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悪役令嬢に転生したら隣国の軍師が石田三成だった件  作者: しげみち みり


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7/12

第7話 風は王太子より

 春の陽光が差し込む学園講堂。だが空気は重く、まるで嵐の前触れのようだった。

 壇上に立つ王太子レオンハルトが、傲然とした笑みを浮かべる。


「本日ここに告げる。――セシリア・ド・ルーベンとの婚約を破棄する!」


 ざわめきが爆発した。

 来た――これが「風」。見えぬ力、王太子の気まぐれ。

 シナリオ通りなら、この瞬間に私は悪役令嬢として糾弾され、破滅へと転がり落ちる。


 だが今の私は違う。

 私は胸元から一枚の紙片を取り出した。それは――三成が夜会の場で取り付けた「約束」。


「殿下。お言葉ですが――ご自身の誓約をお忘れですか?」


 場が凍りつく。

 私は紙片を高らかに掲げた。


「殿下は、王とゲルデン使節の前でこう約されました。『セシリアに関する根拠なき中傷が出たとき、必ず事実確認を行う』と!」


 観衆の間にどよめきが走る。

 証人は王、そしてゲルデンの軍師――石田三成。


 視線が一斉に三成へ注がれた。

 彼は席を立ち、静かな声で告げる。


「確かにその約束は交わされた。水三献の第三において、殿下自らの口より」


 彼の灰色の瞳は揺るがない。

 その一言で、場は完全に動いた。


 王太子は眉をひそめ、唇を歪める。


「……事実確認を、すればいいのだな」


「もちろんですわ」

 私は一歩前に出る。


「殿下が私との婚約を破棄する正当な理由――証拠を、どうぞお示しくださいませ!」


 沈黙。

 観衆の視線が王太子へ突き刺さる。

 公爵夫人は顔を蒼白にし、取り巻きたちは口を閉ざした。


 やがて、王太子は苛立ちを隠すように笑った。


「……ふん、今は証拠が揃わぬ。だがいずれ必ず――」


「証拠なき断罪は、ただの暴風。殿下の名誉をも傷つけますわ」


 私は静かに言い放った。

 ざわめきが拍手へと変わっていく。


 その夜。私は使節館の一室で三成と向かい合っていた。

 窓の外には、風に揺れる木々の影。


「殿下の“風”を退けたのは、あなたの設計図だ」


 三成が低く言う。

 私は首を振る。


「いいえ。私が用いたのは、あなたが注いでくださった“第三献”よ」


 彼の唇に、わずかな笑みが浮かんだ。


「風を抑えた。だが、次は“水”だ」


「水……?」


「噂の火よりも広がりやすく、土よりも深く浸透する。国全体に波紋を広げる策。

 ――彼らは必ず、外交を揺さぶる」


 私は息を呑む。

 つまり、学園の枠を越え、国と国の関係を利用した罠が仕掛けられるということ。


 扇を閉じ、私は三成を見据えた。


「嵐が来るのね」


「嵐を制するには――水脈を変えるしかない」


 彼の瞳が、蝋燭の炎に照らされて鋭く光った。

 私は深く頷いた。


「ならば、その設計図を――共に描きましょう」

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