第1章 第2話 【女神の加護】
僕の親はいつも遅くまで働いて帰ってくる。
親にスキルの鑑定結果を言うと、何も言わずに抱きしめてくれた。
そのことで、僕はどうしようない結果であったことを理解し始めた。
スキル『なし』
このスキルの世界で問答無用のゴミだ。
僕はしばらく、まともに食事が喉を通らなかった。
僕はしばらく、誰とも喋りたくなかった。
僕はずっと家にこもっていた。
そんな中でも、世の中は動いていく。
どうやらこの村のスキルの逸材たちの報告が中央都市に行ったのか、スカウトの団体がたくさん村に来た。
これは、よくあることだ。
このスキル授与式で有望な人材が判明すると、その人材を欲する団体がその地域にこぞって押し寄せる。
聞く話では、ゴウは中央騎士団にスカウトされたようだ。
ゴウは僕の家に何回か来てくれた。
でも、僕は誰とも話したくなかった。というより、どう喋ればいいかわからなかった。僕の存在時代がわからなくなっていたから。どんな言葉を紡いで、どんな顔をすればいいか、自分が何者か、全くわからず、どうすればいいか、わからなくなっていた。
ゴウには会わなかった。会えなかった。
ゴウが中央騎士団にスカウトされたとき、ゴウは騎士団とこの村を出ていった。
その時に、僕の家に寄った。
僕はもちろん応答しなかった。
でもゴウは、家に向かった捨て台詞を叫んだ。
「おい!燻ってんじゃねーぞ!!俺は先に中央で待ってるからな!!!」
ゴウ、君はきっと英雄になれるよ。無事にいくように祈ってるよ。
その間、ヴィクトリアは来なかった。
ヴィクトリアも有名な冒険者パーティに誘われたらしい。それこそランクがもうすぐ”ゴッド”に届く様な今をときめくパーティに。
ヴィクトリアが来たのは、冒険者パーティにスカウトされて村を出る時の1回だった。
「わたしは、セイバーの隣にはふさわしくなかった。わたしは世界を見てくるね」
扉越しに言われた言葉。
どうやら僕は、愛しのヴィクトリアに捨てられたらしい。そう•••だよね。スキル『なし』の隣になんて、いたくないよね。
僕はもう、何も考えたくなかった。
▽
それからはスキル授与式の後の祭りも落ち着き、スカウトもなくなり、村から出ていったもの、村に残ったものと、日常が戻ってきた。
僕はと言うと、あれからずっと引き篭もりっぱなしになった。
▽
▽
そこから家にずっと引き篭もって2年ほど経った頃だろうか。
次々に他の子供達の『スキル』が判明して、もうスキル『なし』のレッテルが風化した時、僕もどうでも良くなってなんと無しに外に出た。
僕のことは忘れさられていたのか、はたまた、覚えているやつがこの村からいなくなったのか。僕が歩いても誰も何も言ってこなかった。なんてことはない、日常が村には流れていた。
僕はどこにいく宛てもなく、村から出て少し周りを彷徨った。
行き着いた先は、村の近くにある、昔昔、その昔に発見された『ダンジョン』だ。
ただし、このダンジョンは入り組んでるわけでもなく、階層に分かれているわけでもなく、ただの地上にあるだけの、開放型の、なにもうまみもない、枯れた『ダンジョン』。
最初は『ダンジョン』と言うことでこの村は昔賑わいを見せていたこともあったらしい。でも、ここが何もないとわかったとき、もう誰にも見向きされなくなった。
僕に、似てる。
同じ境遇と感じたからか、無意識のうちにここに辿り着いたのか、今の僕の居場所にふさわしいと思ってしまう。
この”枯れたダンジョン”は開放型のダンジョン。自然のままに開放されており、そのまま入り、空の下を歩いて進んでいく。そして、”枯れたダンジョン”の名の通り、何もなく、最深部にすぐに辿り着ける。
