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作戦会議

「元々この土地は土に栄養が無く、作物が育ちにくかったようで、とても貧乏な村だったそうです。けれどその代わり、その痩せた土地でどうにか生活して行く為に、色々と工夫した工具を開発して作業効率を上げたり、新しい作物を研究したり、そう言った事が得意な方が多く、それに目を付けて他から集めた鉄屑や壊れた品を、買い取って修理し、売ることで生活する。そうしたシステムを作り上げて、ここは貧乏な村から豊かな町へと変わって行きました。その基盤を作り上げたのが、現在の町長で、町の人々はそのお陰で現在の暮らしを手に入れたことを感謝しているみたいですね。町長自身もかなりの人格者のようで、今でもかなりの人気者だそうですよ」


「ますます好都合よ。ねえアオハル。こっちが本当のことを言っているのに信じない奴らに無理矢理信じさせる。ううん、本当に信じさせる必要はなくても、こっちのもくろみ通りに動かすにはどうしたらいいと思う?」


「さあ。生憎と俺は人心掌握術には優れて無いんでね。皆目見当も付かないよ」

 そう言ってまた首を傾げかけるアオハルだったが、リアルに強く睨まれた為、即座に首を真っ直ぐに戻した。


「簡単よ。脅して無理矢理言うことを聞かせればいいの。一人一人脅す手が足りないなら、重要で人望のある人を一人脅せばいい。その人を慕っている者が多ければそいつらは無条件で言うことを聞くし、そうでなくても、人間は多数が動けば釣られて動く。残った僅かなひねくれ者は、慕っている多数に無理矢理言うことを聞かせられるはずよ」


「……それはつまり」


「町長を脅して、町中の人間に逃げるように指示を出させる。と言うこと?」

 撫子に続くように、アオハルが言う。


「そ。良いアイディアでしょ? これだけ人が多いのよ。どこで遺跡が現れても直ぐにパニックが起きる。そうなったら危険だし、遺跡を壊す上でも邪魔でしょ? だったら初めから全員追い出しておけばいい。長くても三日か四日ぐらいでしょうし、アオハルなら、それが可能の筈」

 アオハルなら、それはつまりこういう事だ。ただの人間なら、人質を取ろうとしても直ぐに捕まる。


 上手く行ったとしても、町長を助けようとする者達が出てくるだろう。


 しかし、相手がハイヒューマンであれば、話は別だ。


 人間の数倍以上の身体能力を持つ特別な人間、その能力はもう普通の人間では束になっても敵わない強力な兵器のような物だ。


 諦めて従う可能性は高いだろう。


 しかし。


「正義の味方っぽくは無いやり方だな」


「仕方ないでしょ。結果的にはちゃんと正義よ。誰も傷つかないんだから。それともなに? 他に方法があるとでも?」

 ギロリと睨み付けてくるリアルはもうすっかりいつも通りの表情だ。完治したとは思えないが、少なくともそれを表面に出さずにいれるくらいには回復、或いは順応しているらしい。


「いや無いよ、分かってる。他に方法がない以上、そうするしかないって事。それに俺ももう子供じゃないからな。正しい行動を取って完璧な結果を残すなんてことが、出来るとは思ってないよ。正義はとても難しい」

 そう。


 かつてアオハルを救ってくれた、あのガクラン隊の男でさえ、救えたのはアオハルただ一人だったのだ。それ以外は誰も救えなかった。それは正義の味方としては最善ではあったかも知れないが、最高の結果では無かったに違いない。


 だから、そう容易く最高の結果を得られるとはアオハルも思ってはいない。


「でしたら早く行動を起こしましょう。幸い私とアオハルくん二人いるのですから。一人は彼女を守って、もう一人が町長を誘拐するのが良いでしょう」


「……」

 彼女と言いながらリアルを指す撫子の言葉で、アオハルは気がついた。


 確かにリアルの提案した策は良いアイディアだと思う。だがしかし、現状でそれを実行するのには手が足りないと言うことに。


 必要な手は二つ。一つは町長の誘拐に、そしてもう一つは、現在遺跡の移動によって消耗しているリアルの護衛。撫子はそれをアオハルか撫子、どちらかがどちらかをやると言ったが、ガクラン隊ではあってもただの人間である撫子にそれが務まるだろうか。


 最長ならば四日間。基本的に不眠不休で遺跡が現れるのを待つことになる。それが、ただの人間である撫子にそれが可能だろうか。


 そんな想いを込めた視線に、撫子は首を傾げアオハルを見上げた。


「何か?」


「撫子。頼みがある、その誘拐は俺がするから、お前はリアルを連れて、一度外に逃げていてくれないか?」


「ちょっと! アオハル、アンタ何を」


「……何故?」

 怒りに吠えるリアルを手で制し、撫子は真剣な表情でアオハルを見据えて言う。


 その視線から逃れるようにアオハルは視線を下に向けた。


「リアルは見ての通り消耗してる。町長を誘拐した俺と一緒にいれば、町の住人は先ず弱ったリアルを狙うだろう。そんな彼女を守りながら最悪四日間、寝ずに過ごすのは、無理だ」


