04:リベラル王国
リベラル王国は建物が重なるような構図になっています。
下の層は西洋風なイメージで盛んだ商業が立ち並び、人通りを多く見せる賑わった城下町になっている。背景扱いだった湖は海に見間違えるほど広々としていて、ここからの眺めでは絶景であるかのように感じた。
そしてその最上層に、真紅の知り合いであり、この国をおさめている女王様の住所。立派に聳えた城の王宮がこの街を見下すように建てられています。
その宮殿を見つめる佐々木ちゃんは女王様ってどんな人なんだろうと思いつつも、売店で買った揚げ菓子をもきゅもきゅと口に含みながら広場の噴水に腰を下ろした。 真紅とはと言うと、さっきゲームセンターを見つけては善也を連れて遊びに行きました。
「……遠出するっていうのも、悪くはないのかなぁ……家出したんだけどね」
独り言を囁く佐々木ちゃんは真紅たちが戻って来るまでの間、浮いた足を振りながら待っていると、設置された掲示板の前に、たくさんの人たがりがガヤガヤとざわめいています。
広告には大きく写真がプリントされていていますが、此処からだとよく見えません。
「すいませ~ん。ちょっと見せてくださーい」
気になる佐々木ちゃんは合間を割り切って進み、抜けて掲示板の広告を見上げる。
【勇者に告。以下二人と一匹を王宮へ連行に報酬を必須。協力者希望。加える油がない邪魔、滅】
……まぁ用は、
『勇気ある者達よ! 此の写真に貼られた二人と一匹の潜在犯(佐々木、真紅、義也)を宮殿の所まで連れて来たら報酬あげる。協力するなら力を貸してください! ……やる気がないなら……ねっ?』
みたいな(笑)
生死問わずって書かれとるし。
「……マジ?」
「佐々木ぃ~!」
遠くから声がすると、引き剥がした写真を持った義也を振り回す真紅が、それぞれ武器を手に持った勇者とやら達に追いかけられていました。
「……マジだね」
真紅が切れのいいスライダーの如く滑り込んでは、振り返る顔をニヤつかせながら親指を立てた。
「絶命的だよ♪」
「だったら早く逃げなよ。何でこっち来てまで一緒に巻き込むの」
鋼を向ける勇者達は佐々木ちゃんたちを取り囲んでいます。
真紅の言う通り、ピンチです。
「佐々木ちゃんを一人にさせると危ないと思って様子を見に来たんだよ♪」
「本音は?」
「一人だけで逃げようとはさせないよ♪」
「ですよねー」
正面を向くと、隙を付いた勇者達が一斉に襲いかかってきていた。逆手で包丁を取り出す真紅は、迫り来る勇者達に手をかざすと、小さな声で素早く口元を動かせる。
「目指す先、心身を痛める障壁は、時に災害からの防壁となり、健やかな身への守護をもたらす!」
ゴチンッッ!
と、数メートル先に光を張った見えない壁の衝撃が響き渡り、勢いを奪われる勇者達がその場で悶絶した。
一歩手前に出る真紅が、みんなに聞こえるよう少し大きめな声を出して言った。
「アタシはスカーレット・グリムグリモア・レヴェ・アポカリプス! 冥府に潜んだ術式王の娘、アカツキ・シンクだ……言えた。覚悟があるならアタシを捕まえてみろ! 滅びたくないならお家に帰れ!」
勇者達は一瞬怯んだ様子を見せが、中にいる無駄にカッコいい武器を持った少年が前に出て言いました。
「……っへ。はったりのつもりか? そんなチビ(ヽヽ)で弱々しい幼児(ヽヽヽヽヽヽ)が自称(ヽヽ)冥府に潜んだ術式王の娘だぁ? あひゃひゃひゃ! んなわけないっつーのばーか!」
ヘラヘラ笑う少年に釣られて他のみんなも笑い出した。
真紅のこめかみが切れる瞬間を佐々木ちゃんは見逃してはいません。
急に俯むいて、ゆっくり上げる顔をにっこりさせる。
「……死ナス!」
薄笑う三日月が勇者達を黙らせる。
逆上がる髪の毛、真紅の着るコートに描かれた模様は強い光を放ち、地面から魔法陣を瞬時に浮かび上がらせる。
「我との威光の契約が、我との命のみ従う。清雅な住民、青霊ディル。現世を通じて姿を示せ!」
煙を撒き散らす魔法陣から召喚される、清楚で青い短髪、円らな真っ青な瞳を輝かせる少女のような青霊――ディルの姿が現れた。
「……、あ。スカーレット~おっひさ~♪」
スカーレットと呼ぶディルは真紅に手を挙げて軽い挨拶を交わしました。真紅はスルーしてとっとと依頼を申す。
「アイツらね。特にアタシを罵倒した……ほら、あの武器の奴。ヒソヒソ……じゃあ、頼む」
「おっけー! 偶には顔出してよ~♪」
「あいあい。わかったわかった」
少々不機嫌な真紅の顔を逸らし、ディルは宙へふわりと浮び回る。
『すたーだすてでぃぷりからいぞん!!』
よくわからない詠唱を唱えた。 暫く沈黙が続く。
……空から。
空から何かが……!
――星が降ってきた~☆
「「ええぇえぇええええ!!!!????」」
星はリベラル通り越すと、住民たちの背景となっていた高山に衝突。
どでかい地響きを騒がせながら高山諸共、周りの樹海の生態系を綺麗に消し去られてしまいました……。
「じゃーねー!」
「ばいばぁーい。」
ディルの身体がゆっくり透き通りながら消えていく姿を見送る真紅は住民たちに振り向いた。その顔は満悦。
「まだ私《ヽ》をバカにする?」
誰も縦に首を振らない。
「あはははは……はは……はは……っ」
始終を目に録画された佐々木ちゃんは、苦虫を噛んだ顔で笑うしかありませんでした。