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第11話 奪われる光

 学園都市の春祭。

 王都全体が華やかな装飾に包まれ、広場には屋台と楽団、舞踏会の仮設舞台まで設けられていた。

 だが私は知っていた。これはただの祝祭ではない。――私から「光」を奪うための舞台。


 三成は人混みを冷ややかに観察していた。

 仮面を付けた市民、広場を練り歩く騎士団、王太子派の取り巻き。

 彼の声が低く響く。


「群衆の前で評判を崩せば、一夜で信用は瓦解する。これが“光”を奪う策」


「つまり、公開糾弾……」


「そうだ。祭礼は最高の舞台だ。噂と証拠を偽りに織り交ぜ、群衆を先に動かせば、裁きは不要になる」


 私は扇を閉じ、唇を噛んだ。

 王太子派は今まで幾度も私を追い込もうとした。だが今度は、数百人の「大衆」を武器にしてくる。


 夕刻、祭りの舞台に王太子レオンハルトが姿を現した。

 黄金の衣を纏い、群衆の歓声を浴びて立つ。

 その声は祭の鐘を圧するほど大きく響いた。


「この場において――セシリア・ド・ルーベンの罪を告発する!」


 群衆がざわめきに飲まれる。

 次々と差し出される「証拠」。

 偽造された帳簿、買収された証言者、用意された舞台。


「彼女は隣国ゲルデンの軍師と通じ、我が国を売ろうとしている!」


 群衆のどよめきが、怒号に変わりかけたその瞬間。

 私は一歩前に進み、声を張った。


「――ならば、この場で審らかにいたしましょう!」


 私は懐から一冊の帳簿を掲げた。

 それは侯爵家の正規の記録。偽造帳簿と寸分違わぬ形式で作られているが、細部の印章が異なる。


「この“証拠”は、先日の大講堂で既に否定されたものと同じ手口!

 ――しかも、今日ここで偽造を行った者は、この広場の舞台設営に関わった者だ!」


 ざわめきが走る。

 私は舞台脇に立っていた下働きの青年を指差した。

 彼は顔を引きつらせ、群衆の視線に耐えきれず、膝を折った。


「……す、すべて公爵夫人に命じられて……!」


 どよめきは怒りに変わる。

 群衆の矛先は私ではなく、陰謀の首謀者に向いた。


 その時、使節席から三成が歩み出た。

 冷ややかに、しかし力強く言い放つ。


「民衆よ。光は奪われるものではなく、証拠と秩序によって照らされるものだ。

 今日、君たちはその証を目にした。

 ――この場で最も正しく立っているのは、セシリア嬢だ」


 群衆の怒号が歓声に変わった。

 私は胸が熱くなり、扇を閉じて深々と一礼する。


 夜。

 祭の熱がまだ残る路地で、三成と二人きりになった。


「……また助けられてしまいましたわね」


「いや。君自身が群衆を動かした。私はただ、その光を反射させただけだ」


 彼の瞳は淡い炎を宿していた。

 私は思わず問いかける。


「次は……何が来るの?」


 短い沈黙のあと、彼は答えた。


「光の次は――“影”だ」


「影?」


「群衆が信じた光は、必ず影を生む。

 今度は、君の背後に“味方を装う裏切り”が現れる」


 私の背筋に冷たいものが走った。

 だが同時に、扇を握る手に力がこもる。


「……なら、その影さえ設計図に組み込みましょう」


 三成の口元に、わずかな笑みが浮かんだ。

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