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心知らぬ死神の愛した世界  作者: 桐生桜嘉
第一章 自己嫌悪
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それぞれの特性


「それにしても、どうして感情を奪ってもらおうなんて考えになったんだ」


 単純な興味の延長線で、俺はそう彼女に尋ねた。すると彼女は「あー……」と言いながら視線を周囲の行き交う人々に向ける。

 そこで初めて、周囲の人々が彼女を白い目で見ていることに気づいた。死神なんて普通は見えるはずがない。傍から見たら、彼女は盛大な独り言を言っている変人だろう。


「ちょっとここでは話しづらいかなぁ……」


 苦笑して声を潜めながら彼女はそう言った。

 集団を意識せざるを得ない人間社会だからこその特徴だ。いわゆる“一般”から外れるものを必要以上に疎外することもある。だから“一般”の範囲に入るようにする必要があるのだろう。しかし、人間は一人一人同じということが決してない。確かに大体同じ、ということはあるが、しかしその“同じ”も場所によって違う。

 俺は人間の幅広さに対し、“一般”の範囲は狭く、そして不明確であるように思っていた。だからこそ不思議で、興味深い。


 “この人間と契約したからには、その不思議でしかない特性を知るためにも、多少なりとも合わせる必要はあるだろう。”

 そう考えた俺は彼女に、今いる横道の少し先にある公園で待っているよう言った。

 死神の姿でいるから普通の人間は認知できないだけで、彼らと同じ人間の姿をすればいい話。死神としての神格はそれなりにあると自負している。普通の人間に“人間ではないこと”がバレることはないだろう。何なら、人間として行動するのは初めてではなかった。まぁ、死神の特性上、契約していない人間の記憶に残りづらく、残っていたとしてもその記憶を維持するのは無理に等しい。ただ、衝撃的な何かが起こるだとか、印象深く残ってしまうだとかのイレギュラーがあった場合は、記憶に残ってしまうこともある。


 今この場で人間の姿に変えることはできるのだが、それでは周囲の人間からしてみれば、突然人間が現れたように映るだろう。不思議に思う程度ならまだいいのだが、衝撃的なこととして捉えてしまえば、その人間の記憶に残る可能性が出てきてしまう。

 死神としては、契約者以外の人間の記憶に残るのは避けなければならなかった。


 俺が指定したそこはブランコと滑り台しかない小さな公園で、大通りからも住宅街からも外れた位置にあるせいか、人間がいるのを見たことがない。

 俺はその公園に向かいながら人間が居ないのを見計らい、かつ電信柱の影に隠れた瞬間、人間の姿へと変化する。

 公園内を見回すと、彼女はブランコに腰かけ、人間の知識と技術の賜物を両手で包み込むようにしていじっていた。歩み寄って、その情報の固まりをのぞき込んでみると、ある人間との静止画のアルバムを流し見ては、誰かとの文字による会話を見返してを繰り返しているようだった。


「何してるんだ」


そう声をかけたと同時に「うわぁっ」と驚きの声をあげ、彼女はその箱を隠すように胸に抱えた。


「ちょっと!! 勝手に人の携帯覗くの良くないよ!! というかその前に声かけて?!」

「なんで良くないんだ?」

「プライバシー!! 大事!!」


 “そういえばそんなのあったな”と思いながら、「わかった、次から気をつける」と返す。別に彼女が見られたくないと思うものを見ようとは思わない。

 俺の言葉に安心したのか小さく息をつくと、彼女はその携帯をパーカーのポケットにしまう。そして呟くように言った。


「感情を奪ってほしいって考えた元凶を見てた」


彼女は髪を手櫛でとかすような仕草をしながら俯く。髪にやった手をそのまま滑らし首にあてると、その手を支えるように膝に肘をついた。うずくまるような姿勢になった彼女は、まるで自分の顔を隠しているようだった。


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