第1章 第9話 【ダンジョンへ】
ウィンダービンの街にあるダンジョン。名は『石畳の都市』。平面タイプ都市型のダンジョンだ。
場所はウィンダービンの街の外れにあるレンガ調の小屋がダンジョンの入り口となっている。地下に続く階段があり、階段を抜けると石田畳の都市が広がっているのだという。まるでそこは普通の都市みたいだという。レンガ造の家々が立ち並び、人が生活していてもおかしくないような情緒ある街並みが広がっている。
ウィンダービンのレンガ倉庫街は、このダンジョンの光景を見た建築士が感銘を受けて作った、と言われるほど。
「『ウィンダービン、ダンジョンぶらり旅』より、か」
とりあえず遅いのでダンジョン攻略は明日にして、お風呂付きの宿を探し、今までの疲れや汚れをさっぱり落とし、綺麗ツルツルにほかほかに生まれ変わり、ベッドの上でウィンダービンのダンジョンについて書かれた本を予習として読むことにした。
ちなみにこの本は冒険者ギルドが出しているダンジョン概要みたいなもので、あの猫の獣人族の受付嬢から餞別に貰ったものである。
それにしても平面タイプ都市か。
ダンジョンのタイプは様々である。
僕が攻略した『奈落』は階層タイプ地下型ダンジョン、フォトゥナ様と出会った『祈祷のダンジョン』は平面タイプ解放型のダンジョン。他には階層タイプ棟型のダンジョンだったりがある。
まあタイプは基本的に平面タイプと階層タイプの2つであるけど、目安なだけで、例外はたくさんある。この『石畳の都市』だって地下に行くために地下型といえば地下型であるし。
平面タイプと階層タイプの難易度としては、平面タイプは比較的に攻略しやすいダンジョンと言わていれる。階層タイプは階を重ねるごとに魔物が強くなっていくことがわかってるし、その階ごとに階層主というボスがいるためにそいつらを倒さないと次に進めないので面倒が多い。しかし平面タイプは基本的にボスである階層主は1体しかないために攻略しやすい、と言われている。
言われてはいるけど•••。
「ウィンダービンのダンジョンは結構前からあるのに誰も攻略できていないのは『特殊ダンジョン』だから、って受付のお姉さんが言ってたね」
『ダンジョンの都市の中に無数にある家のどれかがボス部屋となっている。でもそれはランダムでどこかを開けるたびにボス部屋がリセットされる神出鬼没ダンジョンって説明されてたわね。面白いダンジョンができることねー』
平面タイプは『特殊ダンジョン』が多いことでも有名である。攻略条件が変わっていることが多く、今回のようにボス部屋が変わる、とか、ボス部屋に着くまでにひと手間ある、とか。今回のはなんだか運要素が強そうなダンジョンだ。
『ボス部屋見つけれなくて、それでみんな飽きて出ていっちゃったんでしょうね。この街にとどまらなくても都市に行けばたくさんのダンジョンがあるし。でも大丈夫よセイバー!運なら私の加護があるから!』
いつも感謝しておりますフォトゥナ様。
僕は感謝の念を込めて手を組み祈りを捧げる。他の神様にもいつものお礼の祈りを捧げる。
よし。祈りの気合いも充分だ。明日、ダンジョン、攻略するぞい!
