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第2章 第7話 【昔からの】

「なにしにきたのかなあ?」


 なんだか抜けている喋り方のドラゴン。でもその姿は淡く水色に、時に虹色に輝く幻想的な光彩を宿し、美しくも透明感溢れるその姿は、現実的ではなく人々の想像を超えた存在感を放つ。そして目の前に存在するだけで放たれる威圧感は生物的強者として本物だ。 


「これは失礼した。私はアルセォドワ王国中央騎士団の1団長のユーゼリア・ヴァルデン・ベルアルージュと言います。神聖なる龍種たる貴方に会いに来ました」


 団長が毅然として交渉を始める。余裕があるように振る舞っているように見えるが、あの体運びが自然と化け物級だった団長が今はドラゴンを前にして刺激しないように気を遣っている。表情とは裏腹に所作に余裕がないことに気づく。ドラゴンを目の前にすると、この団長でもこうなってしまうのか————。


「ふーん。なんだか長ったるいね。ぼくになんで会いに来たの?」


「強大な貴方がここに来たが故に、ここの生態系が崩れ、近隣の村に被害が及んでおります。こっちの都合ではあるが、どうかこの乱れを納めてはいただけないだろうか?」


「ん?ぼくがここから出ていけってこと?それともここら辺の魔物とかを全部始末しろってこと?」


「できれば、”元の場所”へ戻っていただきたと思っております」


 ドラゴンがその巨体を1歩進める。それだけで地面が揺れ、僕たちに危機感を煽らせる。


「ぼくはまだここにいたいかなあ。しかもなんで君たちにそんなこと言われないといけないんだろう。ぼくの生活だってあるんだよ?なんだか面白くないなあ。いちいちぼくの住処に突っ込んで来てたから絡んだら面白いかなあと思ったけど、なんだか面白くないなあ」


 団長が言った”元の場所”っていうのは、恐らくドラゴンが住んでいると言われている”龍の里”と言われる誰も見たことのない伝説の里のこと。普通は龍種はそこから出てこないし、出てくるとしたら何かしらの天啓をもたらす時か、邪龍化して自分を見失った時、と言われている。

 でもなんだかこのドラゴンはどっちでもなさそうなんだけど•••。ちょっと聞いてみようかな。


「ねえ。龍種って龍の里にいるんじゃないの?なんでここに君はいるの?」


 おいセイバー!と小声でなんか言ってくるゴウがいる気がする。団長は余裕のある顔を崩してないけどなんだか引き攣っているようにも見える。もう、ただの質問なんだからそんな神経質にならなくてもいいじゃない。


「うーん、あそこはなんだか偉そうなやつらが沢山いて居心地悪いし面白くないからでてきたんだよねえ」


『身勝手なやつね』『勝手な子ね〜』


 フォトゥナ様とアスクレピオス様がハモっちゃうほどの勝手さだ。


「勝手ですよね」


 おっと、心の声が出てしまった。


 瞬間、ドランゴンの目が見開かれる。団長はいつもの余裕がある顔ではなくとんでもない真顔になる。ゴウはごくりと固唾を飲む。騎士団全体に————緊張感が走る。


 ご、ごめんみんな•••。


 ドラゴンが気を害して襲いかかってくると思ったその時、ドラゴンの大爆笑が響く。


「アッハッハッハッハッハ!!君面白いねえ。みんなぼくを刺激しないようにしてるのに、よくそんなこと言えたねえ。ぽろっと漏れただけかもしれないけど、なかなか面白いよお。あっはっはっはっは」


 どうやらドラゴンは喜んでくれたらしい。うん、結果オーライってことにしよう!


 団長、ゴウ含め騎士団がほっとひと息つく。

 

 空気もなんだか和んできた。これならお願い事も聞いてもらえるんじゃないか、団長がそう言った空気を感じ取ったのか、余裕の表情を取り戻しドラゴンの前に出る。


「では、私の提案について考えてくれますか?」


 気持ちよく笑っていたドラゴンがぴたっ、と止まる。


「あのねえ、気持ちよくなってる時になんでそんな横槍刺すの?人間って本当になんでそんなに傲慢なんだろうねえ。はあ、なんだかイライラしてきたなあ。本当に、久しぶりに面白かったのに。なんだか嫌になってきちゃった。もういいや」


 ドラゴンが姿勢を正す。ドラゴンからの圧倒的なプレッシャーが重くのしかかる。絶対的強者の有無を言わさせない圧力がこの場を支配する。明らかな殺意、ドラゴンの魔力の高鳴り————攻撃が来る。


