第1章 【ロイの思い】
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「はああああ、たくよ、あと何部屋続くんだ?」
周りに散らかる魔物たち。
あれからキラーラピッドの群れレベル、またはそれよりも少し下のランクの難易度の部屋が連続した。だが、その全てがモンスターの群れだった。強さ自体は強くないが、単純に体力がどんどんと吸い取られていく。群れの対処ってのは思った以上に厄介なんだよな•••他勢に無礼ではないが、パーティで効率よく、というよりかは数の多さから時に連携を崩して、個々でも対処しなければならないからだ。しかも、この時に誰かが乱れると連携自体も連動して乱れ、パーティとしての機能が戻れなくなってしまう。まあ疲れるし、何よりも気を使う。
「10部屋はやったよな•••」「さすがに、これは•••」「体力もやばい•••」
しかもこんだけやれば傷も貰う。
そう、だな。なんぼ無茶して攻略しようと思っても無理をするのは駄目だ。ここら辺でそろそろ区切りをつけよう。
「さすがに、次で最後にするか」
あー、しゃーねえ。命がなきゃあできるもんもできねえ。
扉に手をかける。
足を踏み入れた先は、草原だった。背が高い草木が生える草原。
魔物がいる気配は、今のところない。
用心深く、慎重に探索をしてみる。
すると、最深部を示す祭壇が現れる。
「こいつは•••」
「やった、のか•••?」「最深部だ」「たどり着いたぞ•••」
祭壇に近づいていく。近づくにつれ、その祭壇の近くに人がいることに気づく。おいおい、ありがてえじゃねえかよ。今の状態でボス戦は不安があった•••って待てよ。
なんでここに『無能』がいるんだ。
「お前、どうやってここにきたんだよ•••」
しかもほんとんど傷らしき負傷もねえ。しかもなんだ?明らかに気配がねえ。マジックアイテムかなんかか?はあー、なるほどね。それで隠れてきたってことか。どうやって手に入れたかは知らねえけど、能力には恵まれなかったがアイテムには多少運があったってわけね。しょーもねえ。
「どうやってって、もうそれは壮絶な道のりできたよ」
壮絶な道のりねえ。
「そっちはどうやってきたの?」
「こっちだって壮絶だったぜ?何部屋もあってよ、戻れる扉と進める扉があってずっと進んできたんだよ」
「え、そっちは戻れる扉があったの?僕のところ進む扉しかなかったよ」
何言ってんだこいつ?なんだよ、進むだけでいい近道みたいなラッキールームに当たったのかよ。おいおい、ビギナーズラックってわけ?はあ、これまたしょーもないなあ。
「はあ?じゃあ相当簡単な道のりだったんだな。じゃねえとボス部屋に無能のお前が辿り着けるなんてないもんな」
本当に、俺たちの今の状況は疲労困憊に近い。この無能のせいで今は力入れれてるが、正直俺も座って休みたいくらいだ。チッ、なんだかこいつのおかげで踏ん張れてるみたいで腹立つな。
「ねえ、どこかで休憩した方がいいんじゃない?僕がいうのもなんだけど、みんなすごい疲れているように見えるよ?」
それを見透かされてか、無能に心配される始末。
「はっ、本当にお前がいうのもなんだな。お前は昨日今日冒険者になったようなやつだから知らないと思うけど、ダンジョン攻略ってのはこういうもんなんだよ。びびってんなら隅っこで縮こまっときな」
んなことはわかってんだよ。休めるなら休みてえよ。
「ねえ、本当に無理は•••」
「うるせえ!!俺たちは休みにここに来たんじゃねえ。ダンジョン攻略しに来てんだよ!!しかも、敵も待ってくれやしないぜ!!!」
休もうと思ったけどな!今までない敵の気配が、殺気が、びっしりこっちに向かってきてんだよ!!
あー、うぜえ。疲れてるし、休みてえし、パーティも状態は良くねえし。でもな、セイバーの前で退くことも負けることもしたくねえッ!!
俺はナイフを両手に構える。
構えることしかできないほどのスピード。
相手が現れた瞬間、攻撃が飛んでくる。ただ、わかればそんなもんは防げる!
耳を劈くような金属音が響き渡る。
俺が防いだのは剣による攻撃。そんでそんなことをヤッてきた目の前のやつは、手が反り曲がった剣の形をした俺たちの倍ぐらい大きなイタチのような魔物。
カマイタチ、にしてはでかいしその手はやっぱり、鎌というより剣だな。カマイタチのダンジョンボスバージョンってとこか。
イタチの攻撃は止まらない。風が吹くように次に次に剣撃が飛んでくる。
ハッ!!どんだけ飛ばそうが俺の『刃物使い』止まることはねえ!!相手の剣撃を対象として切り抜く。スキルとサブスキルの恩恵で遅れを取ることはねえ!!
