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第7話

sulmeにしては天然記念物並みに、なんちゃってBL風味なところがあります。それに伴って下ネタ的発言も……。基本笑い話にするための味付けですが、苦手な人は流しちゃってください。深入りする予定は全くありません。(ってか書けません…)

「……ジーン…?」

 彼を抱えてきた男は、音を立てて見せつけるようにその体を床に投げ出した。銀色の小柄な体は微かに動き、小さくうめくのが聞こえた。ルークは内心ほっと息をつく。生きている様だ。しかし、侵入者の足元に投げ出されたジーンには銃口が向けられ完全に人質状態だ。

「まったく、なにやってるんだか…」

 いらついたようにシノブが呟いた。その気持ちもわかる。副総代ともあろうものが、あっさり捕まってしまっていれば悪態も付きたくなるだろう。

 しかし、現状をどうこう言っても不利な事には違いない。

 シノブが小さく何かを呟いている。離れた場所にいる教官たちに連絡をとっているのだろう事はすぐにわかった。時折目線で一番近くにいる教官と何やら合図をとっているのも。

 そうしてすぐ、彼女は目の前の男たちに顔を向ける。

「そちらの仲間、うちの教官が確保したわ」

「おや」

 合流した男たちにリーダーと呼ばれたのだから、この男がジョルジュ・マルティなのだろう。ジョルジュはシノブの言葉にピクリと片方の眉を上げただけの反応を見せ、その後はすぐに穏やかな表情を維持する。

「小さな子供じゃないからね。お構いなくとアイマン大尉に伝えてくれないかな?」

「遠慮はいらない、丁重におもてなししているからぜひ合流してほしい。だ、そうよ」

「そんな風に言われてしまったら、こちらも彼を丁重におもてなししなければいけなくなるね」

 物騒な雰囲気など微塵も感じさせないままジョルジュが銃を構える。

「あぁ、リーダー、傷をつけるなら手か足をお願いしますよ。くれぐれも顔と体は避けてください。」

 言いながら黒衣の男は床に身を投げ出したジーンの脇にしゃがんでその頬に手を当てた。

(っわ~)

 背筋になにやらぞわぞわしたものが走り、両腕にぶわりと鳥肌が立ったのがわかった。後ろの方でも雰囲気がざわめく。

「…ドクター、そんな趣味があったのか…?」

 その気持ちはどうやら侵入者側も同じだったようだ。ジーンを担いできた男はドン引きしたように顔をひきつらせて仲間のドクターを見やる。

「何を言っているんですか、中も外も、こんなに面白くて私好みの体は珍しいんですよ」

 背後からジーンを抱え込んだまま拗ねたように仲間を見上げるドクター。その様子にル

ークは思わずシノブの様子をうかがった。こういうのも、三角関係になるのだろうか?

「候補生を1人人質にとったから逃げられるとは思うな?彼がどんな人間だろうと取引の

材料にはならない」

 周りの雰囲気などものともせず、シノブは総代としての立場を崩そうとはしなかった。でも、内心はかなり複雑だろうなとルークは思う。彼ですらどうしようと思ってしまうの

だから。

「いらないなら、なおの事貰って行きましょう。とても、楽しそうだ」

 言いながら黒衣の男がジーンのあごに手をかけ、耳元に顔を寄せたその瞬間

「OK、ジーン!」

「!」

 シノブの声を合図にジーンが目を開いた。右腕が勢いよく振られその肘が男のわき腹を直撃する。

「ルーク!」

 さらにジーンはその時の反動を利用して前に倒れ込む。侵入者の手から距離をとったジーンの腕を、シノブに名前を呼ばれて飛び出したルークが掴む。ジョルジュが持っていた銃を構えたが、その足元にいくつもの光線が威嚇するように飛んだ。その援護射撃を受けルークは副総代の体を自分たちの方に引き寄せ、安全圏へ逃げ込んだ。……ジーンが小柄で助かった。

