表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12

第2話 学園に潜む罠

 夜会から数日後、私は馬車に揺られていた。

 向かう先は――王都学園。乙女ゲーム『薔薇の王国の婚約者』の主舞台である。


 セシリアは学園に入学後、ヒロインをいびり抜き、王太子の逆鱗に触れて「公開婚約破棄」される。そこから破滅ルートまっしぐら。

 けれど、今の私は違う。夜会で石田三成という“史実”の軍師と手を組んだ。破滅を避けるだけでなく――未来を設計するために。


「お嬢様。学園生活、愉しみでございますか?」

 侍女のリネアが不安そうに尋ねる。


「愉しみ……ええ。もっとも、愉しむ暇があるかどうかは分からないけれどね」

 私は窓から校舎を見やった。高くそびえる白壁の塔、芝生に並ぶ訓練場、色とりどりのドレスや制服に身を包んだ生徒たち。

 この学園は、若き貴族たちの縮図。王太子派、公爵派、中立派――派閥争いがそのまま講義や行事に持ち込まれる。

 そして、私の破滅フラグが最も濃く芽吹く場所。


 ――だが、今回は違う。


 馬車が止まり、私は校門をくぐった。すでに多くの生徒が集まっていて、その視線が一斉に私へ注がれる。

 悪役令嬢セシリア。高慢で傲慢で、王太子の寵愛を笠に着て横暴を尽くす女。彼らはそう認識しているはず。

 しかし私は扇を閉じ、微笑を浮かべる。


「ごきげんよう。今日から、皆さまと学びを共にできることを光栄に思います」


 教科書通りの、けれど誇張のない挨拶。ざわめきが広がる。

 ――まずは印象を“上書き”すること。悪役令嬢という既成概念を崩し、次の罠を揺らがせるのだ。


 その日の昼休み。

 中庭の噴水のほとりで、私は一枚の紙片を受け取った。

 灰色の筆跡、整った字。送り主は、言うまでもない。


 第一段階:学業。

 敵は「愚かさ」の証拠を求める。

 ゆえに、知識で先んじよ。

 ――三成


 私は思わず笑みをこぼす。

 学業。確かに、ゲームのセシリアは成績不振で有名だった。王太子派にとって、彼女が「無能」であることは婚約破棄の格好の口実。

 だが私は転生者。歴史や地理、数学や言語――日本で学んだ知識を総動員すれば、王立学園の試験程度、乗り越えられる。


 しかし問題は、どう目立つかだ。

 ただ試験で満点を取るだけでは足りない。公開の場で能力を証明し、王太子派に口を挟ませない空気を作る必要がある。


 午後の授業は、政治史の講義だった。

 教授が黒板にチョークを走らせながら問いかける。


「ゲルデン戦役の勃発原因を述べよ」


 教室が静まり返る。難問だ。王国史の教科書には「資源問題」としか記されていない。

 だが私は知っていた。ゲーム内イベントでも曖昧に扱われた部分――外交文書の偽造による誤解が真因だったことを。


 私は手を挙げ、立ち上がる。


「公式には資源問題とされていますが、実際はゲルデンの交易証書の偽造が原因とされています。つまり、戦争は資源を巡るよりも、信用の失墜によって引き起こされたものです」


 教室がざわめく。教授は目を丸くし、やがて深く頷いた。


「その通りだ、セシリア嬢。……よく知っているな」


「家に残された古文書に目を通したことがございますので」


 私は扇を軽く開き、微笑んだ。

 実際は古文書などではなく、私の“前世の記憶”に過ぎない。けれど、彼らにとっては十分な説明だ。


 講義後、噴水前に戻ると、再び紙片が差し入れられていた。


 第二段階:規律。

 敵は「放埒」の証拠を求める。

 ゆえに、秩序を護る盾となれ。

 ――三成


 ――秩序。

 それは石田三成を象徴する言葉。

 ならば、学園という戦場で彼が私に求める役割は一つ。

 “悪役令嬢”ではなく、“規律を守る貴族令嬢”として振る舞うこと。


 私は決意を固めた。

 破滅のフラグは学園にこそ芽吹く。だが今はもう違う。

 私は石田三成と共に――未来を設計する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