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能ある鷹は爪を持たず  作者: Monica
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プロローグ『森にお帰り』

おはようございます。Monicaです。

フィジカルチートな主人公と普通に異能を持ってる仲間達が織りなす、ハートフル()なアクションラブコメを書いてみました。

それではよろしくお願いします。



『異能』とはなにか、ご存じだろうか?


…ああ、そうそう。そこの君ね。ごめんね、主語抜かしちゃって。

──そう。そのまんま読んで字の如く、『異質な』『能力』のことだ。

…え?まだ何も言ってないのに先に答えを言うなって?しかも答えの底が浅い?

………サーセン。それは普通にすみませんでした。


まぁまぁ、まぁね。それはともかく。『異能』はたくさんの種類がある。

例えば、空を飛ぶ。

例えば、光速で走る。

例えば、生き物を使役する。

例えば、物の位置を入れ替える。

例えば、物を凍らせる。


一見、どれもこれも非現実的な力に思える。しかし、この世界ではこれが当たり前なのだ。この非現実的な力、即ち『異能』を持って生まれてくることが当たり前である。

生まれたての頃は使えなくても、この世界の人間は6歳までに異能を発現する。

()()()()()()()()()()()


しかし。だがしかし。


例えば──さっきから"例えば“が多くて大変恐縮だが──


──『異能』を持たずして生まれてきた人間がいたら、どうか?


当然、蔑まれるだろう。

みんなが当たり前にできていることが、1人だけできない。集団においてはハブられること必至だ。


ん?なになに?「たかだか異能が使えないくらいで迫害なんて非道だ」って?

…君優しいね。これからもその心大事にしてね。


でも、考えてもみてくれ。

例えば(もうツッコまないでね)ペンギンの群れがいて、そこに一羽だけ泳げないペンギンがいるとしたら?

…どうかな?大分わかりやすいんじゃないか?

何なら、うさぎに死ぬほどビビるライオンでも良いし、カメといい勝負できるチーターとかでも良いし、爪をもがれた鷹でも良い。


これらに共通することは、『狩りができない』。即ち『生きていくことができない』。もっと言うと、『自立ができない』。

まぁ当然、野生動物と人間が違うのはわかってるんだけど、野生においては自分のエサを自分で取れない=死に等しい。ハイエナやハゲタカの様に屍肉を貪る習性のない動物なら尚更だ。

泳げないペンギンとかどう頑張っても魚獲れないし、小動物にビビるライオンや遅いチーターなんて逆立ちしても狩りが出来ないだろう。

爪をもがれた鷹なんて、何ができるんだよって話だし。

子供ならまだしも、大人になってから自分のエサを仲間が取ってくれるはずもなし、自立なんかできやしない。そう思うだろ?


つまりはこれと同じさ。この世界で異能が使えない、否『持たない』ってことは世界から孤立したも同然の存在だ。


…どう?もうあんなに優しいこと言えないでしょ。もちろん、君を咎めてるんじゃないぜ。君のその心優しさは大事にしてほしい。それってすっごい美徳だからね。ただ言いたいのは、その優しさが通用しないこともあるってこと。

そしてこの世界は、大概理不尽だってこと。特に生まれつき異能が無いやつにはね。


さっき「例えば」なんて言ったが、ここに実際にいるんだ。生まれながらにして異能を持たない少年が。


そいつは、ちっちゃい頃はとにかく幸せだった。心優しい両親にいっぱい愛情を注がれ、元気に育った。それに、そこそこ頭も良い。と言うより、早熟だった。仲の良すぎる両親のイチャイチャっぷりをみて胸焼けを起こし「もう大人なんだから良い加減やめろよな」と思ってたくらいにはね。


でも、そいつはある日気づいてしまった。異能が使えないのだ。

初めのうちは両親も、この子は発現が遅いタイプなんだろうと気にも留めていなかった。

しかし、4歳の終わり頃かな。周りの子は当たり前に異能を使えているし、「オレ昨日やっと異能が出てきたんだぜー!」的な会話をしている奴等もいる。もしかして自分は生まれつき使えないんじゃないか?不安になったその少年は、両親に相談した。

楽観的な両親は大丈夫だろうとタカをくくっていたけど、その少年があんまりにも必死に頼み込むもんだから、病院で検査してもらうことにした。そりゃもう、世界の終わりかってくらいの絶望顔してたね。


さっき、異能は6歳までに発現すると言ったけど、実は遅くてもその半分の年齢、即ち3歳までにはもう異能の形はできているものらしい。それが表に出てくるまでの時間は、個人差があるものなんだと。

だから、3歳になれば、異能を持っているか否か、それとざっくりではあるが、どういった異能を持つかを病院で検査してもらうことができるのだ。

主に、我が子の異能はどういったものになるのかが気になってしょうがない親などが来る。

例えば(今日だけで俺は何回『例えば』って言ったんだ?)「あなたのお子さんの異能は口から何か吐く系ですねー」みたいな感じで。…ゲロじゃないと思う。多分。


そういうわけで、その少年は病院で検査をしてもらうことになった。もう3歳は越しているので、どういう系統の異能を持つかもわかる。

しかし、そこで下された判断は──


──異能を持たない。


困惑し切った様子の医師から告げられた言葉だけが、脳裏にこびりついて離れない。

持たない?現段階では使えないのではなく、元から使えないのか?

