第1章 第10話 【石畳の都市】
階段を降りていく。
レンガ調の階段からは想像できない、洞窟のような階段だ。なんというか、ダンジョンぽい!
そして、階段を降りると、ひらけたところに出る。
石畳の地面、規則正しく並ぶレンガ調の家々。
そこには、街が広がっていた。
「これは•••」
ダンジョンぽくない!
すごい、ダンジョンぽくない、と思うほど本当に綺麗な街だ。
ダンジョンは広く、その規則正しく並んだ家々の光景は『石畳の都市』という名前だけあると思わせる迫力がある。
そんな感動を覚えつつ、周りを見てみると、慣れた冒険者が次々に家々のドアを開けていっている。
そのまま踏み込むとドアは閉まるが、物音は何も聞こえない。
『転移型の家なのかしら』
転移型?
『家自体がトラップというか、家に踏み込んでみると別空間に飛ばされるみたいな。そこはモンスターハウスかもしれないし、なにか宝物の部屋かもしれないし、それこそボス部屋かもしれない。まあなんにせよ外とは遮断された空間ってことね』
はえー、そんなダンジョンもあるんですね。じゃあここにある家々は、入ってみるまでわからないどっきりハウスってことか。
『これはランダムで入れ替わるというより、家の中に入ってボス部屋に当たったとしても攻略しなければわからないってことですな。もしかしたらボス部屋にたどり着いた冒険者はいるかもしれないけど攻略できてないだけかもしれないですな』
『さらにはボス部屋の部屋は階層タイプになってるかもしれないわね』
そうやって家を見ながら歩いていると、ある家の扉が取れそうなくらいに勢いよく開かれる。
「家の中でマッドブラッドハウンドの群れに会うなんて思ってもねえ!」「なんとか倒せたが犠牲が出過ぎた!」「撤退、撤退だ!!」
負傷した冒険者が床に転がるように扉から出てくる。綺麗な石畳につく血の跡。それがどれだけ凄まじい戦闘だったかを教えてくれる。
ぱっと見この出てきた冒険者はそれほど負傷はしていない。この冒険者たちが言っていたことから、この血は犠牲になったら彼らのパーティだった人のものなのだろう。
部屋に入るとその部屋を攻略しなければ出れ無さそう。そして、出会う魔物は入らないとわからないランダム設定。さらにはボス部屋を当てても階層タイプだった場合、攻略していかないとボス部屋に辿り着けないかもしれない。これは、一筋縄ではいかなそうな予感がしますね。
「とりあえず、部屋に入ってみすか」
動かなければ始まらない。
僕はとりあえず適当な家に入ってみる。
家の中は薄暗い。
踏み込むとドアが勝手に閉まる。
そして2、3歩進むと、薄暗さははれ、そこにはプレート型のお墓が並ぶ、墓地が広がっていた。
すご、家からは全く想像ができない中身だ。
しかも、空まで薄暗く、夜が再現されている。
これどうなってるんだろう?ダンジョン内はダンジョン内なのだろうか?
『やっぱり転移型のようね。ここはダンジョン内はダンジョン内よ。じゃないと悪魔が外に出ることになるからね』
ふうむ。ダンジョン、奥が深すぎるぜ。
僕は墓地を歩き回る。今のところ何もないけど•••いや、何かいる。
武神様によって鍛えられた『武神の加護』の1つの能力、『武神の気配察知』が何かを捉える。
気配はない。気配はないけど、そこに空間がくり抜かれたかのような揺蕩う違和感。そして、今、濃密な殺気がある!!
僕は咄嗟に地面に這うようにしゃがむ。
すると、今まで僕の胴体があった場所を大きな鎌が殺人的速さで通過する。
状況を確認するためにその場から飛び退き、その違和感の空間と距離を取り、その存在を確認する。
そこには顔全体を覆うローブのような真っ暗な外套を羽織り、巨大な鎌をもった魔物が宙に浮かんでいた。
「え、こいつリーパー?普通にボスになるような高位ダンジョンモンスターのはずだけど、ここがボス部屋なの?」
『いや、ボス部屋では無さそうね。恐らく通常では出会えない高位ダンジョンモンスターに出会える当たり部屋を引いたんじゃないかしら。さすがセイバーね。運がいいわ』
はしゃいだように言うフォトゥナ様。これ、運いいのかな?
