第1章 第11話 【悪魔】
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「ふうううぅ」
あれから何部屋攻略しただろうか。モンスターハウスの連チャンだったり、高位ダンジョンモンスターの連チャンだったり、ただのギミック部屋だったりと、10部屋くらいをもうかれこれ通過した気がする。
全てが高位ダンジョンモンスターレベルな気がするんだけど、これを10連続で引き当てる確率ってどんくらいなのだろうか?
『知りたい?』
いや、なんか怖いんでいいです。ていうか運が良いというか、そういう部屋の続きのだけでもしかしたらそもそもそういう設定かもそれないし。とりあえず、こんだけ連戦しているとさすがに少し疲れてきたぞ。
『普通はあの量は3部屋いけたらいい方ですぞ。それを10連続して少し疲れた、はいよいよセイバー氏の鍛錬が規格外なことを現していることになってきますな。良い傾向でござる。』
良い傾向なんでしょうか?でも、本当に疲れてきましたよ。なんとか素材やらドロップアイテムやらを拾ってテンションを保ってきましたけど、これあと何回も続いてきたら流石に闘気もつのか?っていう不安っていうやつがほんのちょっぴりその顔をチラ見せしてきますね。
『そんときはそんとき。頑張れ、でござる』
元も子もないが、武神様のいう通り。その時は頑張るしかないか。
そして部屋に現れる次の部屋への扉。
もはや何も考えずに開けて次の部屋に入る。
そこは、背が高い草木が生える草原だった。
おお、草原は初めてだ。
いったい今回は何が待っているのだろうか。
僕は草原を歩いていく。
すると、高い草木にちょうど隠れて見えなかった、壊れた祭壇が現れる。
「ここ、ボス部屋だ」
『遂にボス部屋についたのでござるな』
『壊れた祭壇、ここは階層主を封印していた祭壇だったようね。ここに踏み込んだことによって封印が解かれたって感じね』
じゃあ、もうここに階層主がいるってことか•••ん?
祭壇に気を取られていると、なにやら後ろから人の反応がある。
「お前、どうやってここにきたんだよ•••」
冒険者ギルドであった村の子、登場である。
「どうやってって、もうそれは壮絶な道のりできたよ」
僕もあの連部屋について語りたいよ。
「そっちはどうやってきたの?」
このパーティもハードな道のりだったのか、装備が汚れているし、息も上がっているし、疲労感がばちばちに見えている。
「こっちだって壮絶だったぜ?何部屋もあってよ、戻れる扉と進める扉があってずっと進んできたんだよ」
「え、そっちは戻れる扉があったの?僕のところ進む扉しかなかったよ」
「はあ?じゃあ相当簡単な道のりだったんだな。じゃねえとボス部屋に無能のお前が辿り着けるなんてないもんな」
心なしか、ちくちく口撃に元気がない。
僕がいうのもなんだけど、このパーティの状態は良くないぞ。だいぶ疲れが溜まっているように見える。
「ねえ、どこかで休憩した方がいいんじゃない?僕がいうのもなんだけど、みんなすごい疲れているように見えるよ?」
「はっ、本当にお前がいうのもなんだな。お前は昨日今日冒険者になったようなやつだから知らないと思うけど、ダンジョン攻略ってのはこういうもんなんだよ。びびってんなら隅っこで縮こまっときな」
え、そうなのかな?確かに僕はソロで動いていたし、パーティの動きというのを知らない。ならこんなものなのか?
『もうピュアすぎよセイバー。可愛いんだから』
『明らかにオーバーワークに見えますな』
ですよね?
「ねえ、本当に無理は•••」
「うるせえ!!俺たちは休みにここに来たんじゃねえ。ダンジョン攻略しに来てんだよ!!しかも、敵も待ってくれやしないぜ!!!」
瞬間、殺気が僕たちを襲う。
そうだ、ここはボス部屋。
姿形が見えないボスが潜んでいる。
気を抜くなんてことはできない。
さっきの会話くらいが避難できる猶予だっただろう。
凄まじい速さで迫り来る敵。
村の子が戦闘用のナイフを両手に取り出し、構える。
耳を劈くような金属音が響き渡る。
現れたのは手が反り曲がった剣の形をした、僕らの倍ぐらい大きなイタチのような魔物。
カマイタチ、にしてはでかいしその手は鎌というより剣に近い。カマイタチ、ダンジョンボスの姿といったところか。
イタチの攻撃は止まらない。風が吹くように次に次に剣撃が飛んでくる。
でも村の子はさすが『刃物使い』のスキルだ。その攻撃をナイフで全て防いでいく。
その間にパーティメンバーが彼を援護する。
「無能はそこでつったっとけ!!こいつは、俺たちがやる!!」
パーティメンバーは限界のはずだ。でも、そんなものを感じさせない気合いが伝わってくる。疲れ切っていたパーティメンバーのその目は、光は死んじゃいない!