頭がクラクラして、何も考えられなかった。お腹が痛くて、血の気が引く様に一瞬寒くなって、ただただ絶望していた。


病院からの帰り道は、トボトボと悲壮感溢れる様子で、母親もそんな少年に対しかける言葉が見つからない様だ。

家に帰り父親にもこのことが伝えられた。


ただ、それでも両親は変わらずその少年を愛してくれた。「異能がなんだというんだ、大切な息子に変わりない」と言ってくれた。なんて心優しい両親だろうか。彼は、せめて両親を悲しませない様に、学校に行ったら勉強は頑張ろうと決意した。そうすれば異能が使えない分と合わせてもプラマイゼロになるんじゃないかと。


しかし悲しいかな、少年は田舎に住んでいた。田舎ということは狭く、地域の噂が広がるのも早い。

少年が病院で異能検査を受けて異能を持たないと判断されたという話は、瞬く間に広まった。


少年はいじめられた。みんなが当たり前にできることができない、そりゃあいじめの対象にはなりうる。むしろいじめられない方がおかしな話とも言えるほど、自然な流れだ。


最初は陰口や揶揄いから始まり、次には持ち物を隠された。その次は面と向かって暴言を吐かれた。段々とエスカレートしていき、遂には殴る蹴るの暴行が加えられるほどになった。

たくさん惨めな思いをした。何で自分だけこんな目に遭わなければいけないのだと何度も自問自答した。辛い、苦しいと何度も思った。


しかし彼は、不思議と死にたいとは思わなかった。心優しい両親を悲しませてはいけないと思ったからだ。

そして、この状況を仕方ないと受け入れてもいた。

自分が異能を持たないとわかった時点で、社会から除外されるべき存在なのは、早熟な少年にはわかっていた。これから先いっぱい苦労するだろう。これはその初期段階なんだ、とどこか俯瞰気味に受け入れている節があった。もちろんまだ子供なので『初期段階』などという語彙を持たないが。


それでもやはり辛い。毎日の様に暴言を吐かれ、暴力を加えられ。何で自分がこんな目に遭わなければいけない、と何度も繰り返した問いを頭の中で反芻する。1年後、ようやくこのいじめにも慣れてきた頃に、その問いが変わった。

「なぜ自分はこんな目に遭っている?」

それは勿論、「異能を持たないから」。

なぜ異能を持たないならいじめられる?「弱いから」「力がないから」。「異能がなくては何もできないから」。

そうして考えに考え抜いた少年は、ある1つの結論に到達した。










──全て暴力で捩じ伏せれば解決するのでは?


少年はまさに天啓を得たと言えた。そうじゃん。異能が無いから弱いんでしょ?弱いからいじめられるんでしょ?だったら強くなりゃ良いじゃん。


少年は鍛えた。毎日走り込みや腹筋など、子供が考えうる筋トレをした。筋トレの本を父にせがみ、それらも読み尽くして朝昼晩毎日鍛えた。

当然、初めのうちは目に見える成果は出なかったけど、走るのが速くなっていったり、両親の手伝いで重いものを楽に運べるようになったり、少しずつ成長している実感はあった。


そのうち5キロダンベルを片手で持てるようになったり、硬くて大きい石を殴り壊せたり、クソ重い丸太でジャグリングができるようになったり。

筋トレの成果が目に見えてわかる形で、どんどん成長していった。


そして10年後──


その少年、つまり「俺」も、今や立派な高校生だ。

俺の名はオスニエル・ファルコナー。異能が使えない、普通以下の人間だ。それでも俺は、この世界で普通に楽しく生きていく、そう決めた。


「行ってきまーす!」

「行ってらっしゃい。気をつけてねー」


柔らかな母の声を背に、玄関の戸を開け一歩踏み出す。そして、深く息を吸い込んだ。


「っあー!楽しみだな、学園!」


そう、俺は今から都会の大きな学園に通うのだ。新しい環境、新しい人々。これから出会うのが楽しみでしょうがない。


「グウウ…」

「!」


ガサガサと音がして、近くの茂みからのそりと出てきたのは──熊だ。

体調は2メートルほどあろうか。大きな鉤爪、鋭い牙。普通の人間なら恐怖で後退りするだろう。

異能を持っていても、戦うことに慣れていなければ、なかなか冷静には対処できない。


──だが俺は対処できる。


相手は力でこちらを捩じ伏せようとしている。ならば俺がとるべき行動は?


「よいしょ」

「グオオオオ⁉︎」


答えは簡単。俺も力で捩じ伏せれば良い。自然にスタスタと熊の元まで歩いていき、鳩尾の辺りを軽く蹴った。熊は面白いくらいに勢い良く吹っ飛んで地面に転がる。


「ったく、これから楽しいワクドキスクールライフを満喫しようって時にさぁ…」


せっかくの楽しい気分が台無しだぜ。まぁここ田舎だからそりゃ熊くらい出るけどさ。タイミングってもんがあるじゃん。


「ま、良いか!1発気合い入れ直せたし!」


よーし!目一杯学園生活楽しむぞー!


「グウ、ウウウ…!」

「あーもう何?また出てきたの?ほーら、森にお帰り」

「ガァァァ⁉︎」


何?そんなに蹴られたいの?マゾなん君?




オスニエル・ファルコナー

本作の主人公。生まれつき異能が無い世界のバグ。己の弱さを悔やみ鍛えまくった結果、異能って言われても納得できるレベルの頭おかしい怪力を手に入れてしまった。身体能力チート。


熊さん

映えある犠牲者第一号。このあと巣穴に戻って妻と子達で「何あの人間ヤバくね…?マジおかしいでしょあの怪力バカかよ」みたいな会話をしてる。

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