「だから私たちに避難してろと言うことですか? それはつまり、この私、撫子・オオワではこの妄想少女を守りきるのは不可能であり、足手まといになると言いたいのかしら?」

 静かに撫子の目が細まり、彼女は脚をゆっくりと前に踏み出した。


「遺跡を壊すことに関しては、アンタの方が上で、ガクラン隊の正規隊員でも、それでもアンタはただの人だ。ハッキリ言おう。足手まといにしかならない」

 リアルを支えていた手を外して立ち上がりながら、アオハルが言った瞬間、目の前に拳があった。


 彼女から目を離してはいない。臨戦態勢に入る程集中していた訳ではないが、それでもアオハルは撫子から一瞬たりとも目を外しはしなかった。


 だと言うのに、その拳はもうアオハルの眼前、寸止めにしなければ気がつきもしないままアオハルは殴られていただろう。


 意識の虚を突いたとか、アオハルが本気で集中していなかったとか。そう言った言い訳の範疇を超えた速度でだった。


 視界の半分以上を占める程に接近した撫子の拳。その向こう側に立った彼女は、ニヤリと唇を持ち上げて楽しそうに笑っていた。


「あらあら。やっぱり誘拐は私がした方が良いのかも知れませんね」


「……お前」

 今度はアオハルの目が細くなり、撫子を睨む。


 そんな視線にも動じることなく、撫子はアオハルの目の前から手を引き、その手をプラプラと揺らしながら微笑んだ。


「ハイヒューマン、だったかしら。突然変異的に進化した人類の上位種族。通常の人間の数倍に上る身体能力を持った超人と言うことがご自慢のようですが、人を超える人類。それは一つではありません」


「なんだそりゃ。だって撫子黒髪じゃん」


「私は純血種。数千年単位で血の繋がった同族同士のみで子供を成し続けた一族の末裔。色々混ぜて突然変異を起こし進化したハイヒューマンの真逆、血を濃くし続け、その結果人を超えた種族。それが私、だからこの髪の色はその証なのです」


「初めて聞いたね、そんな種族」

 リアルに目で知ってる? と問うと彼女もまた首を横に振った。


「それはそうでしょう。世界が海に沈んで、僅かに残った人たちがもう種族も生まれも関係なく必死に生きて子孫を増やそうとする中で、異民族とは交われないなどと空気の読めないことを言って、周りとの交流を断った人達の末裔と言う事ですから、知ってる方がおかしいでしょう」


「なるほど。俺の思っている以上に、世界は広いって事か」


「きっとそいつらの特徴は黒髪であることと、その黒髪が電波を発することなのよ。きっとそうだ」


「無礼な……ともかく、これで私を足手まといでは無いことが分かったでしょう? 運命の人」


「ほらやっぱり電波よ。黒髪から電波を放出してるって言うアタシの説は正しかった。コイツらの種族が住んでる村では、どいつもこいつも電波を垂れ流しながら生活してて周りの奴らも気味悪がって近寄らないのよ。だから誰も知らないのよ」


「本当に無礼ですね、この妄想女。私の村に馬鹿しかいないのは事実ですけど、私は決して電波なんかではありません。ただ少しだけ運命とか占いとかが好きなだけ」


「それを電波だって言ってんのよ!」

 普段を100としたら、120くらいの声を出して、リアルは言った。


 体調はすっかり回復したようだ。と二人のやり取りを見ながらアオハルは気づかれないように胸をなで下ろし、その後に空気を裂く様に大きく手を叩き、自分に注意を向けさせてから言う。


「はいはい。喧嘩終わり、時間無いんだからさっさと作戦考えようぜ」


「それもそうですね」


「ふん! バカハルの癖に」

 態度の差こそあれ一応二人共納得し、三人は揃って町長誘拐の作戦を立て始めた。


 先ずは撫子が知っている限りのこの町の情報を提示し、その後は殆どリアルが一人で作戦を立て、細かいところを煮詰める作業を撫子とアオハルで行った。


 決行は二時間後。


 出来る限り早く事を進める必要があった。もう夕方に差し掛かり、夕日が沈み始めている。住人を外に追い出す時に、外に他の村からゴミを売り買いしにやって来た客達がいては余計な混乱が生じかねないと言うことで、取引終了時刻になってから、作戦を開始することとなった。


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