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リアルの力とアオハルの決意

「それでは、詳しい話を聞かせて貰らいましょうか」

 眠ったリアルを休ませ、一度アオハルが取った部屋に移動した撫子とアオハルは、窓際に立ったまま向き合って話を始めた。


「俺だって詳しく知っている訳じゃない。これは全部リアルから聞いた話だ、それでも良ければ」


「いいです。あのお嬢さんが君に嘘をつくとも思えませんし」

 それは言い過ぎた。苦笑しながらアオハルは、リアルが眠っている壁の向こう側を見てから語り始める。


「リアルが言うにはそれに初めて気づいたのは、十二歳の頃。たまたま立ち寄った町に遺跡が現れた時だそうだ。初めはなんとなく妙な気分になっただけだったらしいが、その感覚が強くなり続けて、限界まで達した時、遺跡が現れたんだそうだ。リアルはその感覚の気持ち悪さを覚えていて、慌てた使用人の手で実家に戻る途中だったから難を逃れたらしいんだけど、リアルはその遺跡を自分が呼んだと思ったんだと」


「彼女がその町に来たから、遺跡が現れたと?」


「そう。そう思ったリアルは実家に戻ってからずっと心配だったそうだ。自分のせいでここに遺跡を呼んだらどうしようと。今この瞬間にも地面を壊して遺跡が現れて、家族を傷つけたらどうしようって。ずっと悩み続けたリアルは、とうとう家を飛び出した」


「子供らしい理屈ですが、それはいつの話ですか? いつから彼女は一人で旅を続けていたのでしょう」


「十四の時。今は十六だから、二年前か。それで旅を続けている最中、彼女は何度か遺跡に遭遇した。その課程で気がついたんだ。自分が遺跡を呼んでいるのではなく、ただ単に遺跡が上がって来る気配を読めるだけだと。その証拠に自分がいなくても、半径どれぐらいって言ったかな。二、三十キロぐらいだったかな。そのぐらいの距離でなら、遺跡が動く気配みたいのが分かるらしい。その地点に近ければ近い程、リアルは今みたいに気持ち悪さを覚えてあまりに近くに居すぎると倒れちまう」


「なるほど。うん、どうやら本物のようですね」


「本物って事は、ガクラン隊にもそう言う奴がいんのか?」


「少し違いますが、それに似た機械があるのです。私達はその機械が察知した情報を元に、彼方此方を移動している。それを察知出来る人間がいると聞いたことがあります」


「だったら、ここの情報もひょっとしてもう知ってたのか?」

 問われた撫子はバツ悪そうな顔で首を横に振った。


「いえ。実はですね、その情報を受信する機械が故障してしまって。それを修理するパーツを買いに来たと言うのも、ここに来た目的の一つですので」


「あっそ……とにかく、話を続けるぜ。俺とリアルが出会ったのは、あの力が切っ掛けだった。金持ちの癖に金に汚くて、やたらと商売っけのあるリアルはある時気がついた、この遺跡が上がってくると言う情報を売って一儲けしようと」


「私達……いえ、私のような遺跡に恨みを持つ者からすれば、本当に反吐が出る程ムカツク話ですね」

 憎々しげに舌を打つ撫子。


「元箱入りお嬢様。仮面が剥がれてるぜ」


「失礼。続けて」


「実際そんな話いきなりしたところで誰が信じる筈もない。そこでリアルは、近日中にもし遺跡が上がってきたら、金を払えと村人に約束をした。根っから信じていなかった村人は二つ返事で了承した。そして三日後」


「遺跡は現れた。と」


「そう。遺跡が現れて、村中大慌て、何でも大切なご神体だかに続く道を塞ぐように遺跡が現れたんだ。洞窟みたいな所で一緒に地震も起きたからご神体が心配だけど、遺跡が邪魔して見に行くことも、遺跡を取り除くことも出来ない。そんな中でリアルは約束した村人にこう言った。さっさと金を払え。と」


「二年も旅をしてきた割には馬鹿としか言いようが無い対応ですね。むしろ彼女は逃げるべきでしたね」


「その通りだ。突然現れた旅人が遺跡が現れると予言し、実際に現れて村に害を及ぼした。文化レベルの低い町だったらこう思われても仕方がない。コイツが遺跡を呼んだんだ」


「奇しくも彼女はかつて自分が考えた想像上の力を他人よって、自分に押しつけられてしまった」


「そう。そこに颯爽と現れたのがこの俺、夢を探して世界を駆ける男。アオハル・三上だ」


「なんです、その恥ずかしい口上は」


「運命と明日を信じる女の子に言われたくないな」


「むっ。的確な口撃をしてきますね」


「ともかくだ。俺は村人に詰め寄られているリアルを助け出し、話を聞いた。そして話を聞き終えた俺は遺跡を壊してやる代わりにリアルの言い値の金を払うことで村人を納得させ、十七発の弾と引き替えに遺跡を破壊した。と言う訳だ」


「……やはり私の見る目は正しかったようですね。君の実力不足が裏付けされました」


「やっぱりガクラン隊はあれを一発で壊せるのか? どうやってるんだ。コアの位置は遺跡によってバラバラだろ? 俺だって何個も遺跡を壊してきたんだ。それくらい分かる。それとも素人目では分からない見分け方みたいのが有るのか?」

 聞いておきたかったことが話題に上り、ここぞとばかりにアオハルは撫子に詰め寄った。


「そんなものはありませんよ。言葉で説明出来ることでも無いので割愛させて貰いますね」


「さっきから重要なところに限って割愛してないか?」


「話をしていたのは君でしょう? 早く先に進めて下さい」


「はあ――っても話はもう佳境だ。もう終わりと言っても良い。俺の遺跡を壊せる力を使えると見込んだリアルは俺の旅に同行すると言い出し、同時にアイツの力は俺の修業になると考えた俺はそれに賛成した。それだけだ」

