第1章 【ロイの気持ち】
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俺が生まれたのはなんの変哲もない村だった。でも、そのなんの変哲もない村は、俺たちのスキル授与式の後から”豊作の村”と呼ばれ始める。
だから、そのとき、俺はあいつも英雄になるスキルを授かるんだと思ってた。でも結果はスキル『なし』。
とんでもなく落胆したぜ。そんで、その事実を拒否するように、授与式の時にあいつを否定したな。悪いとは思わねえ。なんせ、それまであいつは自分が”英雄”だと疑わず、俺たちに夢を見せたから。あいつは、子供ながらの根拠のない自信だったけど、でもそれを感じさせてくれる度胸と力と知恵、カリスマがあった。みんなお前に夢を見てたぜ、セイバー。でも、お前は結局なれなかった。スキル『なし』の無能じゃあどうにもならない。俺たちは裏切られたよ。勝手に夢見て裏切られたって思うかもしれねえが、それほどまでにあいつは俺たちに夢を見させた。そして、その夢ごともっていく気概もあった。
授与式からしばらくして、色んなやつらが村に来たな。上位冒険者パーティに中央騎士団に、本当に色々来たな。俺のところにもなんぼか冒険者パーティが来たけど、上からモノを言ってくる誰かとつるむ気にもなれず結局1人で駆け出した。その時にはスキル『なし』の無能のことなんて、いつのまにか記憶の端に追いやられてたっけ。
それから仲間にしたいやつが何人かいて、いつの間にかパーティになっていて、そん時に無能のことを思い出した。そういえばそんな笑える愚か者がいたなって。その度にセイバーのことを無能といじって笑いをとっていたな。しょうがねえ、笑い話にしなきゃ俺の崩された夢が報われねー。
パーティも板についてきて、何個か小さなダンジョンも攻略して、いよいよ大型ダンジョン攻略してみるかって時に、準備でウィンダービンに寄ったら、まさかあの無能と対面するとは思わなかった。
びっくらこいたぜ。本当に驚くと目ん玉が本当に顔から落ちそうになるんだなって思ったな。
そして、なにかスキルを持っていて俺たちにまた夢を見さしてくれるのかって思ったな。
淡い期待。
でも、やつのスキルカードは相変わらずの『なし』だった。
「は!?お前が冒険者に!?ギャハハハハ!やめとけって!お前じゃ誰とも組めないし、すぐに死んじまうぞ?まじで腹いてー」
もうこれ以上、俺たちに醜態を晒すのはやめてくれ。惨めな気持ちが一瞬で怒りへと変換される。詰らなければいらいらが収まらない。
「そうだな!村のよしみでお前の安全のためにこのスキルカードは俺が貰っておいてやるよ!感謝しろよ〜」
今思うとやり過ぎな気もするが、もうこいつのためにもスキルカードを無くして冒険者にしてやらないと本気で思っていた。
そしたらいつのまにかスキルカードが手から取られていた。普通に見えなかった。不意打ち?目の前にいるのに?別に気を抜いてなかったってわけじゃないけど、それにしても気付かずにいつの間にかカードがとられていた。
スキルにはスキル補助がある。スキルを発現するためにそれを補正するスキルの副産物だ。
俺の『刃物使い』のスキルは切り抜く動作を完了するために身体強化の補助が入る。だからこの俺が油断していたとしてもスキル『なし』の動きを見落とすなんてことは普通無い。
その事実が、不気味で仕方なかった。
「お前何したんだ?」
「僕もさっぱり」
首をかしげるセイバー。んだよそれ、まじで気味わりぃ。
やめたやめた。こんなやつに関わっても碌な事がねーわ。
俺たちは無能を後にした。
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「はあ、むしゃくしゃするぜー」
「落ち着けって」「別にお前と関わるわけじゃないんだからよ」
パーティメンバーから諭される。ウィンダービンの夜風が俺の頭を冷やしてくれる。
ふぅ•••まあ、そうだな。まずはダンジョン攻略についてだ。
「よし、大型ダンジョンの攻略はここの”石畳の都市”にするか」
本当はウィンダービンでダンジョン攻略の準備をして、他のとこの大型ダンジョンに行く予定だったけど、むしゃくしゃするからここにしよう。
「まじか」「ちゃんと頭冷やしたのかー?」「準備はどうすんだよ?」
「まあ、理由はある。ここの”石畳の都市”は長いこと攻略されてないから事前情報はざっとわかるからすぐに取り掛かれるだろ?あとは家の中に入るって言う単発単発の攻略だから休みやすい。自分たちの速度で攻略できる比較的難易度がやり易いダンジョンだ。だから用意は塩梅を見てその都度変えれるだろ?最初にガチで挑むには、改めて良いとこじゃねえかと思ってな。あとはむしゃくしゃしたからってのもある」
おい!とつっこまれる。
「まあでも確かにそうだな」「俺も何回かここにきたことあるしなあ」「馴染みやすいっちゃ馴染み易いな」
こいつらはいいやつだ。ノリが合うと言うか、一緒に何かをやってくれるという気概もある。そして長年連れ添った友達みたいな感覚だから本音でも事を話せれる。無茶な時は全力で止めてくれるし、無茶でもやらなければならない時は意図を汲み取ってついてきてくれる。我ながら良いメンバーになったなと思う。
