02:仲間に加わった。
とりあえず。できるとこまでやる
「真紅~!」
木々の奥から、不明になった人を捜し求める掛け声が聞こえました。
「……どこに行ったのよ……はぁ」
漫画にでも描かれていそうなキノコの溜め息を零して、1人、途方に暮れていました。
年はあらかじめ低く概算して中等生ぐらいはあって。少しカールのかかった、クルクルで黄色の長い髪をポニーテールで括り。首が隠れた黒いシャツの上から、白いブラウスのレイヤードとズボンといった、見るからに登山客ではない、簡単で、軽装で、ラフな姿をしています。
「真紅は勝手にはぐれるし、魔物は襲ってくるし、真紅が居ないと抜け道が分からないんだよねぇ……」
幸せを一つ逃がすような溜め息をまた零す。
「食べ物も無くなったし」
腰に巻きつけたウエストのポーチに手を当てて、肩を落とした。
「勢いで家から飛び出して、行く宛が無いまま真紅と出会って、城下町に行くって言うから勝手についてきっちゃったけど……それでもこれじゃあ一向に進まないよねぇ。……そういや、朝の占いで牡羊座が最下位だった気がする!」
全ての元凶は占いだと押しつけて、沈んでいた気分を粉らわせた。
木々は風に揺られてあざ笑うように葉を擦りあい、薄暗い森から幻想的に差し込む光が天からのお迎えに感じてしまい、ある意味、縁起が悪く思ってしまう。
「真紅~!」
気味が悪くなり始めた改めて真紅を捜し始め、邪魔に生え茂る葉をどかしながら進んでゆくと――急に建物が爆破されたような爆音が響きわたった。
「うぉっ!? な、何!?」
不意な出来事で驚きながら、原因を確かめるべく音がした方へ向かうと、丘陵が土煙を残して地層があらわになっている光景を認めた。
「……え? 森が木っ端微塵?」
本当に何が起きていたのか、分からない出来事に呆れてぼんやりしていたら――急に建物が爆破されたような爆音が響きわたった。
「またぁ!?」
今度は近かったため確認が早かった。
何か奥から紫色で不自然な光が放たれて消滅すると、黒い物体が流れて山とぶつかりあうと同時に破壊される。というか、不自然に光が輝く時点でもう勘づいていた。
「……まさか」
発せられた光のもとへ向かい、足を歩めていき、茂みを抜けた先には――
「おーい、しかっりしろ~。寝たら死ぬぞー」
切り株に座って、何やら小さくて黒い人形を抱えて頭をペタペタはたいて遊んでいる、赤いフードコートを纏った幼女。捜していた真紅の姿があった。
〔……ふつうに遊んでた〕
必死に捜した苦労がこうあっさり見つかってると、なんだか幸せを運んでいるらしい青い鳥が近くにでも飛んでいるような気もしなくもない。
「おっ。佐々木ちゃん、ヤッフー♪」
赤い服を着ているからボケたのか、ヒゲをはやして、ブロックを片手で壊せそうな性格の人の声を真似る。
「……捜したよ、真紅。……んで、何? この出血大サービス……」
「ん? あぁ。ちょっとそこらの要求不満なロリコン狼たちを調教してたのサ♪」
「コレ、折檻すら越えてるよ。“殺”よサツ。お命頂戴しちゃってる」
「いいんだよ。逆ならアタシがお命頂戴されちゃって、今頃栄養になってるから」
身も蓋もなくサラッと告げる真紅は、「ヘいほー」とか不明な言葉をつぶやきながら、黒い人形をひっぱたり、潰したり、伸縮させて遊んでいます。
「その人形、気に入ったの?」
「おう、よくぞ聞いた佐々木よ。紹介しよう。名前は善也と言って、コイツの身元は人間なのに、何故か小さくて黒い生き物になってしまったまま、行く宛もなく身体を求めてさ迷っている善科の也目なのだ!」
丁寧に紹介し始める真紅。佐々木ちゃんは突然過ぎる説明で色んなワードが聞き逃していた。
「……えっと、名前がヨシナリ? で、何故か黒い生き物になっている人間で……えっ、人間? つか、生きてる?」
赤い文字で人間と言いわた単語の反応に遅れる。
佐々木ちゃんがいない間、善也は今さら逃げても意味ないし。遊ぶ、すなわち殺られるわけじゃなかったので、声が通じるらしい真紅に今の現状の事を話し、このままふらついていてもこの森から出られそうにもないので、真紅たちと一緒に城下町へ行く事を話し合っていたらしい。
「そう! だからアタシはこいつを一緒に連れて行く!」
真紅はレベルが上がったようなポーズで黒物を高く抱きあげる。
「えっと、もう少し話が伝わってこないんだけど。善也は元の人間の姿に戻る手がかりを一緒に捜してほしいの?」
「……。」
手をパタパタと振って何かしているが、全く伝わってこない。
「こんな身体だから捜そうにも埒があかないし、小さいから迷惑もなるべく掛けない。って」
真紅が善也のジェスチャーを訳してくれた。
〔……なんか見てて面白いし、そもそも僕も家出で真紅と付いてきてるし――〕
悩む様子を見せない佐々木ちゃん。
「いいんじゃない。僕も家出して、勝手に真紅と付いてきてるし」
心の声をそっくりそのまま応えると、真紅は黒物を頭に乗っけて切り株から飛び降りる。
「よしっ決まり! じゃあ宜しくあろ~善也。知ってるだろうが、アタシの事は真紅。あっちのコスプレ男子は、佐々木ちゃん。所謂、男の娘だ!」
佐々木ちゃんは真紅と出会った頃と同じだなぁと思い返していた。
「僕は佐々木 雅だよ。宜しくね、善也って。うわぁ、意外とぷにぷにしてる……」
「んじゃ町に行くあろ~」
真っ先を真紅が歩み、後ろを佐々木ちゃんが着いて来て、森を抜けて行きました。
これが、一人の男の娘、佐々木ちゃんと。一人の幼女、真紅との出会いだった。