01:魔物の群れが現れた。
しばらく歩き続けていた、小さくて黒い生き物。以下、黒物。
木の実を採ろうとのぼったら、野生の怪鳥のなわばりに入っていて襲われたり。逃げ切った際に、ウルフの尻尾を踏んづけて追っかけまわされたり。見つけたトレジャーボックスが、箱型のモンスターだったり。落ちていたリンゴに、口が裂けたモンスターだったりと、弱者が強者の犠牲は当然な条理の抗いに相当の体力を使い切られてしまった。黒物は切り株の表面でちょこんと大の字になりながら体力を回復をさせていました。
「……。」
木々の隙間を通ってくるそよ風がたまに流れを断ちながらも、黒物の疲労をほどしてくれて心地好かった。
真上の太陽は西へ傾き始めているが、それでも境界線へ沈み込むにはまだかなり時間があった。とはいえ、早めに森を抜けておかないと暗闇の中で途方に暮れて、野生の魔物に寝込みを襲われ犬死にされてしまう絵図を重い描いてしまった。
「……」
本当に起こりえそうで少し恐れをなし、慌てて黒物が急いで森を抜けようと体を起き上げると、
「お~」
「……」
短い金髪を右サイドに括り、赤いフードコートが幼児体型とサイズが合わずにぶかぶかな袖を捲って手首を覗かる幼女。その手には何やら赤と黒が混じるシミが点いて、『真紅』と彫刻された刺身包丁を握ったまま、興味を湧き出す眼差しがこちらへ目を付けていました。
幼女の背景は、茂みに隠されている魔物たちから流れて溜まる血の池が、自然の緑を沈めながら領域を拡大し続けていた。
「おい、そこの黒物! ちょいとアタシと一緒に遊ぼうぜ!」
今、黒物が思った事は一つ。
ヤられる。
黒物は体力を構わず切り株から飛び降り、小さい身体を不便と感じつつ力を振り絞って駆け出した。
「鬼ごっこかぁ~。じゃあアタシ鬼~!」
わーいとバンザイする手に持つ包丁から、風を斬るような金属音が黒物の横を追い越した気がすると、騒音とともに土煙を撒き散らしながら、視界に映っていた丘陵が一斉に薙ぎ消されてしまった。
「…………。」
黒物は呆気にとられ、飛んでくる小さな粒が当たっているのに突っ立ていた。
「――――あっ」
消しちゃった本人もその表情である。
「……あぁ~、魔力がコレに乗っちゃってたのかぁ~」
手に握る包丁を眺めながら原因を確認します。
「ま、いっか。アタシの森じゃないし」
そして身勝手な理由で言い聞かせました。
「……。」
一方、さっきの技で驚いた黒物の身体は思いのほか動けなくなっていました。
「大丈夫だぁ。こわくなぁ~い」
凄く矛盾だな。
包丁を逆手にとる幼女は黒いオーラを放ち、ゆっくりと近づいてくる。
「……」
あー、アレに切られたら滅さ死ぬほど痛いだろうなー……死ぬけど。
と、あきらめモードな黒物。
そして幼女が黒物の前に止まった丁度その時だった。草むらの中に潜んでいた野生の魔物が飛びかかる勢いで身体をくの字にくねらせ、幼女の体を突き飛ばしました。
次々と姿を現すウルフの目は幼女を狙い定め、むき出しの犬歯は食いしばる喉からは低い声が唸り、飢える腹を満たしたがるばかりで、完全に我を忘れています。
幼女はむくりと、ゆっくりと立ち上がる。
服についた毛と埃を叩き落として、邪魔する前髪をどかしながら顔を上げてると、口元をほころばせた。頬には血管が浮かんでいますよ。
一匹が動くと、他の魔物達も我さきにとつづけて襲い掛かってきました。
小さい身体を活かして幼女は一番手の魔物のわきへ跳ね寄ると刃を沈めて斬りつける。吠え叫ぶ魔物の体を蹴り飛ばす。
足払いで動きを奪われる魔物を、魔力で淡い光に包まれる包丁を地面に突き刺して、宙へ飛び跳ねて体を捻らせて振り回して地を切り裂く衝撃波が生じさせると、転倒する魔物の身体を斬りつけた。
最後の一匹が唾液をこぼしながら駆け寄って来る魔物へ、逆手に包丁をとって手をかざし詠歌を唱えると文字が並んだ魔法の円陣を浮かび上がる。口を開けて襲い掛かるウルフが魔法陣をくぐり抜けるのと同時に、右足を軸にした回し蹴りで突き飛ばされた魔物が魔法陣を突き破ると、圧力が急激に変化した魔物の体が瞬く速さで吹き飛ばされ、山が噴火するように森ごと消え去ってしまいました。
包丁についた返り血を慣れた手つきで拭い、頬に飛び散っていた返り血も拭い、深く息を吸って、吐く。
「――わるい子はめっ! だよ♪」
満悦な顔で、幼女は笑った。