表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

コネクト

作者: タツ


当たり前の様に乱れるダイヤ。

月初めの月曜の朝、人々の顔色はブルー。

初めて会社をさぼった。

港に隣接している山下公園内にあるローソンのウッドテーブルで生ビールを飲んでいる5人の顔があった。海が見たいと言われて、関内駅から20分かけて歩いてきた。

俺の隣には、潔癖性のおばさん、でかい女、色白の女、そして狐顔の女。海を見に来た。見たいと言ったのは狐顔の女。確かにそこには海があった。どこかにつながる海が。

 潔癖性のおばさん。通勤ラッシュのいつもの時間に現れる。人と触れ合う事を極端に嫌う。人より1・5倍位のスペースを取るオーラを放って他人を近付けようとさせない。まるで、バイ菌を見る様に人々に視線を送る。時には睨んだり、何かぶつぶつ小言を言っている。それでも満員電車に乗って2駅で下車。だったら歩けば良いのに。周りの人達が嫌な思いを朝から味わう。しかも堂々とその満員電車の中で座るのだ。隣に女性が座っていたとしても近付くなという視線ビームを出して、肩が触れよう物ならあかるさまにバイ菌扱いする様にはたいたりする。そしてまた小言。その後、手鏡を出して、自分の顔を見るのかと思いきや、その手鏡で角度を作って隣の人の様子を伺っている。電車を降りる時はさらに最悪。まるでマイクタイソンのピーカーブースタイルの様にがっちりガードして、肌だけは誰にも触れませんという様な感じで、ドカドカ体当たりをして出て行く。そして、電車を出るとまた、自分の肩や二の腕あたりをはたいてブツブツ良いながら歩き出す。「ばばぁ」これが、朝一で感情を出す発言になる。

 毎朝駅までの通路で見かけるでかい女。カバーオールにワークパンツ、スニーカー。寸足らずのパンツを見る度に胸が痛む。毎朝おにぎりを頬張って横を通り過ぎて行く。少し内側がすり減っているスニーカーを引きずる様に、ざぁざぁざぁと音を立てて歩いて行く。ショートヘアーに腫れぼったい唇、化粧気は無く浅黒い。少し乾燥肌の様だ。間延びした顔は大喰いのジャイアント何とかを思い出させる。歩きながらずり下がりそうな眼鏡を指で押し上げながら、おにぎりを頬張っている。初めて見た時は少し驚いた。身長が190cm近くある彼女が解き放つオーラは陰そのものだったから。自分でも良く分からないけど、まるで化け物を見るかの様に彼女が横を通り過ぎても見送ってしまった。しばらく彼女の後ろ姿を見ていた。まるで、野獣を見る様に。すると彼女が振り返った。視線を感じたのだろうか、もの凄く切ない目で俺に視線を送ってきた。何故だろう。とても切なくて、心の中で何回も「ごめんなさい」を連呼していた。

 頬を紅潮させている色白のこの女は、一見チークの乗せ過ぎなのかとも思うが、会う時によって目が充血している。いつも俺と同じ電車に乗り、同じ駅で降りる。どうやら会社が近所の様だ。昼食時ちょっと早目にオフィスを出て、少し離れたコンビニに行くと彼女は決まって冷蔵庫の前で品定めをしている。手にする物は缶チューハイ。毎回種類は変えているみたいで、買い物はその缶チューハイのみ。レジを通ると出入り口から出てすぐにプルトップを引き、3口で飲み干し、コンビニ前のゴミ箱に空き缶を投げ捨てて、会社の方角へ歩き出す。色白で線の細い感じの彼女を見ると考えさせられる物が有る。昼休みにコンビニで缶チューハイか。

 何でも無い朝だった。ただ月初めの月曜日は誰だってブルーだ。いつもの時刻にいつもの電車。見渡せばいつもの様に俺の近くには、潔癖性のおばさん、でかい女、色白の女。満員ホームに響き渡る搭乗電車のアナウンス。ホームの白線の外側にいる人に向けての注意。何となく来る電車の方を見ていたら、俺の視界から何かがホームに吸い込まれる様に消えようとしていた。何も考えなかった。気が付いたら俺はダイブしようとしていた女の左腕を掴んでいた。周りを見ると潔癖性なおばさんはショルダーバッグを、色白の女は腰に抱きつき、でかい女は襟首を掴んでいた。

生きる事は辛い。

誰だって自分に自信なんか無い。

だけど、誰かが躓いたら助けてあげたい。そんな気持ちは皆持っている。

悩む事だって誰だってある。誰しもスーパーマン、スーパーウーマンなんかじゃない。みんな弱いんだ。

狐顔が振り返った。「海が見たい。どこかにつながっている海が」俺達は生ビールを飲みながら海を見た。建物ばかりが見える港だけど、その先に何かが有る気がして。

誰かが言っていた。死ぬのが怖いのは人々の記憶から自分が消えてしまう事だと。自分の大切な記憶が消えてしまう事だと。

俺は、そうは思わない。俺は消えたいこの世から。そんな風に思っていた。だから、狐顔の女が線路に自分の身を投げ出そうとした時にほっておいてあげれば良かったのに。何故手を差し伸べたのだろう。

人の死は辛い。

例え知らない人でも。

人ってつながっている。

意識しなくても。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