第1話(後編) 傷心中の女の子を慰める系ラブコメ
昨日は驚きの連続だった。
普段だったら美少女と話せることはご褒美以外の何者でもないけれど、昨日のは流石に例外だ。
「おーい、四葉見てる?」
やべ、昨日のこと思い出してて何も話を聞いてなかった。
「なんだよ高橋?」
こいつは高橋圭二、一年の頃も同じクラスだった友達だ。
「見て俺のコケコーラでかくね?」
ペットボトルの容器を股間の位置に置きながらそれを撫でている。
「キッショ!! 動きがダメやん」
ケラケラ笑いながら朝のHRが始まるまでそんな最高に楽しくてくだらない話をしていると、一条さんが教室に入ってくるのが見えた。
「おはよー」
「「おはよー」」
良かった。昨日のことがあって、どんなテンションで学校が来るのかなぁ。と思っていたが元気そうだった。
元気というより「今日は出雲くんにグイグイアピールしてやる!!」という顔をしてるな。
冷静に考えたら今の一条さんってシンプルに嫌な女じゃね? 彼女持ちに色目を使ってる悪女的な……。
もしかしたら俺は相当な悪女を誕生させてしまったのかもしれない。
あれ、俺なんかやっちゃいました?
なんにせよ一条さんの様子が元気そうで良かった。
一条さんはしばらくすると、いつも話してる女の子たちの輪に入っていった。
俺も俺で高橋や他の友達と下トークに花を咲かせる。
俺、四葉黒羽と一条二戸の関係はクラスメイトである。
昨日は奇妙な関係へと変化したが、これからも俺と一条の関係はクラスメイトだろう。
別に一条と友達でも恋人でもブラザーになりたいわけでもない。
特に用事がなかったら喋らないし、会ったら挨拶をするだけの関係のクラスメイトになることに不満はない。……それでも、
応援してるからな。
「なに娘を嫁に出す父親みたいな顔してるんだよ四葉。気持ち悪いぞ」
「大丈夫、高橋の方がキモいから⭐︎」
……鋭いな、エスパーかよ。
■
放課後、なおねぇのカフェに勉強しに行くとカフェの扉の前には不審者がいた。
扉の前で泣きながら体育座りをしてるJKなんて俺は決して見ていない。
今日は家で勉強しよう⭐︎
「四葉君? 四葉君だよねぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「人違いです。さようならぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ミツカッタ。脳内には逃走中の音声が流れてきた。
「そうやって私を捨てるのね!! もう私には四葉君しかいないの、逃げないでよぉぉぉ」
また誤解を生みそうなことをッ!!
「何あれ喧嘩?」
「うわぁ、あの男の人サイテー」
通行人の人たちがこっちを見てコソコソと話をしている。
「分かった!! 分かったから!! 話そう、話せばいいんだろ!!」
カフェに入るとなおねぇと目が合った。
なおねぇは厨房の方を指で指してから、天井を人差し指で指した。
訳:騒ぐなら厨房を上がって私の家でやれ。店で騒ぐな、殺すぞ。
承知しました。俺はグッドサインをなおねぇへと送り、後ろで泣いてる美少女JK(笑)を連れて階段を上がる。
家へ入るとまずは冷蔵庫を開けて水をコップへと注ぐ。そしてそれを一条さんへと無言で差し出す。
「何があったんですか一条さん、『出雲を奪い取る作戦』は?」
「実は……ゴクッ……出雲君にアピールしようと……ヒック……出雲君の後を……ゴクッ」
一条さんは喋りながら水を飲み、そして泣いている。すげぇ、涙を流してるけど直ぐに水を飲んでるから体内の水分は減らない! 永久機関が完成しちまったなぁ。
「四葉君、話聞いてる⁉︎」
「キイテルキイテル」
一条さんが出雲のストーカーと化したって話だろ。
「それでね、…………出雲君が男の人と付き合ってたの!!」
「は?」
脳の作業が一時的に停止した。
あの超究極天才イケメン陽キャの出雲が?
