ムーンライトながらの旅 その3 (静岡~沼津)
お久しぶりです。
本当は鉄道の日(10月14日)に投稿しようと思っていたんですがスケジュール的に間に合いませんでした。
これからもマイペースで書いていくので気長に待っていてください。
多分次回は11月中には出ます。
「探偵部」の方は毎週更新目標で書いているのでそちらもよかったら見ていただけるとうれしいです。
僕は夢を見ていた。
僕はコクテツと真っ暗闇の中にいる。
コクテツの足元には立派なレールが真っ直ぐ敷かれていて遠くまで光っているのが見える。
しかし、僕の足元には枕木が無造作に置かれているだけだ。
コクテツは新幹線のように力強く、正確に暗闇の向こうへ走り出してしまう。
「待ってくれ。僕もそっちへ行きたいんだ。」
僕はそう言いつつもレールをコクテツのように真っ直ぐ敷けない。いや、敷かないんだ。
僕は走っているコクテツのことを尊敬しているのではなく、滑稽な見世物と思っているからだ。
「僕はコクテツ、君を馬鹿にしているわけじゃないんだ。待ってくれ。」
「タマデン。おい、タマデン。沼津だぞ。今、停車中だ。」
「コクテツ…。」
僕はコクテツに起こされた。静岡の時は不快だったが、今は暗い闇から引っ張り出してくれたようで不快感は無かった。
駅の留置線には愛知県では見かけないステンレスの車体にオレンジと緑の線が入った列車が止まっていた。コクテツはそれに二階建ての車両がつながっているのが気になっていた。
「東日本の車両がいるぞ。あの二階建てのグリーン車(関東の普通・快速列車に付いているリクライニングシートの車両で別途お金がかかる)乗りたいんだよなあ。」
「じゃあ、帰りに乗るか。多分僕もコクテツも疲れてると思うし。」
「いや、僕は疲れない。列車に乗ってるだけで幸せだからね。」
「コクテツなら言うと思った。」
列車は沼津を出発し、長い丹那トンネル(東海道本線函南~熱海間にある全長約8㎞のトンネル)に入っていった。
僕は不安になった。なんだかさっきの夢の情景と似ていたからだ。
「なあ、コクテツ。」
「何だ?」
「何でコクテツはそんなに鉄道が好きなんだ?」
「タマデンだってそうじゃないのかい?」
「僕はコクテツの影響で好きになっただけだ。コクテツはいつから鉄道が好きだったんだ?」
「う~ん。物心ついた時にはもう鉄道は好きだったなあ。」
「10年以上鉄道ばかりで飽きないのかい?」
「飽きないね。逆にタマデンはどうなんだ?」
「僕はコクテツに会うまでは人に流されて生きてきたからなあ。こんなに一つのことに熱中するのは初めてなんだ。」
「へえ。じゃあきっと飽きないよ。」
列車がトンネルから出た。月明かりが窓から入ってきて僕らを照らした。
「一つのことに熱中できたならもう人に流されることもないんじゃないかな。」
その時僕はコクテツがただの鉄道オタクに見えなくなった。
「…コクテツ。」
「何だ?」
「意外といいこと言うんだな。」
「意外とってなんだ。失礼な。」
「ハハハ。」
その後僕は眠りについた。そしてまた夢を見た。
僕とコクテツは真っ暗闇の中にいる。
コクテツの足元には立派なレールが真っ直ぐ敷かれて遠くまで光っているのが見える。
そして、僕の足元にはコクテツほど立派で長くはないが真っ直ぐにレールが敷かれ始めている。
コクテツは新幹線のように力強く、正確に暗闇の向こうへ走り出す。
「僕も今からそっちへ行くよ。」
僕はそう言いつつゆっくりではあるが真っ直ぐレールに沿って走り出した。
もう僕に迷いはない。
そう思いながら僕は真っ暗闇の中を進んで行った。
ちなみに関東の近郊電車に付いてるグリーン車はコクテツの言ってる通り二階建て車両で二階からの景色がいいのですが僕は一階のホームすれすれを走る景色も好きです。