プロローグ
初めまして。八透です。
初投稿作品で更に不定期更新ですが、暖かく見守ってください。感想・御指摘は大歓迎です。
―――ワァァァァァァァァァァ!!!!
夕日が街の影を色濃く描き出す頃、クアトル王国の第二都市、ゼノンのコロシアムでは今まさに決闘大会の決勝戦が始まろうとしていた。
「オラオラー!!さっさとやっちまえぇぇぇ!!」
「キャーーーー頑張ってぇぇーー!!」
「勝てよぉぉぉ!お前が負けたら俺は破産だぁぁ!!」
選手はまだ入場していない。しかし、勝敗を予想した賭けも行われているためか、ヤジや声援も含めた多種多様な声がコロシアム中に響き渡っている。
そんな大音響の中、拡声魔法特有のキーンという音が響き、軽く頭のネジがブッ飛んでるような男の声が聞こえてきた。
「そぉぉぉるぇでぇはーッ!!
くぅぅおれよぉりぃぃぃ!
ッッしょぉぉぉ戦を始ぃぃめますッ!!!」
―ドワァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!
司会の男の声は巻き舌が過ぎて、殆んど何を言っているのか聞き取れない。というか、人間の言語かどうか疑わしいレベルだ。しかし興奮のボルテージマックスの観客は最初から司会の声などに注意を払っていない。歓声は一段と熱を帯びたものになった。
「あァかコォォナァァァァァ!!鉄塊の!ジェイコブズゥゥゥ!!!」
「キャーーーーーーーーー!!カッコイイィィ!!」
「ええぞぉぉ!潰してまえぇぇぇぇぇ!!!」
司会の声に続いて大歓声が巻き起こる。
入場してきたジェイコブズと呼ばれた大柄な男は、全身の筋肉を隆起させ、重力を無視するように軽々とハンマーを振り回す。ハンマーが地面に突き立てられると、先端に生えている無数の突起が地面を抉った。
「つぅぅぅづきましてェェェ!!!あァおコォォナァァァ!!おォォォ困りごとならァ何でもござれ!千金屋!!ハカルゥゥゥゥ!!!」
「「「ウォォォォォォオオオ!!!!」」」
先程よりさらに大きい歓声の中入場してきたのは、痩せた長身の青年だった。貧乏冒険者が身につけるような粗末な防具を身に付け、足だけは重厚でゴツいブーツで武装している。黒髪黒目というこの地域では珍しい容姿をしているのも特徴だ。
少年が入場してしばらくすると、割れんばかりにあがっていた歓声は、開始のゴングを待つために収まり始める。
ジェイコブズはパフォーマンスの為に振り回したハンマーを肩に担ぎ直し、対戦相手の少年を睨みつける。その目は真剣そのもので、時折恐怖が映るようにも見える。傍から見れば、非力な青年に何を恐れるのかと笑えてくるものだが、コロシアム内の誰一人として馬鹿にする者はいない。なぜなら――
「sッあッいッッ開始ィィィ!!!」
――この少年は前回大会に彗星の如く現れ、チャンピオンの座を奪取した男だからだ。
「■■■―筋力強化ッ!!オラァァァ!!!」
ついには発声方法すら分からなくなってきた司会の試合開始宣言が響き渡り、同時に短縮詠唱からの強化魔術を使用したジェイコブズは気炎万丈、見た目にはそぐわぬ速さで少年との距離を詰める。
「今回はどんな手を使う気だァ!?ハカル!?」
「……手だなんて、そんな言い方をしたら僕が毎回卑怯な方法で勝ってるみたいじゃないですか。酷いですよ」
おどけた調子で答えながらも、少年は振り降ろされた巨大なハンマーを後ろに跳んで避けた。
………いや、翔んで避けた。
「俺が使うのは卑怯な手ではありません。考え抜かれた美しい策です」
「「「ハァァァァァ!?!?!?」」」
観客とジェイコブズは完全においてけぼり。空中でピョンピョンと足踏みしながらなおも話し続ける少年に、ジェイコブズは一瞬にして思考も身体もフリーズした。
「ハァァ!?って、それはないでしょう!俺だって結構苦労して作戦考えてるんですよ?それをなんだと思ってるんですか」
「いや、違う!そこじゃない!俺が驚いたのは何故お前が飛んでるのかっていうことだ!!」
少し遅れて復活したジェイコブズは、怒る少年に動揺しながらも叫ぶ。飛行魔法は姿勢制御が難しく、補助具なしでは到底使えない程の高度な魔法だ。しかし、目の前の少年は明らかに何も持ってはいない。
「だから、これは美しい策です」
少年はイヤらしい笑みを浮かべている。
「クソ!また怪しげな術を使いやがって…………卑怯だぞ!ラァッ!!」
ジェイコブズは諦めたように見せかけ、不意にハンマーを変形させて一振り。先端部の無数の金属突起が少年に向かって殺到する。
前回大会もハカルと対戦し、敗北した彼はあらゆる対策を立ててきていた。対遠距離用攻撃も抜かりはない。だが、
「卑怯卑劣は敗者の妄言ですッ!!」
対する少年も空を蹴り、立体移動で突起を躱す。
――高位の魔術師も無手での使用はしないほど難易度の高い飛行魔術を、無手無詠唱でしかも高速で披露する剣闘士の少年は大男を翻弄し、圧倒してみせた。
━━━
「ではッッ!!今年度第七回大会を制しましたッ!ハカル・カネシロさんにインタビューしてみましょォォォオアアッッ!!!ッ!ッ!!」
大会が終わってもテンションが変わらない、というか逆に振り切れてしまっているアブナイ司会者はマイクを俺に手渡してきた。先程、決勝戦も俺の勝利で幕を閉じ、今はいわゆるヒーローインタビューの時間だ。
というかこの司会、喋り以上にしゃくれたアゴがヤバイ。すぐ隣に立っているとはいえ、マイクを手渡す時に俺の肩にアゴが触れるってどういうアゴだ?
