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第1章 第12話 【英雄】

 僕は村の子に駆け寄る。


 息は、ある。


「ねえ、大丈夫?」


 僕は肩を叩きながら村の子に、意思が通るかどうか確認する。


「ぼこぼこに、しやがってよ•••体中がいてぇよ•••」


 よかった。意識も充分にある。ちくちく口撃も言えてるし、たぶん大丈夫だ。


「セイバー•••お前、おせぇよ•••待ちくたびれたぜ•••」


 助けに来るのが?と言いたかったけど、どうやらそういう事では無さそうだ。疲れた中、意識が飛ぶ前に言いたいことを言いたいという雰囲気だ。

 僕は黙って聞く。


「俺はな•••いや、俺だけじゃない、村のみんな、お前に憧れてたんだぜ•••あほみたいにみんなの前に出て行って、諦めもわるくて、でも自信はなぜかあってよ•••それが漢臭くて、そこが好きだった•••お前みたいな、こと、みんなしてたよ•••」


 村の子は目を瞑って息を整える。


「はあ•••セイバー、お前充分強いじゃねえかよ。後で今回のことどういうことか教えろよ。本当に、待ちくたびれたぜ•••おかえり、()()さんよ」


 その後、すーすーと寝息を立てて意識を失った。


「そいつ、お前さんのことを無能無能って馬鹿にしてたけど、本当は俺たちでもわかるくらい意識してたぜ」


「昔はこうでこうでこうだった!みたいた感じでよ、すげえ覚えてんの。嫌いではねえだろ、って感じだったな」


「今日のダンジョン攻略だって、いつも通り探索して終わりのはずだったんだぜ?なのにお前が来たのを見てから連戦部屋とわかったら無理してまで最後まで進むとか言ってよ」


「お前のスキルのこと馬鹿にしたのは申し訳なかったがよ、おかげでこっちは体力の限界とっくに超えてたっつーの」


 村の子のパーティメンバーも疲れで起き上がれない中、喋ってくれる。


 僕はこの人に嫌われているのだと思ってた。

 でもそれは、嫌悪ではなく、失望だったのかもしれない。あんだけ英雄になる英雄になるって言ってた僕、なのにスキル『なし』を宣告されて•••落胆したんだろう、な。この子が求めてた僕にはならなかったから•••今までの感情の行き場がないなら、蔑むしか無かったのだろうか。

 なら、そんなものも含めてこれからみんなの前に立っていこう。そう、あの子供のときの、根拠がない自信だけでみんなの前に立っていた、あの時みたいに。そのために、僕は強くなったんだ。


 ガクッと不意に膝をつく。


 あれ?


『ちょっと!セイバーあなた悪魔の状態異常くらってるんだから!』


『セイバー氏、ちょっとまずい状況ですぞ!』


 そうだった!そういえば悪魔の状態異常を付与されてたんだった!

 や、やばいぞ、目の前がぐるぐる回ってきた•••みんなの前に立つ前にみんなの頭上に行っちゃうかも。


『何アホなこと言ってるのよ!』


 これ、ちょっと、ささすがに『治癒の女神の加護』を受けさせていただきますね•••!


『セイバーの浮気者!っていつもなら言いたいところだけど、そんなこと言ってられる場合じゃないわね!』


()()のこともありますが、本当にそんなこと言ってられる場合じゃないですな!』


 僕は手を組んで祈る。


 お願いします。手を貸してください••••治癒の女神”アスクレピオス”様。


 瞬間、僕の体が優しく包み込まれるような感覚が覆う。


『やっと出られて来れたわ〜。ずっとセイバーちゃんに会いたかったの〜。久しぶりねセイバーちゃん、もう、顔つきがもっと男らしくなって〜。もっと私好みになったわねっ』


 おっとりと話すアスクレピオス様。


『出たわね天然キャラを装った策略女神め。いいから早くセイバーを治しなさい!』


『セイバー殿が死ぬでござる!』


 2人とも僕のために必死になってくれる。うう、その気持ちが状態異常の体に染みるよお。


『あら、何を言ってるのかしら〜?()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 おや?


 確かに今さっきまでの目眩や動きにくさや死ぬような感覚は無くなってますね。


 僕は立ち上がり、体の不調を確かめる。

 うん、なんにも問題なさそうだ。さすがアスクレピオス様です!