「おい!!」「任せろ!!」
1言で通じる。パーティメンバーが俺を援護してくれる。
「無能はそこでつったっとけ!!こいつは、俺たちがやる!!」
パーティのやつらだって限界だ。でもな、こうなったらやるしかねえ。そんで、やるしかねえって時のこいつらほど心強えもんはねえ!!
俺たちの目に光が宿る。今にも倒れそうな体に鞭を打って立ち上がる。
ここからは技術とか連携とかじゃねえ、ぶっ倒すぞっていう気合いだ。
「すごい•••」
セイバーの漏らした声が聞こえてくる。
ハッ、今の無能に褒められても嬉しくねえが、ただ、ちょっとやる気は上がってくるなあ!!
負けねえ。俺たちが、負けるわけがねえッ!!
イタチの攻撃を受け流しつつ、懐にどんどん侵入していく。
パーティの1人の捕縛系のスキルで高い草木たちがイタチに絡みつき、その機動性が落ちていく。
んな隙見せてもいいのかあ?イタチさんよお!!
「オラァッ!!!」
俺のナイフがイタチを刻みまくる。
他のメンバーもどんどんと痛手を与えていく。
「ハァ、ハァッ!」
あんだけ暴れまくっていたイタチは俺たちの傷により動けなくなり、遂に地面に伏した。
「これで、締めえだ•••」
最後のトドメを刺す。
あれだけ粋の良かったイタチがピクリとも動かなくなる。
それはこのダンジョンボスを攻略したことに他ならない。
「ハァ、ハァ、ハァ•••。みたかよ、これが、ダンジョン攻略だ。お前には無理だ•••。死ぬ前に手を引け」
やべえ、流石に限界だ。もう最後なんてどうやって戦ってたのかも覚えていねえ•••。他のパーティの奴らも地面に倒れ込んでやがるな•••。
でも、俺までここで倒れ込んでたらかっこつかねえ。
深呼吸して息を整える。
俺は休む暇もなく倒したイタチの元に行く。
「今回の攻略アイテムは祭壇のアイテムじゃないな。ドロップアイテムだ。このイタチと、このイタチの剣だな。この、剣は、俺のものだ」
イタチの手元から分離されている反った剣。
俺はナイフをしまい、その剣を手にする。
本当は、これはお前の役目なんだぞセイバー。お前が俺たちの前に立ってどんどん攻略していくんじゃねかったのかよ。なに無様に俺の後ろでアホヅラしてんだ。
戦闘後ハイなのか、なんだかイラつきが止まんねえ。
「俺はな。お前のことが嫌いだったよ。英雄気取って当たり前のようにいっつもみんなの前に出ていくお前がよ。正直、スキル授与式の時のお前の『なし』の宣告、ざまあみろと思ったよ」
言葉が思い浮かんだまま喋りやがる。ああ、本当に英雄気取りの大アホ野郎だよ。俺たちに夢を見さしてよ。んでスキル『なし』だあ?舐めるのも大概にしろや。
「なのに諦めもせずに冒険者なんかなりやがってよ!お前に何ができるんだよ!無様な姿をこれ以上見せるんじゃねえよ!!」
ほんとに、お前は俺たちの目の前に現れるんじゃねえ!!
お前は、お前は、お前はなあ!
「お前は、前みたいに、部屋にでももも、こもっていればああああいいいいんだ、よおおおおおお」
イラつきが、悲しみが、憎しみが、もはやどれがどれかわらかないほどに入れ交じり混ざり合う。それは負の感情の塊となり、俺を飲み込む。
自分が、自分じゃねえみたいだ。
いや、もはやこれは自分じゃねえ。
「くくくく、くかかかかか!!負のエネルギーはやはり実に甘美!!」
そっから先は自分の負の感情のままに、俺の意思とは関係なく体が動いていた。
この破滅的で破壊的な感情はなんだ?そして、喋っている俺はだれだ?
「この悪魔”切り裂きジャック”に相応しい能力だなあ。まだ完全に適合したわけではないが、どれそこの倒れている忌まわしき神のスキル持ち共を試し切りしてみるか」
悪、魔だと。いつもなら御伽話だと笑うだろう。でも体が乗っ取られていること、どんどんと負の感情に侵食され自分が無くなっていく状況は悪魔という人智を超えた仕業としか考えられない。
「くかかかか!不安、恐怖、拒絶、絶望!!心地よい、心地よいぞおお!!」
高笑う俺の俺じゃない声が、空虚な廃墟に響き渡る。
パーティのやつらが俺を化け物のような目で見てくる。
「さあ貴様ら、いい声でもっと奏でてくれよ?」
倒れているパーティメンバーの喉元にその剣を切り付けようとする俺。
俺は、俺はこんなのになりたかったわけじゃない!