「ハイ……、前回に引き続き今回も優勝させて頂きました『千金屋』の店主ハカルです!皆さんとても強くて、ここまで勝ち続けられたのは私の運が良かったからだと思いますね!我々の店『千金屋』もこんな風に順風満帆、と行ければいいんですけどね……」
と、ここで俺は思わせぶりに言葉を切る。
「ほう、先程からハカル選手の登場時に何度か出ましたが、『千金屋』とは一体どんなお店なのでしょうか?」
アゴの隣に実はいたもう一人の普通な司会が、期待どおりの質問をしてくれた。グッジョブノーマルさん!と俺は心の中でガッツポーズだ。
俺は何も他の出場者のように、己の力を試したいとか闘って生計を建てようとか、そういう目的でこの大会に出場した訳じゃあない。店の宣伝に来たんだ。
選手紹介時に呼ばれる煽り文句とこの優勝インタビューで、我らがなんでも屋『千金屋』の広告活動をすればオープンを町中の人に知ってもらえるだろう。そう考えてエントリーしたのだ。
だからこのインタビューも気が抜けない。むしろさっきの決勝より大事だとさえ言える。俺は何度も練習した最高の宣伝文句を言おうと、次の言葉を発する。
「ハイ、千金屋とはですね、お困り事なら何でもござれ、な町の便利屋でですね、その一番の特徴は……んげぇ!?」
「ハカルさーーーん!!!」
一番良いところを喋ろうとしたら、何処からともなく少女が現れて、俺の腰にタックルをカマしてきた。俺はたまらず尻餅をついてしまい、突っ込んできた少女のライトグリーンの髪はフワリと膨らんで落ちた。
少女の身長は俺の肩くらいで、目の下には、赤太縁のメガネをかけても隠しきれない濃いクマが浮かんでいる。
「生きてますか!?大丈夫ですか!?けがはないですか!?私の作ったブーツ壊れてないですよね!?ホントに大丈夫……あッ、足から血が出てますッ!返事してッ!生きてますよね!?大丈夫ッ!?……」
少女は俺の体を撫でながら矢継ぎ早に質問をしてくるが、何故か同じ質問を繰り返し始めた。マズイ、永遠ループパティーンだよこれ。ひとまずコイツを落ち着かせないといけない。
「待てって、落ち着けマーニャ。今は大事な……」
「さぁ、ハカル選手が優勝を祝福されている最中ですが、ここでお時間です」
「!!!」
マズイ!司会者がシメ始めてしまった。今は別に祝福されているわけではないし、何よりこのままでは店の宣伝が!店の売上が!俺の金がァァァ!!けどコイツ全然離れねぇ!!どーしよォォォォォ!?
心の中で無念の叫びを上げる俺を尻目にノーマル司会は正に教科書通りのシメにとりかかる。
「次回の大会開催は2週間後。ハカル選手の快進撃を止めることのできる者は現れるのか!?では皆さん2週間後にお会いしましょォォォォ!!!」
「陣魔法処方店、千金屋もヨロシクゥゥゥゥ!!!」
間一髪、多少無理矢理だが宣伝を捻じ込み、俺はギリギリの攻防に辛くも勝利を収めたのであった。
こォォおんんなァァァかァんじでェェェお送りィィしまァすゥゥゥゥ!!!(こんな感じでお送りします)
※読み辛かったらすいません