 少なくとも初めはそれだけだった。


 続く言葉はアオハルの心の中でだけ呟かれた。今はそんな利害関係だけでは無い、自分も、多分リアルも。


「理解しました。そうなるとこの場合、かなり近く、それこそ真下辺りから出てくると思って良いのかしら」

 目を下に向けて言う撫子。当然のように、その先には部屋にしかれたカーペットがあるだけだ。


「完璧にこの上って事はないだろうけど、この町のどこかに現れるのは確実だろうね」


「昨日の今日でまた遺跡と遭遇ですか。忙しいやら嬉しいやら」


「嬉しい?」


「遺跡を壊せると言うのは、疲れるとか、面倒だとか、そんな感情を一度に黒で塗りつぶせるくらい、嬉しいものですから」


「ガクラン隊ってのは、どいつもこいつもそんな性格なのかね」

 清楚な外見に、上書きをするような邪悪な笑みを浮かべて言う撫子に、アオハルは片目を瞑りながら、ふぅと分かり易く息を出した。


「どうでしょう。根本に憎しみがあるのは当然ですけれど、それ以上の感覚は人によって違うと思うわ。ですから、君がそう思わなくても、それがそのままガクラン隊失格と言うことにはなりませんから安心して下さい。入れたくない理由は二つのままです」


「なら良かった。これ以上増えたら、今回の事だけで俺の実力を見せつけられないかも知れないしな」


「……その事ですけれど。やはり今回は私一人でしようと思っています」


「何だよいきなり。俺の実力を見てから、入隊を決めるって言ってたじゃないか。それとも何か? 俺が一発で壊せないって分かったからか?」

 唐突な宣言に思わずアオハルの口調は硬くなり、目付きは鋭くなって撫子を刺す。


「そう言うことではなく――ごめんなさい。運命の人だから正直に言いますね」

 運命の人と言う部分に関しては面倒なので黙っておくことにしてアオハルは腕を組んだまま撫子を見下ろした。


「私は、君と共に旅をしてその途中で君のことを鍛え上げるつもりでした。その上で最終試験として遺跡を壊させるつもりだったのです、ですからこんなに早く機会が訪れるなんて思っていませんでした」


「だからなんだよ。遺跡の一つぐらい、そんなに恐れることじゃないだろ? そうだ! さっきの話聞いてたんなら、もう証明されたようなもんじゃないか。十七発掛かったから、実力不足と言うのは勿論納得出来るけど、少なくとも俺は遺跡を恐れてなんかいない」

 リアルと出会った時、そしてその後にも二回、どちらも多数の金属球を使用したとはいえ、アオハルは恐れることも無く、それを破壊したのだ。


 だから撫子が言った、アオハルが遺跡を怖がっていると言うあの話が逆説的に否定されたことになる。


「それは……いえ、分かりました。私が何を言っても多分、君は止められません。それが運命なのでしょう」


「全く持って便利な言葉だな、運命って奴は。だが、今だけはその運命とやらに感謝しておいてやる。俺の実力をハッキリ見せつけてガクラン隊に入隊させて貰うぜ」


「本音を言わせて頂ければ、全てが私の杞憂であればいいと思っています。君の雄姿をこの目に焼き付けて、共にガクラン隊の同士として旅をして行きたいとも思っている。あの妄想少女も金づるとして一緒に連れていっても良いですから」


「アイツは絶対、自分のこと以外には金は出さないけどね。ま、儲け話を考えるぐらいはしてくれるかも知れないけど。それよりそんな言い方されるとその言葉が本当になりそうだから止めてくれ」

 さり気なくリアルと二人で心配した、アオハルがガクラン隊に入ったとして、リアルは一緒にいても良いのかと言う問題が解決されたことに、アオハルは喜びを感じつつも、それを表に出さないようにしながら撫子に手を差し出した。


「見せてやるよ。俺が本物の正義の味方になるところを」


「正義の味方?」


「そう。アンタにとってはどうなのか知らないが、俺にとってはガクラン隊は正義の象徴そのものだ。俺はそれになる。絶対にな」

 彼女を正面から見ながら、アオハルはあの村で彼女がしたことを思い出していた。


 村人の制止を振り切って遺跡を破壊し、あのおぞましい破壊の光景を作り出した。その理由を尋ねたいと思ったアオハルだったが。


「期待していますよ。運命の人」

 片目を瞑りながら笑う撫子。その笑顔を見ながら今はそんな場合では無いと自らに言い聞かせる。


 もし仮に、彼女がこの町でも同じ事をしようとするなら、それを自分が止めてやれば良いだけだ。


 遺跡を壊す能力では適わなくても、単純な身体能力であれば、アオハルが撫子に負けるはずは無い。


 彼女の黒髪がその証拠だ。


 その黒髪は現在の世界では珍しい色ではあるが、希少だと言うだけで自然に生まれる髪色だ。ハイヒューマンの髪の色はアオハルのような青色だけではなく多種多様、青、赤、紫、黄緑、緑、灰色、銀色、橙色、と例を上げれば切りが無いが、そこに黒は無い。茶色は無い。金色は無い。要するに自然的に発生する髪色になることだけは無いのだ。


 撫子があの光景をこの町で再び作り出そうとするなら、ガクラン隊に入隊する話が無くなったとしても止めてみせる。


 差し出した自分の手を握る少女を見ながら、アオハルは密かに決意を固めていた。

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