描けないなら書けばいい
イヤホンから流れる、爽やかな少年ボイス。春をイメージした柔らかい歌にあっていて、僕はどうしても、それを絵に表したかった。
昔から得意だった絵だが、こうやって絵を描こうとスケッチブックに向かうのは久しぶりで。
だからなのか、なかなかうまく描くことが出来ない。握られたシャーペンは少年を描いては、黒く塗りつぶしていく。それの繰り返しだった。
少年を描くのはやめて、桜から始めようなんて思い、桜を描いてみてもなかなかうまくいかない。
なにもかもうまくいかなくて、僕はシャーペンを机の上に置いた。退散だ、うまく描けない。
コップにいれた甘い甘い紅茶を飲み干す、ただ甘いだけの液体を腹にいれ、もう一度、スケッチブックに向き合う。シャーペンを手に取り、PVを見ながら、また描き始めた。さらさらとシャーペンが動く、お、これはいけるかも、なんて思った刹那、音楽が途切れた。
慌てて、スマホを持ち上げると暖かくなっていて。
うわぁ、使いすぎた....なんて心のなかで反省しても、もう遅い。黒くなった画面からは綺麗な絵も流れてこない。充電器に差し込み、スマホが復活するまでの間、別のを聴いていようと、音楽プレイヤーにイヤホンを差し込んだ。
次に流れたのは、さっきの曲を作ったバンドの曲だった。去年の冬コミで苦労して買ったやつだなぁ。
と思い出に浸りながら、スケッチブックを勉強机の引き出しにしまいこんだ。
そして、そこから一冊のノートを取りだし、さらさらと文字を並べ始める。
いつもの癖だ。絵がうまくいかない時は小説を、小説がうまくいかない時は絵を。
たまにはこうやって、何かをやるのもいいと思う。
最近は宿題に追われて、ずっとこういう時間がなかったのだから。
爽やかでよくのびる声は、僕を元気にさせてくれて、少年ボイスの爽やかな声に癒されて。こうして、今日も僕は生きていく。
なんて、いい台詞だなぁと思いながらも、真っ白いノートにまた文字を並べ始めた。