「見間違いとかじゃないんですか?」
「下校中に相手の男の子と手を繋いでたの!!」
いや普通に仲良い友達とかじゃ……
「そのまま公園でベンチに座ってキスしてたの、しかも深いやつ!!」
友達とかじゃなかった。そういえば「恋人がいる」とは言ってたけど彼女がいるとは言ってなかったもんな。
別に俺は同性愛も全然良いと思うし、出雲の奴も普通に祝福してやりたいと思う。ただ、一条さん可哀想だなぁ。
「あ、あの……もっと良い人が見つかるかもだし、きっと次はいい恋が見つかると思うよ」
「運命の人だと思ったのにッッ!! 小学校の頃の初恋の相手に高校で再開したら期待しちゃうでしょ⁉︎ 出雲君がみんなに優しいのなんて知ってるけどさ!!」
幼馴染っていうポジションかぁ。この世界が一昔前のラブコメなら勝ち筋があったかも知れないんだけどな。
俺は一昨日読んだラブコメの内容を思い出した。
……最近のラブコメじゃ幼馴染って負けヒロインなんだよなぁ。
一条さんの場合、一回敗北した後に追い討ちをくらったようなもんだしな。(by追い討ちをかけた原因の一端)
さっきから温めてたココアを取るために席を離れて、チラッと一条さんを見る。
一条さんは目を擦りながら鼻を噛んでる。そして目は虚空を見つめていた。いや、見つめてるのは虚空ではなく自分のココロだった。
きっと一条さんはココロを整理しているのだ。この作業が終わるのは明日かもしれないし、なんなら十年後かもしれない。
自分のココロがグチャグチャになるほどの恋をして失恋して傷ついた一条さんを見て俺は……羨ましく思った。
それと同時に、傷つくくらい好きな相手がいない虚しさを感じた。きっと今の自分には人に恋する資格がないんだなぁ、と改めて気付かされてしまう。
中学校や高校にも気になる人はいたけど……それが恋愛感情なのか性欲なのか、はたまた別の感情なのかは分からなかった。
中途半端に傷つきたくないし、中途半端な恋愛をしないように気をつけよう。
「もう暗くなってきてるからココアを飲んだら帰った方がいいと思います」
俺は一条さんにココアを差し出す。
「……ありがとう。温かくて、美味しい」
俺は席に座って一条さんがココアを飲み終わるまでスマホをいじる。
ちっくんたっくんと鳴る時計の音とココアを啜る一条さんの音だけが静かな部屋に響いている。
カタンとカップを置く音がした。きっと飲み終わったんだろう。
一条さんは目と鼻がほんのり赤くなってるが、先ほどより落ち着いてるように見える。
「今日はもう暗いので解散、また明日学校で」
カップをキッチンへと運びながら俺は帰るよう促す。
やっと勉強が出来る。早く勉強を終わらせて読みたい漫画があるんだった。
「……話、聞いてくれてありがとう。またね」
少しだけ元気になった一条さんは階段を下って厨房へと向かっていった。
「よーし、勉強するか!!」
鞄からノートと筆箱を取り出そうとした時だった。階段からドタドタと誰かが上がってくる音がした。一条さんだった。
「どうしたの一条さん、忘れ物でもした?」
「言い忘れたことがあって……」
一体なんだろう? もう貴様とは話すことはない。ってレベルで話すことはないはずなんだけど。
「たまに愚痴聞いてくれると嬉しいな。事情知ってるの四葉くんしかいないし。……このままじゃ頭おかしくなりそうだし」
眼がマジだ。眼球は回転していないのに眼がグルグルしてるように見える。
こ、断りずらい。
「お、おっけー」
「じゃあ、またねー」
……今度こそ一条さんは帰ったようだ。
今度こそ勉強をやるぞー! 鞄から筆箱と教科書を取り出して机の上に並べる。
ドタドタと再度、誰かが階段を上がってくる音がした。
「今度はどうしたの一条さん?」
「へぇー、あの子一条さんっていうんだ。黒羽はああいう子がタイプなんだぁ」
なおねぇがニヤニヤしながらこっちを見てくる。うぜぇ……。
「そんなんじゃないよ、昨日みたいに失恋のアフターケアしただけで」
「ふぅーん」
ニヤニヤしながらこっちを見るんじゃあない。
別に俺は一条さんに恋愛感情があるとかそういうわけじゃない。
さっき、一条さんに「たまに愚痴聞いてくれると嬉しいな」言われて嬉しかったとか、ドキドキしたとか、これから関われる理由ができて喜んでるとかそんなんじゃない。さっきからドキドキしてるのもきっと体調が悪いだけだ。
なにこれ、俺ツンデレかよ?
なんだか勉強する気じゃなくなったし気になっていた漫画でも読もう。
そして俺はブックアプリを開いて漫画をダウンロードする。
その漫画のタイトルは……
「傷心中の女の子を慰める系ラブコメ」
第1話終了です。お楽しみいただけでしょうか?
それではまた会いましょう!