こんな良いこいつらに諭されてもちろん落ち着きは取り戻してきたし、ウィンダービンの風で頭も少し冷えたが、やっぱりイラつくもんはイラつく。ちらっと頭の中に入ってくるんだよな、あいつが。あーうぜえ。せっかく気持ちよくこいつらとダンジョン攻略したかったのによー。まあ、とりあえずは今日は休んで明日からさっそくダンジョン攻略するか。
「そうと決まれば明日から早速開始だ。今日は休んで明日に備えようぜ」
どうせ『無能』はルーキースタート。あんな身なりで課金もできるわけがねーからダンジョン攻略にはこねえだろ。
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と、思ってたのによお。
「おいおい嘘だろ。セイバーお前ルーキー始まりだろ?まさか大金払ってダンジョン攻略きたのか!?はー、諦めないねえ」
本当に諦めがわりいなこいつは。どっからそんな金出したんだ?全財産はたいて破産して死にてえのか?って、なるほどなー。案外そうかもな。こいつはダンジョン攻略が夢だったし、それで夢のダンジョンでなら大金払って死んでも良いって魂胆なのかねえ。
「お前死ぬのは勝手だが迷惑かけんじゃねえぞ!おい、あんたらこいつはスキル『なし』のド『無能』だ!!巻き込まれないように気つけろよ!!」
本当に迷惑なやつだぜ。
俺たちは順番がくるとダンジョン内に入る。
そこには広がる石畳の都市。ダンジョンは、大小に関わらず、中に入るとやはり現実離れした世界に足を入れるようで、何度体験しても心が浮つく。
しかし、その中でも差し込まれるあいつの顔。チッ、余韻もあったもんじゃねえ。
「とりあえず適当なところに入るか」
1番近い家の中に足を踏み入れる。
そこは洞窟のようなじめっと、灯りがない薄暗い場所だった。
どう言う原理かはわからねえが家の中とは思えない光景だ。
「まったく、ダンジョンつうのはまさに神が作ったものだな。理解が追いつかねーぜ」
ま、そういうところも俺たちがダンジョンに夢をみる理由の1つだろうな。
「おい!注意しろ!」「周り囲まれてるぞ!」
薄暗い洞窟に、無数の赤い目が俺たちを囲っている。
みんなで戦闘態勢に入る。
暗さに目が慣れてくると俺たちを囲っていたダンジョンモンスターが顕になる。
「キラーラビットの群れ•••」「何体いるんだこれ?」「なんだこのレベルの部屋?こんな部屋初めて入ったぞ」
キラーラビットは1匹だけならなんも変哲のない普通のモンスターだ。やっかいなのは群れになった時。その獰猛性は獲物を骨の髄になるまで食い尽くすまで止まらないと言われている。キラーラピッドの危険度は群れになった場合、上位モンスターに格上げされるほど危険扱いされている。でも、やることは変わらねー。
俺は腰に添えている2つの短剣を引き抜き、両手に持ち構える。
「ハッ、なんでも関係ねえ。ぶっ倒すだけだ」
▽
ふぅー、と。
「終わったな」
周りにはキラーラビットの群れの残骸が散らばっている。
「難易度ばり高かったな」「でもこれだけ素材が手に入ったなら逆にラッキーなのか?」「実はレアな扉だったりしてな」
キラーラビットの使えるところを採取したりとしていると、次の扉が現れる。
なんだこれ?
「おいおい、こんな演出あったか?」「いや、ないな」「入ってきた扉も•••あるな」「戻ることもできる、ってことか?」
まさか•••。
「当たり部屋なのか?」
なら、今まで攻略されなかった理由がわかる。どれだけ続くかもわからない中で、このレベルの部屋を連戦するのは無理だ。
万全を期すならここで帰れ、と理性が訴えかけてくる。
「ここは普通に考えてもう一回準備してからだな」「さすがにこのレベルの部屋を進んでいくのは無謀だね」「部屋の内容はリセットされるが、これがわかっただけでもいいだろう」
ああ、そう考えるのが当たり前だ。油断したやつから死ぬ。ダンジョンはそうだ。
でも、またチラつきはじめるんだ。あの”無能”が。そんでもって、うざくもあの根拠のない自信を纏って人を導いていっていた過去のあいつの姿が奮い立たせやがるッ!!
「いや、このまま行くぞ」
「は!?」「正気か?」「流石にそれは無茶じゃない?」「今は戻る扉がでてるけど、次は無いかもしれないぜ?」
「なんでそんな気持ちになってるんだ?」
リーダーが、俺の様子から察してくれたのか、改めて聞き直してくれる。
「やらなきゃならねえと思ったからだ」
夢を見せた英雄の幻影。だが現実をみせてやらねえといけねえ。力がねえなら前に出てくるな。あいつに夢見たみんなが、惨めになる。
攻略して、あいつに引導を渡してやらなければならねえ。
「そうだな•••まあなんでそう思ったのかは別として、大型ダンジョンをパーティ単体でクリアするならいつかは無理をしないといけない。大型ダンジョンとはそういうものだしな。だったら、最初が肝心なのは肝心だ」
「まあそうだな」「いつかはやらなきゃいけねーときってやつか」「それが今だったってことって言われればそうかもな」
「よし。じゃあ、ロイの言うこと聞くかー」
俺が断固として譲らない意思を感じたのか、リーダーは汲み取ってくれた。他のみんなもなんやかんや前向きだ。本当に、いいパーティだな。
でも俺だって別にみんなで死にてえわけじゃねえ。無茶だけど、このパーティなら無理じゃねえと思ったから言ってるだけだ。目指すはゴッドランク、こんなとこでいちいち躓いてられないのも事実だ。
俺たちは次の扉に手をかけ、次へ進んだ。




