扉の先からの本音
「魔王を救ってほしい?」
「はい」
「世界を救うのではなく?」
「その通りです」
「世界が崩壊してもいいって事ですか?」
「・・・・・・」
「どうしてですか?」
「・・・魔王様に外の世界を見せたいのです」
「外の・・・世界?」
「はい。魔王様は力の性で外に出れた事がありません。毎日同じ窓から見える景色の範囲しか知りません。後は彼等が持ってくる手土産でしか外の世界を知りません」
「手土産?」
「エリス様と我等は魔王様が幼い頃からずっと一緒にいる。兄弟のように育ってきたのもあり、本当の妹のように可愛がっている。外に出られない魔王様の為に我等は色々な品を手土産にして戻った。とても喜んでおられた。嬉しそうに手土産の品を大切にしてくれた。それを見るたび嬉しくも思い悲しくもなった。魔王様は本当は外に出たいと願っている。しかし、我等ではそれを叶えてやる事も救う事も出来ない」
「・・・あ」
先ほどから音がすると思ったら・・・。
甲冑が震えている。
三騎士は自身の不甲斐なさを思い知らされてるんだ・・・。
自分達ではどうする事も出来ない覆すことも出来ない状況を。
その気持ちが肌に心に響く。
『勇者よ・・・いや、勇者殿。どうか我等の妹を救ってくれ!!
「・・・どうすればいい」
テントで横になり、狭い天井を眺めあの時の会話を思い返した。
今まで戦ってきたのは魔王軍ではなく反魔王軍だった。
そいつらは三騎士が鎮圧してくれたおかげで現状は人々が平和に暮らせている。
だけど魔王がいる限り別の勢力が魔王を名乗り再び戦争が起きる。
魔王を倒さない限り終わらない。
魔王は自身が死ぬ事を望んでいながらも外に出たいとも望んでいる。
エリスさんと三騎士は救いを求めている。
しかし、まずはあの扉を破らないと話は進まない。
どんな攻撃も魔法も通さないあの扉を。
早くしないと再び戦争が起きてしまう。
時間がない。
「俺は・・・どうすればいいんだ・・・」
俺の目的は何だった?
人々が平和に暮らせる世を作る為に旅にでた。
魔王からこの世界を救う為。
だけどその魔王は争いを好まない優しい世界の破滅者。
救ってほしい。
倒してほしい。
勇者の俺はどちらを選択する。
「・・・・・・魔王・・・」
「魔王話がある!」
『ん?今日は扉に挑戦しないのか?』
「しない!」
『・・・話とはなんだ?』
「お前は外の世界を見たいか?」
『・・・・・・』
「どうなんだ!!」
『・・・興味はない。それよりも早く我を倒さないと世界は崩壊するぞ』
「お前は崩壊を望んでいるのか?」
『・・・・・・・・・』
「魔王。俺はお前に借りがある」
『・・・借り?』
「正確に言うとお前ではなくお前の兄達だ」
『・・・・・・・・・』
「お前の兄達は俺の代わりに人々救ってくれた」
『それは違う。あれは我の甘さが生んだ結果。それを消す為にした行動だ。それがたまたま人助けになっただけだ。借りなどない』
「それは違う!お前は人が苦しむのを見たくなかったんだ!だから救ってくれたんだろ!!」
『・・・偽善だ』
「エリスさんと三騎士からしか話しを聞いていない。だけどこの城にいる全員はお前を大事に思っているのはわかる!恐怖で従わせるのではなく家族として共に過ごしている!愛情が伝わってるんだ!!」
『・・・・・・やめろ!』
「外に出たいんだろう!!仲間と、家族と一緒に楽しみたいんだろ!!」
『・・・やめろ!!』
「皆と一緒に旅がしたいんだろ!!」
『やめろ!!!』
「・・・・・・」
『お前に何がわかる!生まれ持ったこの邪悪な力。この力の性で外に出ることは許されず扉には幾重にも付与された強力な防御魔法で触れることすら出来ない。部屋から出ることも許されずただ毎日を暮らす日々の苦痛がお前にわかるか!!この束縛された環境・・・もう嫌なのだ・・・疲れたんだ・・・だから、早く死なせてくれ・・・』
すすり泣きがする。
今まで誰にも言えなかった思いを俺にぶちまけ空っぽになった心を涙で満たそうとしている。
それじゃあ駄目だ。
今ならわかる。
この扉越しにいるのは魔王じゃない。
一人の女の子だ。
だから俺は・・・。
「・・・・・・壊してやる」
『・・・え?』
「そんな扉俺が壊してやる!壊してお前を救ってやる!その手を掴んで外に連れ出してやる!!知らない事たくさん教えてやる!!だから死にたいとか言うな!お前の姉と兄、仲間はそんな事望んでないしお前も望んでいないだろ!!!」
『・・・・・・・』
「応えろ!魔王!!!」
『・・・・・・・・・・』
「・・・・・・・・・・」
『・・・・・・て』
「・・・・・・」
『私を・・・助けて!』
「魔王・・・」
『私をここから助けて!!勇者!!!』
「・・・まかせろ。俺は勇者だ。救いを求める人を放っておかない。絶対に助けてやる!!」