 逃げ込んだ先では待機していた仲間たちが二人を取り囲む。ルークはとっさに1人残してきてしまったシノブのもとへ戻ろうとしたが、誰かにのしかかるように押しつぶされた。ジーンだ。

「アホ!どこに行くつもりだ」

「……総代が…!」

「あいつなら、大丈夫だ」

「そうだな、ホーバン。お前は標的にされている。行けば足手まといになるだけだ」

 ジーンをどけて起き上がろうとしたルークにさらに制止の声をかけたのはアイマンだった。コン、と音を立ててルークのヘルメットを叩く。

「ハタノは俺に任せとけ。…グレイツ、お前立てないのか?」

「……手足の先がしびれていて自由に動かせません。スタンガンを食らったのでたぶんその影響かと…」

「ならそのまま医務室へ行け。ちょうどいいからホーバンはその付き添いだ。ハタノほど可愛げはないが、大きさは同じくらいだからそれで我慢しておけ。それから3班は二人の警護につけ。可能性は低いがまだ内部に侵入者がいる可能性がある。油断はするな」

 それだけ言うとアイマンは余裕のある足取りでシノブの方へ進んでいった。





 床におろされてうめいて見せたジーンを見て、思わず噴き出すかと思った。

 彼がわざと男たちに捕まった事はインカムを通してシノブに伝わっていた。情報と動向を掴むために懐に入り込む、と連絡が入っていたのだ。

 侵入者の正体、その目的と標的、人数がその行動のおかげで判明した。思いもかけないおまけもついてきたが。

「ハタノ、ご苦労さん」

 ぽん、と大きな手が彼女の肩を叩いた。視線を送れば頼りになる教官が安心感を与える笑みを浮かべ自分の横に立つ。

「久しぶりだなマルティ」

「君とこんなところで会うとは思わなかったよ、アイマン大尉。教官なんて、軍は人材を捨てる技術に本当に長けているね」

「ん~?褒めてもらってるのか?」

「君のおかげで入手できなかった情報はかなりあるからね。君の教え子も、一筋縄ではいかなそうだが」

「俺が教えるでもなく、こいつはもともとこうだがな」

 片や複数の銃を向ける指揮をとる士官、もう片方は銃を向けられる侵入者だと言うのに会話はいたってのんきだ。シノブは警戒を解かずに、少々の非難を込めて教官、とアイマンを呼んだ。

「真面目な教え子に怒られる前に一段落させるとするか。マルティ、さすがにもう逃げられんだろう。大人しく投降しておけ」

 アイマンが片手を上げると、侵入者を包囲する輪がじりじりと詰まって行く。抵抗されることも考え、シノブも銃を構えたがジョルジュは意外にもあっさりと武器を手放し両手を上げた。他の2人にも合図して武器を捨てさせる。

「素直だな、気味が悪い。…警戒を怠るな。拘束しても油断せずに拘置だ。営倉に入れておけ」

「アイ・サー」

 拘束班の指示を出すべきかとシノブはちらりと候補生達に視線を向けたが、それよりも先に他の教官に指示をされた数人がその教官とともに男たちを確保した。武器を回収して電子錠をかけ彼らを無力化する。その段になってシノブはようやく銃を下ろした。

「教官、この後は?」

「あ?あぁ、侵入経路の確認と、あと念のために不審者が侵入していないか敷地内の探索だな。候補生全員でやればさほどかからないだろうさ」

「侵入者に関しては?」

「基地に連絡をして拘置所に移す。その後の事は専門家に任せる事になるだろうな。ま、目的もはっきりしてるから、わざわざ素人の俺たちが手を出すことじゃない。全てを自分だけでこなそうとするのはお前の悪い癖だ。気をつけろ」

「アイ・サー、ご指導ありがとうございます、サー」

 口ではどうのこうの言いながら、アイマンは小さく笑うとシノブのかぶっているヘルメットを軽く押さえた。その優しい感じにシノブも小さくほほ笑む。言葉にはしないが、よくやったと褒められているようでうれしかった。

