第一話
青葉の茂る夏はじめ。
これでもか、と言わんばかりに太陽が地面を照らしつけ、まるでお互いに競争しているかのように草たちがのびていた。
畑のまわりを古いしゃれけのないTシャツを着た子供が鬼ごっこをし、麦わら帽子をかぶった老人が畑仕事に勤しんでいる。
田舎町だが都会にはそれなりにない物がここにはあるその道を、一人の男子高生がぼーっと歩いていた。
桃井渚。
それが彼の名前。
渚は雨宮優里、もとい自分の恋人である人物に会うためにこの田舎の道を通っていた。
優里の家まではそう遠くはない。
ただごつごつと小石のある道をほぼまっすぐに歩いていけばすぐそこに古い木造の家が見えてくる。
しかしどんなにちかくても夏は夏だ。
照りつける日差しは真夏なみの日だし、カラッと乾いた地面はさらにその上を歩く者たちをあつくさせた。
「あっぢぃ~~」
まるでそのあつさをなげすてるような口調で渚はひとり言をつぶやいた。
優里の家まであとどれくらいかかるかな…?
外よりはまだ中のほうが涼しいよな…たぶん…
と…
でもこんな田舎町だ、扇風機なんてないし、ましてやクーラーがある家などはどこにもなかった。
渚はその事実を知っているが、やはりこんなあついなかではそう思わずにはいられなかった。
すぐそばをさっきの鬼ごっこの少年たちが走っていく。
こんなあついなかどうしたらそんなにはしゃぎまわれるんだ…
半分呆れてはいたがそんな子供の体力はすごいと心のすみで思った。
遠くに優里の家がようやく見えてくる。
汗だくになったシャツをバサバサとはたきながら、さっきの子供たちのように駆けだす。
暑すぎて思うように走れないが、それでも一刻もはやく、この地獄から抜け出そうと、汗でぬれた足をしきりに動かした。
きっと、これも「平和」の部類に入るのだ。
何食わぬ顔でいつもの日々を、争いごともなく暮らせることが。
もしかしたら、その平和はもう崩れかけているのかもしれないし、崩れるのはまだまだ後かもしれない。
なんにしろ、渚には知る由のないことだった。