第1章 第7話 【冒険者登録】
ウィンダービンの冒険者ギルドは街中にある。大時計台の近くでもあり、ギルドに近づくにつれて大時計台の大きさが際立ってくる。
そんな存在感際立つ時計台に感動しそうではあるが今まで冒険者ギルドに寄らなかったから、ギルドに寄るという事に緊張してきたかも•••。
「ここかあ」
見た目は木造の家屋で、酒場のような雰囲気だ。
その扉を開ける。
熱気が、扉を開けた瞬間にこちらに吹きかかってくる。
ギルドの中は夜も近いこともあってか、ダンジョン帰りかクエスト終わりなのか、打ち上げが所々で行われている。どうやらギルドの中はお酒も飲めるようになっており、見た目通り酒場も兼ねているようだ。
中は笑い声、怒号、真面目な話し声と、大いに賑わいを見せている。
すごい、熱量だ。
ここが冒険者ギルド•••みんなの熱量に鼓動が跳ねる。
と、冒険者気分になってたけど、早く手続きをしなきゃ。受付は、と、あそこか。
「すみません、冒険者の登録ってここであってます?」
「はーい、あってますにゃ」
受付にいたのは猫耳が生えた獣人族の受付嬢だ。猫族の獣人族、可愛い。
「手続きとしてはスキルカードを出して頂いて、スキルの確認が出来次第、登録に移りますにゃ〜。登録が終わればランクの説明があって冒険者バッヂを渡して終了になりますにゃ」
そこ、なんだよねー。スキルカード提示に抵抗があるから冒険者登録を今までちょっと避けてたんだけど•••。まあ、仕方ないか。
僕はスキルカードを無限収納付き巾着袋の中から取り出す。
提示しようとした時、
「あれ?お前セイバーじゃねえか?」
冒険者の格好をした同い年くらいの男の子に声をかけられた。
えっと。あ、村にいた、たまに遊んでいた子かな?すごい仲が良い、ってわけじゃない子だったような。むしろ、そんなに仲は良くなかったような。
「おいおい久しぶりじゃねえか。おーいみんな、こいつだよこいつ。『無能』のセイバー!」
そう、この子は僕が”スキル授与式”の際に僕のスキル『なし』を笑った子だからだ。仲が良い悪いというか、僕が一方的に苦手なのだ。
何々?とこの子のパーティらしき人達が集まってくる。
「お、ちょうどいい。これ見せてやれよ」
「あ、ちょっと」
パーティが来るのをぼーとみてたら手にしていた僕のスキルカードを腕ごと引っ張られてみんなに見せびらかせられる。
「うわ、本当だ」「存在するんだね、スキルが『ない』人」「これどうやって生きていくの?」
みんな知らない人なのにやいのやいの言う。
『なにこいつ?すごい失礼なやつね』
『漢の風上にも置けないやつですな』
まあ、そんなやつなんだよ。適当にあしらって登録して宿を見つけよう。
うーん。村を超えたところとはいえ、村から寄る街では近い街ではあるから、村の知り合いもいるものか•••世界は狭いですな。
「もういい?これから登録手続きをしないといけないんだ。ごめんけど離してくれないかい?」
「は!?お前が冒険者に!?ギャハハハハ!やめとけって!お前じゃ誰とも組めないし、すぐに死んじまうぞ?まじで腹いてー」
腕を掴まれたまま面白おかしく笑われる。少し悔しい気持ちもあるが、いかんせんスキルなしだとその印象も間違いではないので僕も納得してしまう。
「そうだな!村のよしみでお前の安全のためにこのスキルカードは俺が貰っておいてやるよ!感謝しろよ〜」
ぱっと僕のスキルカードが取られる。代わりに腕は離される。
村の子のパーティに笑い物にされる僕。好き放題され放題だな僕。でも、仕方ないか•••それほど、スキル『なし』は世間では人権がないのだ。ていうか魔族以外でスキル『なし』なんて僕以外にいるんだろうか?まぁ、いっか。
とりあえず、早くしないと宿がなくなるかもしれない。とっとと返してもらおう。
馬鹿笑いしている彼らに、僕は近づく。
近づき方は彼らの潜在意識に踏み込むように。
人は、自分の領域が侵された時、防衛本能が無意識のうちに働く。そのときに無意識下に身構える硬直が生まれる。
僕はその無意識下の硬直の一瞬で間合いをつめ、取られた僕のスキルカードを取り返す。
「ごめんけど返してもらうね」
彼のパーティは何が起きたのかわからず、何か煙に撒かれたかのように、きょとんとした顔をする。
「え?」
遅れて反応。
『さすがセイバー氏ですな。完全にこのパーティの虚を把握した動きですな。しかも、1人ではなく、パーティ全員の虚を。彼らには時が切り取られたように、セイバー氏が瞬間移動したように見えたでしょう。うむ、素晴らしい体捌きですぞ』
ありがとうございます武神様。励みになります。
『そのままみんなの前でこいつらをボコボコにすればよかったのに!愛しのセイバーを馬鹿にしてから!』
女神なのになんと物騒なことをおっしゃる。
『女神だからよ。悪には厳しいの』
なるほど。なるほど?そう言うものなのかな?
まあ女神様。僕が神様から与えられた力はそう言う事に使う力ではないですから。この力は誰かを救うための力ですので、悪しからずです。
『セイバーかっこいいわ!』
『さすがですぞセイバー氏!武士の鏡!こやつらに爪の垢を飲ませてやりたいですぞ!』
「どうやってとったんだ•••?」「こいつ『刃物使い』のスキル持ってるんだぞ•••」「このスキルなし、”豊作の村”の世代の無能じゃなかったのかよ•••」
『あら、『刃物使い』、良いスキルを持ってるわね』
『あらゆる刃物を一流に使いこなすスキルでござるか。生活系でも戦闘系でもいける汎用性の高いスキルですな』
『普通にレアスキルね』
そう。僕の代の村からは、ヴィクトリアの『聖女』やゴウの『聖騎士』をはじめとした複数のレアスキルをもつ子達が輩出された。そのことで僕らの村は”豊作の村”と言われるようになった。その中で僕はスキル『なし』。本当に、豊作の村だよ。
「お前何したんだ?」
僕は、僕もさっぱり、と首をかしげる。
「チッ、気味悪いぜ。冷めた冷めた。さー、飲みに行こうぜー」
そうやって、村の子のパーティは気味悪がってその場から消えていった。
さて、なんやかんやあったけど早く登録だ。
「ごめんなさい。これがスキルカードです」
「ありがとうですにゃ。えーと、名前はセイバー、スキルは『なし』。本当にスキルがないんですにゃ〜。初めて見たにゃ。先ほどの1モメを見ていましたが、彼の言う通り、スキル『なし』ではダンジョンは危険ですにゃ。あんまり私たちもお勧めしにゃいけど、どうするにゃ?」
「それは重々承知してます。でも、僕は冒険者になりたいんです」
僕は覚悟をもってきた。
真っ直ぐと、受付嬢の目を見据える。
「にゃあるほどー。意志は相当硬いようですにゃ。わかったですにゃ!冒険者ギルドは完全自己責任型の無法地帯、死ぬも生きるも自分次第!来るもの拒まずがモットーですにゃ!セイバーさん、改めて冒険者の世界につようこそですにゃ。では、冒険者について説明させていただきますにゃ」