 その幸せな気分の余韻に浸る暇はなかったが、それでも教官たちの指示のもと候補生達をまとめながら士官学校敷地内の探索とワトソンのシステムの確認、侵入経路の確認を終え、さらに侵入者たちに一番長く対峙したという理由で校長への報告にも立ち会ったシノブが医務室へ顔を出せたのはいつもならば消灯時間が過ぎた頃の話だった。本来は用事が済んだのだから明日の訓練に備えて速やかに就寝すべきなのだろうが、ルークたちの事が気になったのと少々興奮状態になっていたようで一向に眠気の来ない彼女を見て、アイマンが一緒に来るか、と同行を許してくれたのだ。

「まだしびれが抜けないか?」

 医務室のベットにいたジーンは上体を起こして彼女たちを迎えてくれた。その脇には椅子に座るルークがいる。待機命令が出たままだったため起きていたらしい。

「スタンガンが最大出力だったようです。着ていたセーフティジャケットが通常仕様のものだったらまだ気を失っていたかもしれません」

 ジーンのセリフにアイマンが顔をしかめた。

「それがわかっていて、相手の懐に飛び込んだのか…?」

「自分を捕まえに来る事はわかっていたので、ヘイル候補生特別仕様のジャケットを着用していたんです。通常出力のスタンガンならこんな無様な事にはなりませんでした。相手が無茶過ぎたんです。セーフティジャケットを着用していなければ命にかかわっていた可能性もありますね」

 アイマンがため息をつく傍ら、ルークがぎょっとして眼を見開いた。

「え!?あいつら、ジーンも狙ってたのか!?」

「お前ね、俺がただ偶然捕まったと思ってたのかよ…」

「いや、てっきりあの黒ずくめのドクターに気に入られたからだとばっかり…」

 ルークのこのセリフに、医務室にいた全員に微妙な空気が流れた。あえて言うなら、苦笑い、だ。

「……お前なぁ……」

「いや、ありゃまた、妙なオマケが付いたもんだったなぁ」

 心底嫌そうに眉をひそめたジーンともう笑うしかなくなってしまったアイマン。その2人に挟まれる形でシノブは小さく首を振った。

「ルーク、今回の標的にされたのはあなたとジーンよ。あなた達二人を仲介にして秘密裏に情報のやり取りがあるんじゃないかと考えたみたいね」

「え~と、オレの方はおっさん…サタケ大将とのつなぎを考えてだろうけど、ジーンの方は?グレイツ姓の士官って…」

「親父は准将だ。ただ、今回は親父じゃないな、じいさんだ」

「?」

「父方の祖父は隠居してるんだが、母方の祖父がな…ロゼッタなんだよ」

「へ!?ロゼッタって、あの元帥の一族?ははぁ…そりゃ」

 ロゼッタは軍内部でも有名で、元帥を何人も輩出している一族だ。もちろん、軍人家系で元帥直系から、傍系、遠縁までさかのぼって行けばそこそこの人数が軍に所属している。一種のステイタスになっているので、ちょっとでもつながりがあると親戚を自称する人間がいるくらいだ。だからルークの方も、さほど驚くことなく軽く流すような口調だったのだが。

「お前勘違いしてそうだから言っとくが、グレイツの祖父さんってのは、元帥閣下その人だからな」

「はい!!?」

「サタケ大将からロゼッタ元帥へ宛てた秘密裏の情報交換。ね?トップシークレットっぽいでしょう?」

「うわぁ………」

 サタケ大将は40代の若さで大将になったエリートだ。その彼が後見人をしている候補生が異例の転校、しかもその先にはロゼッタの孫がいる、となれば多少の深読みをしてみたくもなるだろう。場所が軍人候補とはいってもひよっこの集まりである士官学校なら、侵入を試みる気にもなりやすそうだ。しかし、ルークがもった感想は少し違うところだった。

