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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・桃

意外にも、勧善懲悪というオーソドックスな書き物に仕上がりました。よろしくお願い致します。

 起


 昔むかし或るところで、お爺さんとお婆さんが川でイチャイチャしながら洗濯をしていたその刹那に目の前で、静寂だった水面が大きな王冠の花を咲かせて川底を剥き出し、それと共に稲光の発生と激しく青白い点滅する球体とが出現。さらにそれは、赤味がさして鮮やかな桃色となり、やがてはその『皮』が縦に割けて開きました。すると、中から現れたものとは、片膝を突いて丸まった『何か』が身をゆっくりと起こしてゆき、お爺さんとお婆さんに振り向いたのです。

 『桃』から生まれた者とは、むくれ顔が大変にチャームで身の丈六尺以上もある、筋骨隆々で実に屈強な大男。彫りの深さも魅力的。しかも、一糸纏わぬ姿でした。


 ザザン、ザンザザザン!!

 ザザン、ザンザザザン!!


 やがて光る『桃』から生まれてきたこの丈夫は、桃太郎と名付けられました。そして、文武両道の修行を終えた或る年に、桃太郎が出陣の準備を整えるとお爺さんとお婆さんへと、玄田ヴォイスばりの野太い声で語りかけてゆきます。

「では、私はこれから鬼ヶ島に鬼退治へと行ってまいります」

「達者でな、桃太郎や」

「問題はありません、お爺さんお爺さん」

 そう述べて家から少し歩いたのちに立ち止まるなりに、見送り続ける後ろの二人に首を向けてこう自信ありげに答えたのです。

「I'll be back」


 ザザン、ザンザザザン!!

 ザザン、ザンザザザン!!


 こうして桃太郎は、道中で友情を交わした犬と猿と雉とを連れて、不届きな鬼どもを退治しに鬼ヶ島へと殴り込みをかけに行きました。



 承


 そして、捕らえられていました。


 ザザン、ザンザザザン!!

 ザザン、ザンザザザン!!


 しかも、桃太郎から始まって犬猿雉へと至るまでに、実に丁寧に縄で縛られています。

 それは、亀の甲羅を象って。

 キッコウ縛りというものです。

 もがけば締まってゆく縛り方です。

 身ぐるみ剥がされての褌姿。

 扱い方が丁寧なんだか。

 そうでもないんだか。

 と、そこへ、腰簑こしみののみを身に着けた屈強な男たち複数を引き連れた、十二単姿の女が現れてきました。その女の額からは、二本の突起物が天を目指しているかのように鋭利に生えていたので、これを角と判断した桃太郎一団。

「桃太郎とやら。そなた、御上の命で、この紅葉を殺しにきたのであろうが、生憎だったのう。こうして捕まって縛られているようでは、わらわに指一本も触れる事が出来まいて」

 なんと、鬼ヶ島を支配していたのは鬼女紅葉でしたのです。さらにこの紅葉は、指で部下のひとりを呼びつけるなりに、差し出されたお盆に乗せていた火の点してある赤い蝋燭ろうそくをその白い手で持ち上げてゆき、これを桃太郎まで近づけて傾けていったときに、数秒と経たずに熱を持った赤い滴が男の分厚い胸板へと滴り落ちていったのです。その瞬間、桃太郎が躰全体をビクッと大きく仰け反らせたのと同時に、縄が躰のいろんな箇所を一斉にキュッと締め上げていきました。

「おうっ」


 ザザン、ザンザザザン!!

 ザザン、ザンザザザン!!


 次は、場所をずらして赤い滴を垂らしていく度に大きく痙攣させて、野太い声で悶えていきます。以下、鬼女紅葉は手を休めることなく箇所を少しずつ外していきながら、熱くたぎった赤い物を滴らせていき、これに呼応するかの如く苦悶をしてゆく桃太郎を見て楽しんでいきました。そして顎に手の甲をやって「おーっ、ほっほっほっほっほっほ」と高笑い。侮蔑の顔へと変えます。

「情けなや、桃太郎。どうじゃ、思うように動けないであろう」

 次に、隣りの犬猿雉へと顔を向けたのちに足を運んでいくと、手もとの蝋燭を傾けていったのです。

「あうっ!」

「ぃえす!」

「おぅいえ!」

 次々に悶絶してゆく道中の仲間たち。鬼女紅葉は、これをまんべんなく振り分けていき、一団へとある種の拷問をしていったのです。


 ザザン、ザンザザザン!!

 ザザン、ザンザザザン!!



 転


 三角木馬。

 電気椅子。

 水責め。

 鞭打ち。

 逆さ吊り。

 くすぐり。

 一団は皆、キッコウ縛りのままこのような拷問を受けていくなかで、犬猿雉は悲鳴とも悦びとも云える声をあげていくも、ただ桃太郎のみが叫ぶことなくひたすら抑えて悶えていくといったものでした。

「ほほう。そこの畜生ともども、よく堪えておるわ。お前たちも此の桃太郎同様に、御上から仕込まれたのかえ」

「も、紅葉さんと、やら。そりゃ思い違いじゃけ」

 なんと、犬が答えていきます。

「儂らはの、そこの桃太郎の旦那に惚れ込んで、ぬしらのような不届き者を退治しに同行したまでじゃけんの」

 その途端に、桃太郎は赤い眼光を放ったと思ったら、野太く呻いて縄を引きちぎってしまいました。

 友情パワーという物です。


 ザザン、ザンザザザン!!

