢理にでもやって貰うぜ?」

 縛り付けられた町長を見下ろしながら言う。


 そんなアオハルの態度にも一歩も引くことなく、町長は黙って彼の目を見続けていた。


 視線が交差し合い、数十秒。


 室内に有る音は時計の音と、未だドアを叩き続ける住人の怒声だけ。やがて沈黙を破ったのは町長だった。


「一つだけ聞かせてくれ」


「何だ」


「何故君はこうまでして住人を助けようとする? 私を脅して住人を避難させ、実際に遺跡が現れても、恐らく住人達は君達が自分を救ったとは考えまい。偶然が重なった。或いは君たちに天罰が下ったとそう考えるかも知れない。だと言うのに、何故知り合いでもない者達を助ける為にここまでのことをする?」

 とても重要なことを尋ねるように言った町長の言葉に、アオハルの方はなんてつまらない質問だとばかりに呆れた息を吐き、そのついでに答えた。


「助けられる奴を助けることに一々意味とか大層な理由とか考えるかよ」

 それはアオハルの行動を決める第一にして最大の理念。


 自分の力で助けられる者がいるなら、助けた方が相手にとっても自分にとっても良いに決っている。


 それが何のメリットも無いのに自分を地獄から救い出してくれた、あのガクラン隊の男から学んだアオハルの信念。


「……そこにあるマイクを、持って来てくれないか」

 やや間を開けてから、町長は言う。


「協力しよう。住人を救いたいのは、私も同じだ」

 ヒュウと後ろでリアルが口笛を吹いた。


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