「この外見でこのスペックで、バックヤードまで一流って……何の嫌味…?」

 ぶはっとアイマンが吹き出す。ジーンの嫌そうな顔に磨きがかかった。

「そう言ってやるな、この外見であのドクターをひっかけちまったんだからな」

「中身も気に入られてたみたいですけど」

「あんな悪食だったなんざ俺も知らなかったがな」

 憮然とした表情のジーンをアイマンが笑いの種にする。

「教官はあの、イエローゲート?と付き合いが長いんですか?」

「付き合いと言われると困るが、まぁ、奴らと現場で遭遇する回数はそこそこだな。よもや士官学校でまで会う事になるとは思っていなかったが」

 ため息をついたアイマンは急に表情を引き締めた。

「改めて確認するが、ホーバン、大将閣下から伝言は預かっていないな?」

「ノー・サー。どなたか高官へ向けての伝言は一切預かっていません」

「グレイツ」

「自分も同じです、サー。祖父からも両親からも一切言付を預かっていません」

「わかった。では奴らの勘違いとして報告、処理する。万に一つ後になって該当する事項を思い出した場合は速やかに報告する事、いいな!」

「アイ・サー!」

 ルークはその場で立ち上がって敬礼し、ジーンは力が入らないために指がやや揺れていたが角度はピッタリの敬礼をした。

「あぁ、それからな」

 さらにアイマンが何かを言おうとした時、彼の端末が音を立てた。立ち上がって医務室を出た彼の背中を見送りながらジーンがため息をつきながらベットの頭部部分にある壁に背中を預けた。

「そこまでしびれてて、よくあれだけ鋭い肘鉄を繰り出せたなぁ…」

「知るか」

「ルーク、そこは茶化すのはやめましょう?ジーンはよく耐えてくれたわ」

 女性の立場としては、あの現状のジーンの心情は想像に難くない。手足がしびれている筈なのにあれだけ力を込めて逃げ出していたのがわかりやすい証拠だ。本当はもう少し情報を引き出せればとも考えていたのだが、あれが限界でもあったと思う。

「お疲れ様。今日はどうするの?このまま医務室?」

「俺はしびれさえ抜ければ寮に戻れるんだが…」

「侵入者が5人いたって言うワトソンの証言があるから、どうにもまだ警戒が解けないと言うか…」

「教官は可能性が低いような事を言ってたがな」

「最初に確保した侵入者に聞いたのかもしれないわね」

『なんですって!?』

 廊下から響いてきたのはアイマンの声だった。ただならぬ彼の声に三人は一斉にそちらに目をやったが、当然見えるはずがない。

 さりとて、話の内容が軍事機密の可能性があるのでうっかり見に行く事もできない。お互いの顔を見合わせていると、がしがしと頭をかきながらアイマンが戻ってきた。

「悪い知らせだ」

 ため息交じりに首を振った彼の口からはある程度予想が付いていた通り良くない報せが飛び出した。

「奴らが逃げた」

「!?」

「ワトソンが確認していた5人のうち1人は、もともとハッキングを専門にしてるやつだったんだ。あいつは戦闘には参加した試しがないから、侵入者が奴らだとわかった時点で、1人はおそらくワトソンを制圧してすぐに戦線を離脱。作戦が失敗した時に逃走の手助けをする事で話が付いていたんだろう」

「それがわかっていたから、余計な怪我をする前に投降した…」

「おそらく、な」

 もう一度大きくため息をつくと、アイマンはルークとジーンに真面目な顔を向ける。

「グレイツもホーバンも、しばらくは単独での外出は控えておけ。特にグレイツ、お前ヤバい狙われ方してるんだからな、用心しておけよ」

「「アイ・サー」」

「野郎のケツの心配なんざしてられねぇからな」

「……教官、ハタノがいるところでそこまで言うと問答無用でセクハラになりますよ…」

 げっそりとしたようすでジーンがそれだけ反論するので、シノブもそれに答えて渋い顔を作ろうとしたがなぜかそれが苦笑になり、妙におかしくなって吹き出していた。それが伝染し、なぜだか4人そろってしばらく大笑いする羽目になったのだった。


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