「這いつくばりなよ」


 ドラゴンの魔力の発現、僕以外の騎士団全員が地面に這いつくばる。団長やゴウは膝をついてなんとか踏ん張っているといった状況だ。

 僕はなんだか少し気分が悪いくらいだけど、これは————デバフか。


『へえ、この子すごい上手い魔法使うわね〜。異なる弱体魔法を何重にも用いてとても複雑な魔法なはずなのに、反発することなく滑らかに発現できているわね〜。さすがドラゴンと言ったところね〜』


 アスクレピオス様、感心してるところ悪いですけどまずいですね。状態異常は回復になります。しかも今の状況で1人1人に触れる余裕はなさそうです。さらにこのデバフは身体的疲労感まで蓄積させていますね•••。


 疲れは回復できないんですよね?


『そうよ。それは乗り越えなければならない神からの試練だもの。へえ〜•••そう言ったことも加味された弱体魔法ね〜•••よくお勉強できてるじゃない』


 うまいこと裏をかかれている。ちょっと気に食わないのかアスクレピオス様からもプレッシャーが滲み出る。ちょ、ちょっと!ドラゴンよりも神様の方が怖いから落ち着いてください!


『ねえアスクレピオス、セイバーが怖がってるわよ』


『あらら、ふふふ。ごめんなさいねえ〜。ついつい出ちゃった〜。怯える可愛いセイバーちゃん可愛い〜』


『変なこと言うなー!』


 なんだかドラゴンの緊張感がなくなってきたぞ。


「あっれれえ?君なんでぼくの魔法にかかってるのにそんなに平気なの?あはっ、本当に君面白いねえ。どんな『スキル』もってるのかなあ」


 ドラゴンの神秘的な目が細長く、心底面白がるように笑う。まるでいいおもちゃを見つけたか子供のような顔だ。


『セイバーちゃんは残念ながらおもちゃじゃないのよね〜。セイバーちゃん、わかるわよね?私の加護は回復、強化だけじゃないって〜』


 アスクレピオス様の加護、『治癒の女神の加護』は全ての状態異常に関与できる加護だ。治癒とは状態異常に精通していなくては扱えない。裏返せば、治癒に精通しているということは異常にも精通していること。『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 いやー思い出すなあ。加護を受け取る際の試練でみっちり治癒についてありえないほど勉強したし、さらに体験しないとわからないって言われてアスクレピオス様にとんでもないくらい状態異常を食らったなあ。加護を受け取れるか、その間に死ぬか、それがこの加護を受け取る際の試練だった。うむ、あれは地獄だった。ていうか神様の試練はどれも地獄だった。だから神様のプレッシャーを感じると怖いんだよね•••。

 まあでも、だからこそぼかあ生半可なデバフは効かんぞ。


『さすが私が直々に仕込んだセイバーちゃん!さあわからせてあげなさい〜!』


 ドラゴンよ、神様仕込みのデバフを見せてやろう。


「僕のスキルはね、『なし』だよ」


「あっはっはっはっは!!スキルなしでなんで立ってられるんだよ!!本当に君は面白いねえ!!」


「残念だけど、今の状況は僕からしたらあまり面白くないかな。だから————()()()()()()()()()()


 僕は片手をドラゴンへ向ける。それはデバフの座標の具体化。デバフをかけるドラゴンの座標を視認。


 さあ、沈め。


「ぐ!?!?えええ!!?!?」


 ドラゴンの巨体が地面に勢い良く沈み込む。その勢いは、転けた衝撃で僕たちの地面が軽い地震を起こすくらいの勢いの良さだ。


 ドラゴンが体を立て直そうとするが上手くいかず、よろけて転けてはを繰り返す。


「こ、このぼくが弱体化された!?!?ぼくに何をしたんだあ!!」


 何をしたかと言われると、それはそれは『加重化』、『精神錯乱』、『目眩化』、『疲労化』などなど様々なデバフをたっくさんかけさせていただきました。


 ドラゴンがのたうち回っている間に、騎士団の人たちが回復してくる。


「ゴウ、大丈夫?」


「あ、ああ•••。セイバー、お前本当に何もんだよ」


 ゴウは息を切らしながら立ち上がる。

 何もんか、か。それは決まってるじゃないか。


「ゴウが1番知ってるじゃない。僕はね、”英雄”だよ」

 

 あの時のように、根拠のない自信で言ってきた、無邪気な子供のように、ゴウに告げる。

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