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甘々な妹が外では冷たい

 

「ほんとーに、お兄ちゃんは気持ち悪いから、来ない方がいいよ。うちに来たら、ザ・非モテ陰キャなクズがいるから。妹の友達とかロリコンには危険だから。ガチ惚れられてストーカーとかになられたらヤバいから」


 マミは、ちょうど港から出港し始めたオガ丸を見ながら、通学路を友人と歩いていた。島風が強く吹くので、帽子やスカートがイタズラされないように抑えつける。

 オガ丸とは、トラックのハデハデな塗装のように、鬼のデザインがペイントされたおじいちゃんの船だ。鬼だからオーガ、それに可愛さと船らしさを足して、近所の子はオガ丸と読んでいる。

 まぁ、ようは目立つのだ。


「いつも、お兄ちゃんの悪口だね。口が悪いぞ、マミー」

「いいから、一回ぐらいマミの家で遊ぼう」

「うーん、お兄ちゃんがいない時ならね。予定、どうなっていたっけ」


「マミ。お兄ちゃんの予定、手帳に書いてるの」

「えっ、うん。ほら、できるだけ会わないようにね」

「いや、家族でそれは無理。ツンデレブラコン……」

「なんか言った? 聞こえなかったんだけど」


 マミの耳には、風の音が強すぎて、伝わらなかったようだ。吹き荒れる風は、海岸の木々を歪ませるぐらい強い。海岸には、海をプカプカと渡ってきた実の子孫だけが存在している。陸の孤島と呼ぶほど離れてはいないが、内地から此処までは、泳いでくるのは無理だろう。


 まぁ、しかし、何事にも壁に耳あり障子に目あり。

 マミのディスりも何度もしているうちに、風の噂にのって、歪みながら噂の人に届いてしまうのだ。


 そう、マミの兄である俺に――。


 いつから俺は陰キャ非モテの兄になったんだ。バレンタインデーもらいすぎとか言いながらチョコを食っていた記憶はどこに言ったんだ。

 まぁ、思春期のマミはあんまり兄にベタベタしてないアピールがしたいんだろうが。

 俺のこと、サゲすぎじゃないか。

 膝の上にのって、甘えてくるときと落差がありすぎる。マザコン扱いされたくない思春期の男子か。


 俺は、海を目の前にして育った開放感あふれる男子だ。ユーモアと寛大さにあふれておる。

 よし、妹に、この日ならば呼べるという日をカレンダー上に演出してやろう。オガ丸に乗って、シュノーケリングかダイビングかに出かけたと見せかけて、急遽中止して、敵は本能寺にありだ。


 妹の驚き慌てる姿が目に浮かぶぞよ。

 俺は近所の海岸沿いの店ラララララールでパッションフルーツジュースを飲みながら、計画を詰めていった。一度、本土にパーティメガネを買うほどに。

 ちなみに、ララ―ルの店のラはできるだけ多く言うのがツウなのだ。嘘だ。



 時は来た。

 いつかは、カレンダーにはのっていない。だから、自分で欠航の日を、いや決行の日を決めるのだ。

 オガ丸さんと鬼ヶ島にでも行っていると油断している妹に背後からダイレクトアタックなのだ。滅びのなんとかストリームなのだ。本日は晴天なり。トラトラトラ。今年は辰。


 玄関に潜入。バカな猫と違って、俺は罠にはかからない。あ、猫がトリをとり肉にしちゃうので、駆除しているのです、我が島。とり肉って鶏肉じゃないの。

 閑話休題。

 産卵に来たウミガメのように家の中を滑りながら、俺はパリピウェイウェイのパーセンテージをボルテージしていく。しかも、それは陰を含みながら。

 臨界点突破っ!

 突入っ!


「どうも。マミのブラザーのトーヤですっ。好きなアニメは、ワンナイトキル。美少女のサムライ剣士シズカちゃんがすごくいいんだ。スカートの動きに美学を感じるでござるよ」


 時が止まった。

 陰キャ非モテ空気読めないKY風の兄が精一杯で乱入してきただけなのに。


「そ、そうですか」

「お、お兄ちゃん。恥ずかしいからやめて」


 妹よ、兄の悪口を嘘松をは生やしていたようだが、陽キャパリピな俺は、乗るぞこのビッグウェーブに。オタクのフリぐらい余裕だ。

 妹が外では付けろと言った伊達メガネも完備。いやパワーアップしたパーティメガネでフルメタル。


「せめて特技のオタ芸だけでも見ていってくれ」


 空気は無視しろ。どうせ風に飛ばされる。島でそう習った。どんな愚行も海を超えては伝わらない。島でそう習った。まぁネットの海が狭すぎるが。

 俺が踊り出したら、妹の友達は手拍子までしてくれた。さすがだ。それでこそ、このパリピ島に生まれただけはある。関西人のようなツッコミではなく、流れに身を任せるのだ。そう海流に逆らうのは、愚かなことだ。


