デスゲームの参加者がノリノリすぎて怖い話
ここはどこにでもある一般的なデスゲーム会場。
まさか今どき『デスゲーム』が何かを知らない人がいるとも思えませんが、要は閉じ込めた複数人に生き残りを賭けて危険なゲームをさせるという極めて倒錯的な遊びです。
『ククク、アナタ達には殺し合いをしてもらいマス!』
モニター越しに参加者への状況説明をしているのは、このゲームの司会進行を務める仮面の人物。ゲームマスター歴十五年のベテランです。
デスゲームの進行役と一口に言うのは簡単ですが、これが意外と誰にでもできるようなものではありません。
適度に不和を煽りつつも協力を促し、絶望を抱かせながらも一抹の希望を与える。当然ながら実際にゲームをプレイする参加者の顔ぶれは毎回違うわけですし、事前に調査したプロフィールと実際に話してみた感触を手掛かりに、参加者の精神状態を微妙なバランスでコントロールする必要があるのです。
『おおっと、そう悲観的になってはいけませんヨ!』
過度に絶望を与えすぎて、まだ肝心のゲームが始まる前から参加者が揃いも揃って無気力状態になったり自暴自棄になるようでは下の下。勝者の権利たる生き残りは当然として、副賞に当たる莫大な金銭などのエサをチラつかせ、モチベーションを高めることが重要です。
ちなみに今回の参加者は、全員がランダムに攫って来た民間人。
万が一、このゲームを見物する顧客たるVIPの身内や友人などを連れてきては大問題になって事業の継続そのものが危うくなるため、確保してから現時点までの半日ほどの間に身辺調査を済ませていますが、彼らが調べた限りでは特にそういった心配のない普通の人間ばかり……のはずでした。
当然、いきなり行方不明になれば家族や近しい人々が不審に思い、捜索願を出したり探偵に人探しを依頼するくらいはするでしょうが、警察の下っ端や民間の人間がいくら調べたところで何も出てはこないでしょう。
『ククク、状況は呑み込めましたカ?』
さて、ルール説明もようやく一段落。
そろそろ肝心のゲームに移ろうかというタイミングで、ゲームマスターにとって少しばかり意外なことがありました。いえ、それ自体はトラブルというより好ましいくらいだったのですが。
「……あの、質問いいですか?」
『ええ、なんなりト』
「大丈夫だとは思うけど、心配性なもので。アナタ方のルールに従って人を死なせた場合、それが殺人罪扱いになって警察に逮捕されたりはしないんですよね?」
『はい、ご安心くださイ。このゲームの結果は全て秘密裏に処理されますのデ』
参加者の一人、サラリーマン風の男性からこんな質問が出てきました。
要は、警察の介入がないと確信できなければ安心して人を殺せない。
逆に言えば、それが無いなら前向きにゲームへの参加を考えている。
普通の人間はいくら高額の賞金を提示しても人殺しには躊躇してしまうものですが、こういう積極的なプレイヤーが一人か二人くらいいると、盤面の膠着状態を防ぎやすくなるため運営側としては好都合なのです。
『この島は……オット、うっかりネタバレしてしまいましたがこの程度ならいいでしょウ。我々がいるのは、とある御方が個人的に所有している無人島。島の四方は切り立った崖になっているので、島の中央にあるヘリポート以外からの出入りは不可能でス。警察がやって来ることなど絶対にあり得ませン』
「なるほど、ご親切にありがとうございます」
『え、ええ、どういたしましテ?』
説明していたゲームマスターも、このあたりでやっとサラリーマン男性の異様な落ち着きぶりに違和感を覚え始めたようです。いえ、よくよく見ればサラリーマン以外の参加者も、何がそんなに嬉しいのか全員が朗らかに微笑んでいるではありませんか。その微笑がハッキリとした大笑へ、そして狂笑へと変わるまで時間はかかりませんでした。
「ふ、ふふ……やったぁぁッ!」
「余計な後始末を考えずに殺し放題! こういうのを待ってたのよ!」
「よーし、パパいっぱい殺しちゃうぞぉ!」
ゲームに前向き、どころではありません。
デスゲームの進行役として過去数百人もの死に様を見てきた仮面男ですら、ゾッと背筋が冷たくなるような狂気と殺意。それが今回の参加者として攫って来た全員から等しく発せられているのです。
「ふふ、あの仮面の方が『我々』のいるのは無人島だと言っていましたからね。私達だけでなく、少なくとも運営側のスタッフさん達はそう遠くない場所にいるのでしょうね。ゲームということなら、それを見物に来た観客の皆さんも恐らく」
「アハッ、やっぱりここにいる人達はお仲間だったんですねぇ。血の匂いっていうのかな? なんとなく雰囲気で分かっちゃうっていうか。アタシも初めて見たけど、同好の士っている所にはいるものですねぇ」
「あはは、貴重なお仲間とオフ会感覚で語り合うのも悪くはないけど、先にあの司会の人が言ってたヘリポートを押さえておかない? まず誰も逃げられないようにして、それからじっくり楽しむ方向で」
普通のサラリーマンや女子高生や小学生や主婦や主夫やフリーターや大学教授やプログラマーや警察官。運営側が調べた限りではそのはずでした。その全員がただの一人の例外もなく殺人鬼だったなんて確率は、宝くじの一等に十回連続で当選するよりも低いでしょう。
が、現実は現実。
しかも、その殺人鬼達の中には厄介な特殊技能を備えている者もいるようです。
「はいはい、部屋の電子ロック解除しましたよっと」
「おっ、助かる。じゃ、何人かでヘリポート押さえて、その後はどうします?」
「臨機応変にってことでいいんじゃないスかね。ここにいるお仲間同士で協力するのも、やっぱり殺し合うのもお好きにどうぞって感じで」
外部からの遠隔操作以外では決して開かないはずの扉が開かれ、参加者達は迷いのない足取りで部屋を後にしています。宣言通りにヘリポートを占拠して、誰一人としてこの島から出られないようにするつもりなのでしょう。
『なっ、そんな馬鹿な……っ』
数分後には、仮面男の生身の耳にも狂笑と悲鳴が届き始めました。
いったい島から生きて出られるのは誰なのか。
一人の例外もなく全員がゲームのプレイヤー。
どこにも安全圏など存在しない、誰もが等しく生死を賭けた真の殺人ゲームがその幕を開けました。




