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第1章 第1話 【はじまり】

 僕は小さい時、みんなの英雄になることを夢に見ていた。冒険者ごっこでも、前線に立ち、みんなに向かう魔物の攻撃を受け、そして悪を蹴散らす、英雄の役をよく買って出ていた。

 そんな姿を、幼馴染の女の子、ヴィクトリアも応援してくれた。


「セイバーは英雄になるんだよね?」


 目が大きく、髪の毛がブラウンでふわっふわで、子供なのにもう可愛さが溢れ出ているヴィクトリアが聞いてくる。


「うん。僕はダンジョンを次々に攻略していって、みんなの前に立って悪を蹴散らす英雄になるよ!」


「セイバーならきっとなれるよ!」


 その大きな目をキラキラさせながら、ヴィクトリアはいつも僕の夢を応援してくれた。子供ながらの、英雄になったらわたしがお嫁さんとして支えてあげるね、なんて言葉も添えながら。

 僕は信じてやまなかった。自分が英雄になれるのだと。自信しかなかった。その力があるのだと。


 そう、あの”スキル授与式”までは。



 10歳になるとき、僕らは『スキル』を授かる。

 スキルは神から与えられた力である。それまでに鍛錬をつみ、物心がつき、意志がしっかりし始めた10歳で『スキル』鑑定版を用いて自分の『スキル』を判明させる。それが”スキル授与式”である。

 僕らの小さな村でも慣例に則り、小さな村の小さな教会で”スキル授与式”が行われた。


「緊張するね、セイバー」


「大丈夫だよ。ヴィクトリアはこんなにも優しくて綺麗なんだ。きっと神様が微笑んでくれるよ」


「セイバー••••」


 ヴィクトリアが泣く真似をする。いや、もはやちょっと泣いてるかもしれない。そんな姿も可愛い幼馴染だ。こんな可愛い子を神様がほってるわけないよね。うんうん。


 どんどんと村の子が呼ばれ、スキルが判明していく。


「お、これは!!」


 その途中で、スキル鑑定版を管理している司祭様が驚きの声を上げる。


「『聖騎士』スキル!!剣術、体術、軍略全てにおいて高ステータスである超高ランクスキルだ!!めったに目にかかれんぞ!!」


 場がどよめく。そいつはこの村長の息子だった。見かけから剛力そうなやんちゃボーイであり、僕とよく冒険者ごっこの役の取り合いで喧嘩になってたりもした幼馴染の1人、ゴウだ。


「ハッ!どうやら俺の方が英雄に近づけそうだなセイバー!!」


 ゴウはそのやんちゃボーイな笑顔で言い放つ。僕はゴウと役の取り合いをするけど、別に嫌いじゃない。その豪快さと猪突猛進な感じは漢気があって好きまである。だからゴウのそのスキルの結果には、ゴウらしいと、悔しさなどはなかった。


「次、ヴィクトリア!」


「うわ、ついにわたしの出番だ•••」


 ヴィクトリアがんばれっ、と心中で応援する。

 ヴィクトリアが鑑定版に手を触れる。


「こ、これはまたもや!!!」


 またしても司祭が驚きの声を出す。


「『聖女』、『聖女』のスキルだ!!!回復、解毒、解呪、状態異常を跳ね除ける最高峰の超超超!!超高ランクスキル!!!まさかこの人生で見れるとは!!!どうなっとるんじゃこの村はあああ」


 司祭が発狂するくらいの激レアスキルらしい。さすがヴィクトリア。神様はちゃんとヴィクトリアのことを見てくれていたんだね。


「セイバーやったよ!わたしすごいスキルだったよ!これでセイバーの隣にいれるね!!」


 ヴィクトリアが喜びのあまりそのままの勢いで僕に抱きついてくる。ちょ、ちょっと!恥ずかしいので!みんなの前で恥ずかしいので!

 でも正直、僕も嬉しいよ!


「では最後、セイバー!」


 ごくり。


 ついに僕の番。どんなスキルであろうと、どんなハズレスキルであろうと、僕は使いこなして見せる。英雄になるためには、選ぶ様ではだめだ。どんな手札でも勝負できる。それが英雄だ。


 僕はどんなスキルがきても、自分のものにできる自信しかなかった。どんなハズレスキルでも、英雄になれる自信があった。


「こ、これは••••••!!!」




 この時までは。




「スキル••••『なし』じゃ」


 え?


「は?」


 今なんて?


「スキル『なし』じゃ!!セイバーにはスキルがない!!」


 え••••え?


 理解が、追いつかない。スキルが、ない?


 場はどんなスキルの結果でも多少の反応があったり、賑わいを見せていた。でも今は、静まり返っている。

 僕も理解が追いつかず、呆然と突っ立っている。『スキル』が『ない』?え、どういうこと。


 静寂が続く中、誰かがぷっ、と笑い出す。


「英雄を目指してたやつが、『なし』?」「正直、英雄ってなんだよって思ってたんだよな」「スキルなしはどうにもならねーよなー」


「スキル『なし』、それはクソにも役に立たねえゴミのレッテルだろ」


 『スキル』が判明している同い年だちがそれぞれ好き勝手に言う。


 僕は、理解が追いつかない。


 ゴウの方を見る。


 ゴウは僕とは目を合わせず、険しい顔をしている。


 ヴィクトリアの方を見る。


 ヴィクトリアも理解が追いついていないのか、こっちを見ているが視点が合っていない。


 好き勝手に言われ始めるが、僕の耳には入ってこない。


 何も、何も入ってこない。


 スキルが『ない』?


 僕は、僕は•••


 そこからは、僕はどうやってうちに帰ったか、授与式がどうなったか、どんなことをしていたのか、覚えていない。

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