プロローグ
はじめまして。今回より連載を開始します【堕男子】と申します。
是非よろしくお願いします!!
――異端者が、また現れた。
その報せは、静かに、しかし確実に教会の奥深くへと届いた。
大聖都イシュマリカ、教会本部地下第七層。
人の目を拒む聖堂の奥で、男は静かに目を開いた。
重厚な鉄の扉が、音もなく開く。
白銀の祭服をまとった女司祭が、膝を折って告げた。
「対象は辺境王国ユースベルクにて覚醒。名は“リュカ・ドーセム”。年齢十七、職業・剣士。権能は【剣聖】。レベル124。」
その言葉を聞いた男は、静かに頷いた。
黒衣の上に羽織るのは、教会の白い外套。
腰には封印銀を編み込んだ、異端審問官の印が編み込まれていた。
その眼差しは、まるですべてを見通すように深く、そして冷たい。
「処分承認は?」
「至高主教、異端認定。執行命令、発動済み。」
男は一つだけ頷いた。
「了解した。処刑対象“リュカ・ドーセム”、確保後、即時執行する。」
その声は、祈りのように穏やかで――
しかしその実、地の底で眠る魔獣の咆哮のように、黒く重かった。
かつて、教会は「光の法」に背く者をただ排除してきた。だが今、その役目は〈審問官〉たちに委ねられている。異端審問官――それは神の名を借り、闇に堕ちた者を裁く者たち。信仰の名のもとに剣を振るい、拷問を行い、時には王の命さえ否定するその存在は、教会内でも畏怖の対象だった。
彼らは教皇直属の騎士にして密偵。教義に背く者、禁じられた魔を操る者、そして“神から外れた存在”を見つけ出し、処断することが使命である。法も常識も通じない。彼らが異端と断じれば、貴族であろうと、聖職者であろうと、焚刑台の上に立たされる。
◆
男の名はレオン=ヴァレンタイン。
教会に仕える“異端審問官”――【怠惰】の名を冠する彼は、重い腰を上げた。
「さーて、行きますかね。」
レオンはそう言ってから席を立った。第七階層には、異端審問官が勢ぞろいしていた。
「レオン、貴様少しは分をわきまえないか。貴様はまだここに入って二月の身。態度がなっていない。」
そう言って、レオンに苦言を呈するのは、異端審問官長官【憤怒】のテネステレーラだ。
「わかっておりますよ。以後改めますって。」
レオンはそう軽く受け流す。
「貴様、これが初めての任務であろう。失敗は許されないのは重々承知のはずだ。いくら神聖枢機主教に気に入られていたとしても、失敗すればそれまでだ。」
テネステレーラの忠告に対してレオンは背を向けながら片手をあげる。
「教会関係の面倒ごとはテネステレーラ達に任せたよー。僕は面倒ごとは嫌いなものでね。何か決まったら教えてくれ。尤も……大したことは決まらないだろうけどね。」
そう言って、レオンは部屋をあとにした。
残ったテネステレーラは二月前にやってきた新参者に対して怒りを隠せずにいた。
「全く無礼極まりないやつだ。異端審問官を何と心得る。この世界にやってきて三月。異端審問官になって二月。たしかに奴の能力は認めるが……まるで奴の態度は教会を穢すようではないか。」
「まあ、【憤怒】のおじいさん。落ち着きなさいよ。私は彼に期待してるわよ。」
「レイブン!貴様は何を言うか!【嫉妬】として恥はないのか!」
レイブン=ナッセルはその美しい、銀の髪をなびかせて答えた。
「恥なんてないわよ。あの子はあの子のしたように、好きにすればいいじゃないの。妖精の世界に下手な礼節を持ち込まないでよね。」
「ふむ……貴様は何もわかっていない。」
そう言ってへそを曲げるテネステレーラにレイブンはめんどくさそうに席を立った。
「私はこれからやることがあるから。貴方とけんかしている暇はないわ。テネステレーラ」
そう言ってレイブンは席を立ち部屋を出てった。
それを皮切りに他の審問官たちも部屋をあとにした。
『とりあえずは、レオンの腕前を見てみよう。』
どうやらそれが、他の異端審問官たちの総意のようであった。
「うむ。わかった。今日は新参者の顔を見ることが目的であったしな……解散だ。」
テネステレーラはそう頷くと、彼も他のものに続いて部屋をあとにした。
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