「すごい•••」
『嫌なやつではあるが、根性があるでござるな』
負けないという、覚悟が、気概が圧倒している。
パーティメンバーの1人が捕縛系のスキルなのか、高い草木たちがイタチに絡みつき、その機動性を落としつつ、そして村の子をはじめ他のメンバーもどんどんと痛手を与えていく。
これ、勝ちそうだぞ!
僕は本当に突っ立っているだけだった。
「ハァ、ハァッ!」
息を呑む戦いの時間は、終わりを迎えようとしていた。
暴れまくっていたイタチはその多数の傷により動けなくなり、遂に地面に伏し、最後の1撃を『刃物使い』によって、トドメを刺される。
イタチが絶命する。
それはこのダンジョンボスを攻略したことに他ならない。
「ハァ、ハァ、ハァ•••。みたかよ、これが、ダンジョン攻略だ。お前には無理だ•••。死ぬ前に手を引け」
相変わらずちくちくは止まらないが、膝をつき、全てを絞り出したようだ。他のパーティメンバーは座り込んでいる。
こんな戦いを見せられたら、何にも言えないね。
村の子は深呼吸して息を整えると、休む暇もなく倒したイタチの元に行く。
「今回の攻略アイテムは祭壇のアイテムじゃないな。ドロップアイテムだ。このイタチと、このイタチの剣だな。この、剣は、俺のものだ」
イタチの手元から分離されている反った剣。それを村の子が手にする。
「俺はな。お前のことが嫌いだったよ。英雄気取って当たり前のようにいっつもみんなの前に出ていくお前がよ。正直、スキル授与式の時のお前の『なし』の宣告、ざまあみろと思ったよ」
ぐさぐさと僕の心に刺さる。うう、そんなに言わなくても•••。戦ってもないのに僕のライフもゼロになりそうだ。
戦闘後にハイになっているのか、目が完全にキマっている。
「なのに諦めもせずに冒険者なんかなりやがってよ!お前に何ができるんだよ!無様な姿をこれ以上見せるんじゃねえよ!!」
止まらない村の子の思い。本当に歯止めがかかってないようだ。
「お前は、前みたいに、部屋にでももも、こもっていればああああいいいいんだ、よおおおおおお」
流石に様子がおかしくないか?
目がグルンと白目を剥き、ガクンと項垂れる。
『まずいわね!!』
『完全に侵食されつつありますな!!』
あのイタチの剣が今回の悪魔の残留思念の器なのか!
「くくくく、くかかかかか!!負のエネルギーはやはり実に甘美!!」
顔を上げた村の子は、目は戻っているが、目は血走り、白目の部分が真っ赤になっている。
『赤い眼球に黒目、悪魔の目ね•••』
『完全に侵食されるとこのように乗っ取られるでござるか•••』
『悪魔の完全再臨、ってわけじゃないけど体が完全に適合したら悪魔そのものになる、と思った方がよさそうね•••』
あれが、悪魔•••。
「くかかかかか!セイバーとかいうスキル『なし』よ。貴様相当嫌われていたようだな。負の感情を少し助長してやると出るわ出るわ溢れ出てくるわ!すぐに負のエネルギーを媒介にこの体の侵食の扉が開けたわ!!お前には感謝しているぞ無能」
体の馴染みを確かめているのか、悪魔は首を左右にゆっくり振り、骨を鳴らす。
「しかもこの体、『刃物使い』のスキルか。この悪魔”切り裂きジャック”に相応しい能力だなあ。まだ完全に適合したわけではないが、どれそこの倒れている忌まわしき神のスキル持ち共を試し切りしてみるか」
息も絶え絶えだった他のパーティメンバーは理解が追いついてないようだ。
「なにいってるんだ?」「頭おかしくなっちまったのか!?」「おいおいどういうことだ!?」「なんで俺たちに刃向けてるんだよ!」
「くかかかか。久しぶりの肉を切る感触、味わえると思うとゾクリ、ゾクリだな。無能よ、お前には感謝してるから最後にじっくり、料理してやろう。くくくくく、そして外に出たら主様に、悪魔の復活の狼煙をあげて見せましょう!!」
高笑いしながら剣を握りしめる悪魔。
草原だった土地は塗り替えられ、レンガの廃墟が広がる。
「くそ•••」「動けない、動けねえ•••」「正気に戻れ、おい!」
その光景が、動けないメンバーの絶望を引き立てる。
「くかかかか!不安、拒絶、恐怖、絶望!!心地よい、心地よいぞおお!!」
さらに高笑う、悪魔の声が空虚な廃墟に響き渡る。
「さあ貴様ら、いい声でもっと奏でてくれよ?」
瞬間、悪魔は目の前から消え、倒れているパーティメンバーの喉元にその剣を切り付ける。
————僕を、忘れてもらったら困る。
悪魔が動くと同時に、悪魔とパーティメンバーの間に割り込む。そして、その切りつけた剣が到達する寸前に、悪魔の体に拳を叩き込み吹っ飛ばす。
「!?」
無能のありえないことに、一同が驚愕し、時が止まる。
吹っ飛ばされた悪魔が、何をされたのか確かめるように体勢を立て直す。
「貴様、スキル『なし』のはずだ•••何者だ?」
「僕は逆境になっても、そこに絶望があっても、それをひっくり返すために鍛えてきた•••お前みたいな、悪を倒す者だ!」
闘気を開放する。手抜きじゃない、本気の闘気をッ!!