何やってんだよ!!止まれ!!止まれよおい!!俺の体だろ!!止まれ、止まってくれよおおおおおお
俺の感情など無視した快楽的で感情的で殺人的な剣がその喉に到達せんとする————
ごめん、みんな••••。
その時、俺の体に衝撃が走りいつのまにか吹き飛ばされた。
「!?」
目の前にいるのはあの『無能』。今まで虫ケラ以下としかみていないこいつのありえないことに、一同が驚愕し、時が止まる。
「貴様、スキル『なし』のはずだ•••何者だ?」
「僕は逆境になっても、そこに絶望があっても、それをひっくり返すために鍛えてきた•••お前みたいな、悪を倒す者だ!」
瞬間、セイバーから発せられるプレッシャー。なん、だこれ•••。乗っ取られて押し込まれている俺の精神にまで響いてきやがる•••。お前、セイバー•••
「闘気!?現代に使えるやつなどいないはずだ!!貴様本当に人間か!?いいや、違うな。匂う、匂うぞ!!忌々しい神の講釈垂れな気品を履き違えた臭い香りが!!貴様、神の使徒か!?」
闘気?神の使徒?何言ってるがわかんねえが、セイバーが尋常じゃないことはわかる。セイバー、お前は一体•••。
「悪魔よ、その体の中を見れるなら知っているはずだ•••僕は、英雄だ!!」
セイバー•••お前は•••。
セイバーのプレッシャーがさらに段違いに強くなる。
セイバーが目の前から消えたと思うと、一瞬で俺の懐に入り込まれている。
な、こいつ、早すぎる。目に追えねえ!
しかし、俺の体を乗っ取ってる悪魔もすげえのか、反応して迎撃する。
そこから悪魔の剣撃、セイバーの打撃とお互いの攻め合いが続く。
なんだよ、この戦い。
まじで、見えない。反応できない。理解できない。
セイバーが俺が持った剣を破壊しようとしているのか、剣ばかりを狙ってくるが、悪魔もそれを防ぐ。
埒が開かないのか俺の体自体を気絶させようと俺の体に打撃を打ちまくる————まじで、痛え!!意識がぶっ飛ぶほど痛え!!でも、それを許さないように俺の体は悪魔に強化されているのか、体の方はなんともねえ。じ、地獄だ•••。
俺の意識がおかしくなりそうなほどの攻撃の応酬が続いた時、ガクッとセイバーの力が抜けそうになる。セイバーは隙を見せずに後ろに下がり距離を取る。
な、なんだ?
「くかかかか。どうだ苦しいか?体の自由が奪われてきただろう?くかかかか、この”切り裂きジャック”に切られたものは痺れ、毒、眩暈、ありとあらゆる状態異常が付与されるのよ。くかかかか、狼狽えろ狼狽えろ。その生まれたての子鹿のようになっていく無力で無様な姿を切り刻んでいくのが私は好きでなあ!貴様が何者か知らんが神とて私の状態異常には抗えん!!」
まさに悪魔•••そんな能力ありかよ•••。
明らかにセイバーの調子は悪そうだ。セイバー負けるのか?
誰しもがセイバーが弱っていく姿を想像した。
誰しもが悪魔に支配される未来を想像した。
でも、瞬きをしたとき、もうセイバーは俺が持つ剣を握りしめていた。
「な!?」
「とったぞ悪魔」
わからなかった。たぶん悪魔ですらわからなかった。絶望はしていた。でも、油断はしていなかった。
本当に何が起きたかわからなかった。気づいた時にセイバーは剣を折る射程圏内に侵入していた————!!
「な、なぜだ!なぜそんなに、先ほどよりも速く動ける!?」
「気合いだ」
「気合いイ!?そんな精神論で崩される私の能力ではないわ!!」
俺が持つ剣はびくともしない。なんて膂力だ。ここまでなのか、セイバー。ここまでお前は、強いのか————。
「お前はさっきのこの人のダンジョン攻略を見ていなかったのか?」
セイバーが剣を持つ力が、さらに強くなる。
「あんな闘いを見せられて状態異常くらいで根を上げてたら、冒険者なんてなれない、ダンジョン攻略なんてできない!」
セイバー、お前、お前、
「クソ!!離せ!!」
「いや、離さない!!ここでお前は終わりだ悪魔!!!」
やれ!頑張れ!!俺たちの”英雄”!!!
「ここに悪の居場所はない!!残念ながら消えて貰う!!!」
セイバーは剣身を両手で思いっきり掴み、剣の真ん中を膝で打ち抜く————その悪魔が宿っていた剣身が、セイバーによって真ん中から真っ2つに破壊される。
「クソがアアアアアああ!!!」
俺を包む負の感情が無くなる。俺を押さえ込んでいた圧迫から解放されていく————俺の体が戻る感覚、でも、人智を超えた使い方をされていたせいか、体は1つも動かない。
俺はその場に倒れ込んだ。