そこには、何かがあったであろう祭壇がある。大体はその下に魔道具が眠っていたり、それを守るダンジョンの最深部の主がいたりするが、ここは最初からなにも無かったらしい。それでも発掘しようとここにきたものたちが周りを荒らした形跡があり、今もそのままだ。
荒れ果てた場所に、廃れた祭壇があるのみ。
でも、その何もない、荒れ果てた中で佇む祭壇が、なぜだか美しく見えた。
そうだな。『スキル』もなにもない僕ができることは祈るだけだ。
そう、自然に思えた。長らく腐っていた僕だったけど、何も考えれず、行動できなかった僕だけど、どうやらみんなのためになる英雄になると言った志まで腐ったわけじゃなかったようだ。
そう思うと自然と笑っていた自分がいた。
そうだなやる事はやろう。どうやら僕は諦めが悪いたちでもある様だ。ゴウやヴィクトリアや他の活躍してるであろう人たちの分も、今まで腐っていた分うんと祈ろう。
それから僕は毎日1日中、祭壇まできて祈り続けた。
▽
▽
▽
祭壇に祈り続けて、3年が経った。今日も今日とて、僕は祭壇に祈りにいく。
僕も15歳になった。この世の中では高等教育機関に進む年齢だけど、それは『スキル』を持った人達だけだ。教育機関は教会や各々のギルドやランクの高い冒険者パーティが運営しており、そのほとんどが将来の人材投資のために教育を施している。すでに実力が伴っている人材は教育機関にはらずそのまま現役で働いている人たちもいる。
『スキル』がない僕は、教育機関に居場所がない。そして現場で働く能力もないために働く居場所もない。考えていて我ながら悲しくなった。まあつまり、今も昔もその分、その人たちのためにも祭壇に祈り続けるのが僕の役目だ。
ちなみに18歳になると成人になる。あと3年で僕は成人になるようだけど、どうなるのだろうか?このまま祈り続ける仙人になるのだろうか?
そんなことを考えていると、祭壇に到着した。
さて、今日も祈るとしようか。
(みんなの躍進と無事と、そしてこの世の中の平和を————)
『あなたよくも飽きずに祈れるわね』
ん?
僕は周りを見渡してみる。
僕の周りには誰もいない。
はて?なんか声が聞こえた気がするけど•••気のせいか。
『気のせいじゃないわよ。あんたに声かけてんの』
んん!?
ばッと周りを再度見渡す。しかし、僕の周りには誰もいない。
え?声が本当に聞こえたぞ。今さっきのは間違いない。間違いないけど、もしかしてずっと1人で祈り続けてたから遂に頭がおかしくなってしまったのか?
『祈りの行為がまるでおかしいみたいな言い方で不敬ね。いやでも、まあおかしくなってしまったのかもね』
ずっと声が聞こえてくる。これは何?幻聴?
『この女神の私に目をつけられたのだからね』
女神•••?
『1日中3年間なんて普通じゃ無理だわ。常軌を逸しているもの。しかも、ちゃんと体も鍛えていたようね。その鍛え方も生半可な鍛え方じゃない』
意味、ないけどね。体を鍛えてもそれを活かせる『スキル』がないから。でも、何かのために、何かあったらのときのために、みんなの盾になれるくらいには鍛えておかないとって思ってただけだ。ってなんで幻聴と喋っているんだ僕?
『ふふ。私はあなたのその諦めない心、そしてそのみんなを慈しむ信念に惚れたわ。だから私はあなたに問います。あなたはどうなりたいの?』
どうなりたい?僕の幻聴はついに僕自身にも問いを投げかけてきたか•••。女神か何か知らないけど、僕の作り出した幻聴かもしれないけど、その問いの答えはいつも決まっているよ。
「僕は、みんなの英雄になりたい」
『変わらないのね。やっぱり、一直線なあなたのこと好きだわ。だからあげる、私の『加護』を』
「!?」
瞬間、何かに包み込まれる感覚、そして僕に力が、流れてくる————これは、この、力は、幻なんかじゃない•••!!!
「なん、だ、これ」
『私は幸運の女神フォトゥナ。さあセイバー、世界に羽ばたきなさい』