「闘気!?現代に使えるやつなどいないはずだ!!貴様本当に人間か!?いいや、違うな。匂う、匂うぞ!!忌々しい神の講釈垂れな気品を履き違えた臭い香りが!!貴様、神の使徒か!?」
「悪魔よ、その体の中を見れるなら知っているはずだ•••僕は、英雄だ!!」
闘気の全開放。さらにその闘気を濃縮。
『セイバー!あの子は完全に取り込まれてない!あの剣がまだ悪魔とリンク先の媒体となっているわ!』
なら、あの剣を粉砕すれば仕舞いってことですね!
僕は一瞬で悪魔の懐に入り込む。
闘気を濃縮させた拳で剣を叩き折ろうとする————が、悪魔も反応して避け、迎撃してくる。
そこから悪魔の剣撃、僕の打撃とお互いの攻め合いが続く。
直接破壊がだめなら村の子を気絶させようと思ったけど、悪魔なだけあるのか、有効打が中々入らない。
そして”切り裂き”と名乗るだけあってその剣撃も凄まじいものだ。まともに喰らうことはないが切り傷は免れない。
何度か応酬が続いた時、ガクッと力が抜けそうになる。僕はそのまま勢いで後ろに下がり念の為に距離を取る。
なんか、体が重くなったきたぞ•••。
「くかかかか。どうだ苦しいか?体の自由が奪われてきただろう?くかかかか、この”切り裂きジャック”に切られたものは痺れ、毒、眩暈、ありとあらゆる状態異常が付与されるのよ。くかかかか、狼狽えろ狼狽えろ。その生まれたての子鹿のようになっていく無力で無様な姿を切り刻んでいくのが私は好きでなあ!貴様が何者か知らんが神とて私の状態異常には抗えん!!」
そうか•••なら、さっきりよりも速く、僕は悪魔の懐に入る。
「な!?」
「とったぞ悪魔」
意表をつかれた悪魔は一瞬の隙が生まれる。その隙を逃さず、僕は悪魔が持つ剣身を握りしめる。
「な、なぜだ!なぜそんなに、先ほどよりも速く動ける!?」
「気合いだ」
「気合いイ!?そんな精神論で崩される私の能力ではないわ!!」
僕は絶対に離さないように剣身をもつ手にさらに力を加える。
「お前はさっきのこの人のダンジョン攻略を見ていなかったのか?」
個人もパーティも限界が来ても尚、それを気合いで超え、戦い、勝つことを信じて、その不屈の精神で勝利をもぎ取ったあの闘いを。
「あんな闘いを見せられて状態異常くらいで根を上げてたら、冒険者なんてなれない、ダンジョン攻略なんてできない!」
限界を超える、その先に未来があるからだ。それを人は”希望”と呼ぶッ!!
「クソ!!離せ!!」
「いや、離さない!!ここでお前は終わりだ悪魔!!!」
僕は剣身を両手で思いっきり掴み、その真ん中を膝で打ち抜く!!
「ここに悪の居場所はない!!残念ながら消えて貰う!!!」
「クソがアアアアアああ!!!」
その悪魔が宿っていた剣身が、僕の膝によって真ん中から真っ2つに破壊される。
「あるじ、さま••••」
真っ赤だった目が、戻り、気が抜けたかのように村の子はドサっと倒れる。