▽
日の出とともに宿を出る。
この夜から朝に変わる日の出の時間が好きだ。早朝というのはなんだか、世界が変わっていく様を見ているようで、非現実を体験しているような、自分だけがこの世の中に1人だけぽつんといるような感覚になって、日常からは味わえない特別感が味わえる。
そんなことを思いながらダンジョン方面に歩いていくと、この早朝にもかかわらず冒険者らしき人がまばらに増えてくる。
おお、ダンジョンに近づくにつれてどんどん人が増えくる。ダンジョン攻略の冒険者のやる気が伝わってくる。『奈落』は誰もいなかったからね。こうやって冒険者が集まってダンジョンを攻略するぞっていう集合意識みたいなのを感じると、これだけで僕も胸が高鳴ってくる。
そして、ここが入り口か。
レンガ調でできた小屋がぽつんとある。
なんの変哲もない小屋だ。
でも、その下にはダンジョンが広がっている。
どんなダンジョンなのだろうか。
そう思うだけで、楽しみだ。
ダンジョンの入り口では、ダンジョンに入る際のいざこざが起きないように、冒険者ギルドの職員と思われる人たちが、今か今かと入らんとしてる冒険者を誘導している。
僕も前に続いて並ぶ。が、
『げ』
「おいおい嘘だろ。セイバーお前ルーキー始まりだろ?まさか大金払ってダンジョン攻略きたのか!?はー、諦めないねえ」
どうやら先に昨日あった村の子のパーティが並んでいた。
「お前死ぬのは勝手だが迷惑かけんじゃねえぞ!おい、あんたらこいつはスキル『なし』のド『無能』だ!!巻き込まれないように気つけろよ!!」
そうやって他にいる冒険者に号令をかける。
他の冒険者はダンジョン前でピリついているのか、変な騒ぎにはならない。でもしっかりと皆にみられている。
騒ぎにはならなかったけど、マークはされたって感じかなあ。はぁ、嫌な噂の広がり方にならないといいけど•••。
『ほんと嫌なやつね!』
『クソほどの下げチンですな!』
神様たち口が悪くなっております!お気を確かに!
でもパーティか•••。みんなで攻略するダンジョンは楽しいだろうな。うん、いつかは組んでみたいね。
村の子のパーティを見てみる。あそこはみんなが僕と同い年くらいに見える。村の子がリーダーでは無さそうだけど、でもみんながあまりみんなに気を遣ってないように見える。
彼らは高等学校に行く歳でもあるはずだ。それなのに前線に出てきているってことは、実戦をしても良い実力があるってことか。すごい子達だ。
『まあ性格からはいけすかないでござるが、レアスキルである『刃物使い』をもつもの、そしてその他のものもそれくらいの強さを持つものと思ってもよいでしょうな。パーティとしては普通にいいパーティなんでしょうな』
世の中には才能が溢れていますね。
『何を言ってるのよセイバー!あなただって今まで頑張ってきたじゃない。弱気になるなんてらしくないわよ?』
そう、ですね•••ありがとうございます。弱気ってよりは、たぶん羨ましいんだと思います。誰かとダンジョン攻略するようなことを想像すると、いいなって•••まあでも、神様たちがいるんで楽しいですけどね!
『セイバー氏•••』
『大丈夫よ。世界はあなたに否が応でも気づくわ。あなたにも仲間が、たっっっくさん増えるわよ』
ごめんなさい、なんか暗い感じになっちゃって。
そうだ。寂しさを知っても、さもしくなってはダメだ。気合い充分のはずだったんだけど、どうやらまだ隙があったらしい。
僕は深呼吸する。ふぅ。冷静冷静。これで大丈夫だ。
『まったく、せっかくセイバーが気持ちよくダンジョン攻略しようと意気込んでいたのにその出鼻をくじくなんて、本当に下げチンね』
彼をあまり責めないでください。スキル『なし』は僕が1番そのすっからかん具合を知っています。子供の頃は村で調子にも乗ってましたし、彼の感想も正しいです。
僕も精神的な修行がまだまだのようです。
『さすがセイバー氏でござるな。強さがあってもそれを支える精神力が欠けていれば、簡単にその強さは足元からぐらつくでござる。まだまだセイバー氏は強くなれるということでござるな!』
そうですね!このダンジョンでももっと強くなって見せます!
そうこうしているうちにどんどんと冒険者が中に入っていく。いよいよ、僕の番だ。
「では次のパーティ。お、ソロか?ソロは基本的に推奨していないが•••通行証はあるか?」
屈強な職員に呼ばれる。この人がいたら、ここでいざこざを起こそうとは思わないなあ。
「はい、これです」
僕は猫の獣人族の受付嬢にもらったダンジョン通行書を出す。
「うんうん、冒険者ギルドのハンコもしっかり押してあるな。わかった。では入ってよし!」
僕はダンジョンの扉に手をかける。
さあ、冒険の始まりだ。