『当然のことよ〜』


 『治癒の女神の加護』、それは死ぬ以外の病、状態異常を治す加護だ。さらにはこの加護を授かっているとき、他者にもこの力を使えることができる。


『まあやろうと思えば死者をも生き返らせれるけど、それは世界の理に反するからね〜。世界自体が崩壊する恐れがあるからやらないことがおすすめね〜』


 神様たちはやはり、規格外だ。


 僕もぴんぴんしているし、この加護がある時にみんなを治しておこう。


 この力を他者に使う時の制限は、他者に触れなければならないことだ。慈しみ、温もりを感じてこそ、人を治すことに繋がる、と言うやつだね。


『さすがセイバーちゃんっ。よくわかってるわね〜。人を治すことは愛に他ならないってわけ〜』

 

 僕はみんなのところに歩いていく。

 

 1人ずつ手を握り、肩に手を置き、この人の頑張りを敬い、無事を祈る。


 すると、今負っている傷が全て癒える。


「『完全回復(パーフェクトヒール)』•••」「あんた本当にスキル『なし』なのか?」「本当に、いったい何もんなんだよ」


 僕はとりあえず笑って誤魔化す。だって説明が長くなるし、神様に加護を貰ってます!っていっても証明するものがないために気が狂ったと思われるかもしれないし。なのでとりあえず笑って誤魔化す。

 

 最後に、村の子を治す。

 今さっきまで苦しそうな寝息を立てていたが、治してからは規則正しい心地よい寝息になった。

  

 これで、いいかな。


 ただ、この治癒は疲れまでは治せれない。だから冒険者の人たちもぐったりなのは変わっていない。


『疲れまで治すと人は成長しないからね〜。疲れるとは壁にあたること、そしてそれを超えるか超えないかは人次第。疲れると言うのは生きると言うことね〜。女神の試練と思ってください〜』


 ってことらしい。


『その喋り方やめなさいよ。あんたそんな喋り方じゃないでしょ』


『はえ〜?私はもともとこんな喋り方ですよ〜?』


『嘘つきなさい!セイバーに媚び諂ってるのが見え見えよ!鼻につくわっ』


『うぅ〜酷いですぅ。セイバーちゃん助けて〜』


 アスクレピオス様は僕と会った時からこんな喋り方だったような気がしますよ?


『違うのよ!騙されないの!もう、本当に男はこう言うのに弱いんだから!』


『まあまあいいではないでござるか。セイバー氏の制約でなかなか他の神の加護はなかなか降ろせれないのですから。みんなセイバー氏のことが好きなんですからこの時くらい良いではないでござるか』


 むぅ。と膨れるフォトゥナ様。みんな可愛いなあ。僕もそんなみんなのことが好きですよ。


『あら〜』『もう!神を誑かさないの!』


『といいつつ溜飲は落ち着いたでござるな。さすがセイバー氏、神の扱いももうお手のものでござるな!』


 はっはっはと笑う武神様。そう言うわけでもないけど、本当のことを言っただけなんですけどね。


 それにしても僕の制約•••それは神様の加護を2つまでしか受けれないようにしていることだ。僕はまだまだ体としては今の神様全ての加護を受け入れる器ではない。だから2つまでに制限してその器を広げている最中なのだ。まだまだ、僕は修行中の身だ。


 今常に受けている加護は、1つ目は最初に出会ったフォトゥナ様の『幸運の女神の加護』、2つ目はアレス様の『武神の加護』。

 まあ、厳密には今みたいに2つより多く受けれるのだけど、続けていると体にとてつもない負担がかかって昏睡状態のようになるためにおいそれとまだ受けれない。


 ありがとうアスクレピオス様。久しぶりに会えて僕も嬉しかったです。


『私もよ〜。またいつでも呼んでね〜。なんならメインにしてくれてもいいのよっ』


 僕もそうできたらなと思うのですが、まだまだ未熟です•••。烏滸がましいですが、神様たちに迷惑をおかけします。


『ふふ。神の加護を全て受けれる様になるセイバーちゃんを楽しみにしているわ。じゃあまたね〜』


 そう言ってアスクレピオス様の加護が無くなったことを感じる。

 寂しいが、この寂しさを味わないためにももっと強くならないといけない。



 みんなを楽なところに行くのを手伝っていると、壁ががらがらと崩れていく。ダンジョンが攻略されたことにより転移型トラップがなくなり、その部屋としての役目を終えたのだろう。


 壁の向こう側は『石畳の都市』が見渡せる。


 ここはどうやらダンジョン内を見渡せる高台に位置している場所だったようだ。

 

 ダンジョン攻略、それはダンジョンとしての機能の終わりを表す。この『石畳の都市』は、魔物も出ない、ただの地下に広がるレンガ調の家が並ぶ都市になった。

 ただし、宝が眠っていたりするのでここからこのダンジョンは隅から隅までお宝探しが大勢で行われるだろう。そしてダンジョンの素材も使うことができるためにウィンダービンの街はさらに発展することになるだろう。


 ダンジョンは攻略された。でも世界は回っていくのだ。


 その中でもとりあえず、みんなが無事でよかった。さあ、帰ろう。

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