まあでも、強い魔物と戦えるのはいいことだ。ドロップアイテムも期待できるし経験も積めるし。よおし、みなぎってきたぞおお。
僕は闘気を体全体に軽く開放する。
リーパーはそれが戦いの合図と思ったのか、瞬時に間合いを詰めてくる。
リーパーの特徴としてはその速さだ。瞬間移動のような速さで敵を捕捉し、巨大な鎌からは想像できない攻撃スピードで命を刈り取る。
だから、今も距離をとっていたのにもう敵さんは目の前だ。
鎌が僕の首元まで迫る。
大丈夫、もうこいつの攻撃はさっきので見切っている。
僕は迫り来るその鎌の腹を闘気を含ました拳でタイミングよく押し当て軌道をズラす。その鎌は何の命も刈り取ることなく、空振りに終わる。
意図しない空振り。そのせいかリーパーは少し体勢がぐらつく。ごめんけど、僕はその隙を見逃すほどあまくない。
僕もリーパーの懐に入り、そのリーパーの外套を左手で掴みさらにこちら側に引き付ける。リーパーには残念だが、僕の掴みからは抜け出せることはい。なぜならここで仕留められるからだ。
僕はリーパーを掴んで引き寄せたことで、より感覚的にリーパーの脆い部分を把握。
その部分に闘気を集中させた右拳で殴打、少ない闘気といえど体の力を全て乗せた一撃。とんでもない衝撃がリーパーの体を貫く————が、リーパーはまだ倒れない。
ダメージはだいぶ入ってるのか、リーパーの動きは非常に無くなっていく。でも、まだ抜け出そうと死力を尽くして暴れる。
さすが高位ダンジョンモンスター、省エネでは1発では倒れないか————なら、倒れるまで殴り続けるまでッ!!
何発叩き込んだだ時だろうか。遂にリーパーは声にもならない呻き声のような声を出して、砂が舞うように形が崩れ去っていった。
リーパーのような幽体系の魔物やアンデット系の魔物は倒されたとき、今回のように砂が舞うように消滅して形が残らない。その代わり、何かアイテムをドロップするのだ。
僕の手に残ったのはその真っ黒な外套だった。
『セイバー氏の脳筋戦法と見せかけて、相手の弱い部分を徹底的に必要最低限の力で攻めて倒すといった理にかなった攻略。結果的に1番効率がいいですな。しかし、もう少し闘気を使った方がより省エネで済んだかもしれませんな。できるなら、必要な闘気で一撃必殺が好ましいでござるが、それはさすがにそれこそ神の領域。でも、セイバー氏にはここを目指してほしいですな』
ありがとうございます武神様。武神様の言う通りもっと効率よくできそうでしたね。リーパーの硬さを見誤りました。
『まあこれは経験ですからな。どんどん戦っていきましょう』
はい!
武神様との戦闘後のフィードバックはとても力になる。日々精進だ。
「ところでこの外套はなんなのだろうか」
『気配遮断の外套ね。セイバーの『武神の気配察知』ですらリーパーの気配はわからなかったでしょ?』
そうですね•••空間自体の掌握でわかったというか。それがこいつの効果なんですか?
『そうよ。気配を完全に遮断する外套。いいものをドロップしたわね。さすが私の加護を持っているだけあるわねっ』
僕の冒険者の装備は『祈祷のダンジョン』巡りの際はお金もなかったので、充分でもないし、もうくたびれてもいる。この外套もぼろぼろで幽体感があるけど、味があって雰囲気がある。
僕は今のローブを脱いで無限収納巾着に入れ、リーパーの外套を羽織る。
おお、なんだかかっこいいぞ。フードも被っちゃお。どうです?
『いい感じですぞ!ぼろぼろさと黒い感じがおどろおどろしい怖さもあっていいですな!顔が見れないのもダークな感じでかっこいいですぞ!』
本当ですか!
『もう、厨二病みたいな喜び方しないの。ただ、かっこいいのは確かね』
よし、フォトゥナ様のお墨付きももらったし、しばらくはこいつをメイン装備にしよう。気配遮断はできてます?
『気配は全くわかんないわね。さっきのリーパーみたいな感じになってるわ』
『まあ気配を察知できるスキルや鍛錬を積んでるものにはわかってしまうでござると思うが、ただ、セイバー氏でさえ違和感ほどの察知でしたので相当の使い手じゃないとわからないと思うでござるね』
うむ!素晴らしい拾い物だ。いつもありがとうフォトゥナ様。
『もう、それは言わない約束よ』
と、熟年夫婦みたいなやりとりをしていると、墓地に扉が現れる。
これは、出口の扉では無さそうだね•••。
次に進めってことか。ということは•••。
『本当に当たりだったようね』
しかもこの感じ、階層タイプの攻略式と思われる。
『やはりこのダンジョンはボス部屋にいくのは階層タイプ、しかもここは後戻りは出来無さそうでござるな』
行くところまで、行くしかないってわけだ。
ならば、進むまで!
僕は扉を開けて中に入る。
そこにはたくさんの種類の魔物の群れがひしめき合っていた。
モンスターハウス。
転移型のダンジョントラップでよくあるやつだ。モンスターがたくさんいる場所に飛ばされるか、またはモンスターが飛ばされてくるか。今回はモンスターが大量にいる場所へのご招待型。量がえぐいね。
でも、やることは1つ。
「倒して次に進むだけ!」
僕は闘気を身に纏い、魔物の海に飛び込んでいく。