 この日のために、動画を見て、島の隠れ家的なビーチで踊りの練習をしたかいがあった。鍛え抜かれたヲタ芸に、妹の友達は拍手までしてくれた。

 あざ丸水産よいちょ丸である。


 そして、マミのタコの実パンチがとんできた。

 説明しよう。タコの実パンチとはタコの実のように固いパンチだ。タコハイも吹き飛ぶパンチだ。

 タコノキというタコのような根っこの多い木につくパイナップルのような外殻の実です。頭上注意です。当たったら、どどどど、ど、鈍器〜。ドは多くつくほど、固くなります。嘘だ。


 俺は妹のパンチをしっかりと顔面で受け止めてから――。

 うん。やわっこ。


「マミのフレンズたち。これからもマミをよろしく」


「「はーい」」


 よし、逃げよう。

 できるだけ遠くに。オガ丸で南の島まで。

 そこで、カタツムリのように雨がすぎるまで休もう。



 さて、帰ってきたけど、化石のように怒りは保存されたままの状態であった。誰だ、時間がすべてを解決するといったやつ。

 石灰岩は雨で溶けたあとでも、崩落という2次被害をもたらすが、鎮まれ、妹、右手が疼くのは男子中学生だけだ。


「お兄ちゃんには2つの選択肢があります」


 お兄ちゃん、サンゴ礁の死骸を2つ並べて説明されたくないのですが。脳サンゴの上にロウソクを立てて遊ばないで。


「一つは、島流し。お兄ちゃんは明日から本土の学校に転校します」


 それは島流しではなく逆なのでは。

 やったー。本土だ。俺は、東京でブームを起こす。


「2つは、二重生活です。お兄ちゃんには、家と学校ではオタク。わたしと外出するときは普段の姿でカップルをしてもらいます」


 二重生活だとっ。

 なんだ、そのパリピな脳にくる言葉。俺はこの島の人間を完全に騙すスパイになるということか。

 だが、その作戦には致命的な欠陥がある。


「俺、普段の姿が島中にばれてーら」


「化粧でごまかしましょう」


 しかし、化粧だけで、このイケメンフェイスが隠せるのだろうか。クラスの女子の視線を集めまくる俺のウルトラフェイスが。


「お兄ちゃんは、高校生から美少女アニメにハマったという設定で、学校では1世代前の痛々しいオタクを演じてね」


 まぁ、いいだろう。

 少し妹で遊びすぎた。

 俺も妹のオモチャになろうじゃないか。

 で、その珊瑚はどうするの。


 そんなこんなで、俺史上最も女子から避けられる一ヶ月を過ごしたわけだが。おいおい、島びとよ、オタクを避けるとは情けない。




 マミとマミの友人は、またマミの家に来ていた。


「マミ。誰々?スーパーで買い物してたイケメン。超イケメン。年上彼氏とかすみにおけないぞ」


 あれ、お兄ちゃんなんだよなー。

 いいや、彼氏ってことにしちゃえ。

 マミ、最後はすべて兄のせいにすれば解決すると思っている。いや、兄のせいだし。実際。


 そして困った。


「どうも、マミの彼氏のサクヤです」


 どこから現れた。マミは、こめかみをもむ。

 誰ですか。サクヤって。

 お兄ちゃん、島を出てホストとかしないでね。恥ずかしいから。

 てか、家ではオタクの格好の約束でしょう。そんな爽やかなオタクは知らない。


「これお兄ちゃんね」


「お兄ちゃんって2人いたんだぁ」

「マミー、兄を彼氏。ん、妙だな」


 かくかくしかじかとマミは、友達に事情を説明した。兄と妹の熾烈な攻防を。


「流れは理解したけど、なぜそうなるのか全く理解できない」

「ごめん。二人は何がしたいの」


「ブラコンな妹が悪いな。妹が俺の存在を世界から隠したがっていたんだ。島一番のイケメンの俺を」


 マミはなぜか頭を抱えていた。


「あー、これはいずれオガ丸弐号機ができるね」

「泣いた赤鬼には、青鬼もいるしね」


 マミは、拳を握りしめる。

 タコの実パンチが準備されていた。




 ◇  ◇  ◇


「では、大学で旋風を起こしてくる」


 俺は船に乗る前にマミと最後の抱擁をしていた。

 まぁ、たまには帰省するけど。


「お兄ちゃん、大学ではオタクキャラで。じゃないと絶交だよ」


「オッケー。全くお兄ちゃんがモテるとそんなに困るのかな」


「お兄ちゃんが変なお姉さんにツボをかわされないようにです。絶海の田舎とは違うんだよ」


「はいはい。分かった分かった。ほんと、海で拾った頃とは大違いだ」


「海で......拾った......」


「ん、マミ、大海原でプカプカと浮かんでいただろう。オガ丸で回収したとき、俺は桃太郎と名付けようと推したんだけど」


「ちょっと待って。衝撃の新事実っ。わたし血繋がってないの⁉」


「あ、さすがに。そろそろタラップが――。じゃあ、元気でやれよー」


 俺は船の方に歩む。


「抱きついたのは、セクハラ―っ!!彼女作ったら、死刑だから―」


 マミ、兄妹でセクハラはないだろう。

 全くツンデレブラコンなんだから。

なんか、だいぶカクヨムぽくなったなぁ。

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