 ザザン、ザンザザザン!!


 これを目にした鬼女紅葉は眼を剥いてひと言。

「嘘ぉー!? マジ!?」

 やや、お上品さに欠けます。

 焦りを露わにしている鬼女紅葉をよそに、桃太郎は褌の中に手を突っ込むとひとつの笹の葉に包まれた物を取り出しました。そして紐解いて開けたそこには、幾つかの稲穂色に輝く丸い物体。これらをうち三つばかり鷲掴みした桃太郎が、仲間たちへと投げつけました。

「我がフレンズよ、吉備団子だ」

 スタンバイしていた面々の口に、器用に中に放り込まれていって咀嚼を終えて飲み込んだその瞬間、ぬんっ、と縄を引きちぎって拷問器具から脱出。そんななかで、鬼女紅葉と手下たちは足下に滴る液体に気付きます。

「これは……」

「私の汗だ」

 そう、それは今まで受けてきた拷問を耐え抜いた桃太郎が垂らした尋常でない量の汗が、床一面を覆っていたのです。そして桃太郎が己の汗を両腕ですくい上げるなりに、鬼女紅葉たちへと引っかけていきました。男性フェロモンたっぷりの液体が津波の如くふりかかり、一味は濡れ濡れです。続いて、雉はトドメとばかりに風を起こしていったら、あら不思議。鬼女紅葉は一味ごと忽ち凍結していったのです。これを確認した桃太郎が褌の前に手を入れて弄ると、長い物を引き抜いて片手で構えます。これは、筒が二つ並んだ種子島銃。

「地獄で会おうぜ、ベイビー」


 ザザン、ザンザザザン!!

 ザザン、ザンザザザン!!


 鬼女紅葉めがけて撃った途端に、女は花を咲かせたかのように砕け散りました。



 結


 そうして桃太郎一団は、島にある巨大な火山の火口付近まで向かい、捕らわれているという或る姫君を解放してあげました。

 すると。

「べ、別に有り難くなんて思っていないんだからね」

「勘違いしないで。私たちは鬼退治に来たついでに、たまたま貴女のような姫君がいたから助けてやっただけよ」

 と、桃太郎も返します。

 姫君も負けていません。

「まあ、今回は私の失態もあったから“取り敢えず”礼は云っておくわ」

「貴女から云われても嬉しくも何ともないんだけれど、まあ、今だけは特別に“受け取ってあげる”から」

 何かの戦いが始まっています。

 その上に、今どき感があるのを禁じ得ません。

 そうしている間にも拷問部屋に散らばった破片が、残っていた熱気によって溶けていき、それぞれが一点に集まっていくと徐々に盛り上がって伸びて、絞ったりなど象っていった結果、吃驚仰天。鬼女紅葉は完全復活を遂げたのです。

 やがて姫君と一団は、気配に気づいて振り向いたところに鬼女紅葉がいたのです。すると鬼女の人差し指が伸びてきて、桃太郎の肩を突き刺しました。そして軽々と持ち上げて、放り投げたら、桃太郎は火山を転がり落ちていきました。息を飲んで驚愕する姫君とフレンズ。

「さあ、残るは姫君と畜生どもじゃ。吐けばこのまま生かしておいたものを、哀れだのう」

 指先を鋭利に尖らせていきながら構えていったその後ろで、何者かの気配に感づいて振り返ったときのことです。なんと、桃太郎がショットガ…………種子島銃を匍匐姿で構えていたのです。


 ザザン、ザンザザザン!!

 ザザン、ザンザザザン!!


「ひとつ、人の世の生き血を啜り。ふたつ、不埒な悪行三昧。みっつ、醜いこの世の鬼を天に代わって退治てくれよう、桃太郎」

 そして、迷い無く引き金を引いた瞬間、爆音をあげて鬼女の躰に炸裂しました。結果、紅葉は頭や両腕がアッチャコッチャと飛び散って、何かの展開図みたいにペラッペラです。銃撃の余韻でしょうか、鬼女はおぼつかない足元を滑らせたときに、沸騰する火口へと落下。悲鳴をあげてもがいていく内に力尽きたのか、赤々とたぎる海の中へと沈んでいきます。そして手を残していくとき、鬼女紅葉が親指を立てて完全に飲み込まれてしまいました。

「さあ、帰ろう」

 それから桃太郎は、姫君をはじめ、犬猿雉を引き連れて鬼ヶ島をあとにしました。


 めでたし、めでたし。


 ザザン、ザンザザザン!!

 ザザン、ザンザザザン!!

 ザザン、ザンザザザザザン!!


 漢(完)!!




このような書き物を最後までお読みしていただき、ありがとうございます。桃太郎は好きな題材なので、また何か出来たときには発表したいと思います。

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