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心知らぬ死神の愛した世界  作者: 桐生桜嘉
第二章 嫉妬
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感情の自覚


『もしもし』

「……なに」

『突然ごめん。ちょっと、話したくなってさ』

「用がないなら切る」

『待って、ごめん、用ならある。相談に、のってほしいんだ』


 電話から漏れて聞こえる相手の声に耳を澄ませた。一言一句逃さないように。

 

 そいつの言う“相談”は、今の恋愛相手とのものだった。彼女は終始突き放すような冷たい態度でいたものの、その相談に冷静に応対していた。


 ――なぜ、自分には関係ないと、電話を切らないのだろう。

 ――なぜ、わざわざ親切にも相談に応えているのだろう。


 浮かぶ疑問に焦っていく自分がいた。導き出される答えを否定するように、あるはずもない心臓が脈打つ音が聞こえる気がした。


「――相談にのるの、今回だけだから」

『……わかった』

「……っ」


 彼女が何か言おうとして、言葉に詰まっているのに気づき、彼女の表情を伺う。


 ――下唇を噛みしめ、肩を震わせながら、その目に涙を湛えていた。


 それを見た瞬間、俺は衝動に駆られるままに彼女から携帯を奪い取る。


「二度とかけてくんじゃねぇ」


 そう言って電話を切ると布団に放り投げ、彼女を抱きしめた。


 彼女は漏れ出る嗚咽を押し殺すように俺の胸に顔を押し付ける。背に回された彼女の手は、服を握りしめ震えていた。


「出なくていいって言っただろうが」


 彼女は、腹立ったから、と言った。


「なんでわざわざ、相談なんかのってやったんだ」


 彼女は、頼られたから、と言った。


「放っておけばいいだろう」


 彼女は、できない、と言った。


「なんで……」


 嗚咽混じりに返ってくる答えが至極気に入らない。そのすべてが、腹が煮え立つその要因となった。

 “なんで”、“どうして”が思い浮かんでは消えていった。お前が苦しんでまでそれをする必要があるのかと、そう問いただそうとしたが、できなかった。

 返ってくる答えは、聞かなくてもわかる。



 ――わたしだって好きなのに、なんでだめなんだろう。わたしなら、あんなこと絶対しないのに。



 彼女が呟いた。……俺の、聞きたくなかったことだった。



「なぁ、喰ってやるよ、それ。そんな感情、いらねぇだろ」


 顔をあげた彼女が小さく頷いたのを確認できた瞬間、俺は彼女の唇に食らいつくように己のそれを合わせる。


 流れ込んでくる彼女の感情は、胸中を煮立たせるようなそれの正体を教えてくれた。頭の中を圧迫するように渦巻く疑問に、答えを与えた。


「あぁ、――俺も、そうだったんだな」


 俺は、彼女と同じだった。


 ――これが、彼女への恋を、自覚した瞬間だ。


 そして同時に、それは叶うことのないものだと悟り、自嘲する。



「お前、すげぇよ。……よく、頑張ってんな」


 抑えるべき感情が無くなり、落ち着きを取り戻すと同時に眠りへと入っていく彼女。おもむろにその頭を撫で、額に口づけた。

 



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